勘違い
声をかけられてすぐ我に返った。
「ごめんなさい。」
早口で謝るとカーテンを閉じ、教師を見た。
睨むようにみたからか、教師は俺に謝った。
「ごめんごめん、いないわけじゃないんだよ!」
なぜそれを言わなかった。
見ず知らずの人に寝起きを見られるのは、どう考えても嫌だろう。
「大丈夫大丈夫。沙希ちゃんさばさばしてるから。」
励ますつもりだったのかわからないけれど、教師は丁寧に名前も教えてくれた。
今度は教師が1つずつカーテンを捲ってから、このベッドを使ってと俺を促した。
ベッドに入り横になってもすぐには寝付けなかった。
さっき見た先輩の姿がまだ脳裏に残っている。
転校生や部活少女とは違って、どこか自分と似ているような気がした。かもしれない。
安易に憶測で人の性格にレッテルを張ってはいけない。
けれど俺の性格上なのか、なぜかよくあたる。
きっと先輩はさばさばしているに違いない。
教師もそういっていたことだ。
さらに言うなら、今の学校生活か、または何かの諦めからくるさばさばかもしれない。どうでもいいみたいな。
見ず知らずの人に寝顔をみられて『誰?』というくらいだ。
そんな仕様もないことを考えている内に、いつのまにか俺は眠っていた。
目が覚めてカーテンを開けた時、ちょうど看護教師が保健室に入ってくるところだった。
会議か何かだろう。
「おはよう。早かったわね。」
時計を見ると1時間もたっていなかった。
それでも随分と頭はすっきりした。
おはようございますと挨拶を返したあと、窓の外を見た。
当然は陽はまだ高い。
「沙希ちゃんは帰ったわよ。」
窓際のベッドを見ていると勘違いしたのか、教師は俺に向けていった。
しかし全くそんなことは考えていなかったので、なんと返したらいいのかわからず曖昧に返事をした。
「え、あ、はい。」
「可愛いわよねー。すらっとしてて!たまに来るのよ。」
「そうなんですか。」
もしかすると僕が先輩に興味を持っていると思われているのだろうか。
一般的な男子高校生ならそうかもしれないけれど、俺は一般とはかけ離れている。
平凡と一般では雲泥ではないにしろ、意味が違うのである。
「あの、俺、別に先輩に興味とかないです。たまたまカーテン捲ってしまっただけで。」
しっかりと言葉にすることではっきりNOと意思表示する。
看護教師は驚いた様子もなく、ただ「えーそうなの?」と含み笑いを返してくるだけだった。
聞こえないように小さくためいきをついてカバンを手に取り、ベッドありがとうございましたとお礼を告げ、保健室をあとにした。