友人と呼べる数少ない友人
本を並べ終えて図書室を出た時、まだ外は明るかった。
ローファーに履き替えて外へ出ると、見知った顔があった。
すぐ横に全く知らない顔もあったから、明らかに部活中みたいだ。
そのままスルーして帰ろうとしたけれど、彼女から声をかけてきた。
「あれ、渡!」
近寄るのは面倒だったので、顔だけ向けて立ち止まった。
彼女の方から近寄ってくる。
「もう帰るの?」
「部活中」
彼女は一瞬疑問が顔に浮かんだけれど、すぐに悟った。
「あー、はいはい。帰宅部ね。」
彼女の後ろから他の部員がこちらを見ているのがわかる。
益々早くその場を立ち去りたくなってきて、俺は会話を切った。
「んじゃ。部活がんばれよ。」
「あ、うん。またね。」
またねと言われても、2年にあがってクラスが別れたので、今ではこうして偶然顔を合わせる程度の関係だ。
もしかしたら次に会うのは半年後かもしれないので、気にせず帰ることにした。
図書室に寄った分下校時間からは少し時間がずれているけれど、ちらほらと同じ制服をきた生徒をみかける。
1学期は本を開きながら帰り道を歩いたりできたけれど、こうも暑いと読む気も起きない。
違う、読む気は起きるけれど、どうにも紙がべたついているような気がして読みたくない。
途端に手持ち無沙汰になって、なんだか落ち着かないけれど仕方ない。
そのまま歩いて駅に着き、電車に乗った。
太陽はまだ出ているけれど、雲があったせいか綺麗な車窓だ。
意識して匂いを嗅ぐと潮の香りもある。
この高校を選んでよかったかもしれない、と思った。
家へ帰り夕食を済ませ、部屋で文庫に耽っていると、真島から電話があった。
友人と呼べる数少ない友人だ。
今日真島は欠席していたから、きっと連絡事項あたりを聞きにかけてきたんだろう。
そんなことを考えながら電話に出た。
「どうした?」
「おっ数週間ぶりなのにその一声かよ。つれねーな!」
真島はバイクの免許を持っている。
夏休み中に半ば無理やりバイクに乗せられて以来だから、2週間ぶりくらいだろう。
曰くタンデムをしてみたかったらしい。甚だ迷惑だった。本当に。
「どうした?」
繰り返して聞くと、真島も俺の性格を知っているからか、すぐに本題に入った。
「今日行かなかったからさ、明日何するんのかなーって。」
やっぱり。予想していた通りの内容だった。
そこで改めて明日のことを思い出してみると、テストが行われることを思い出した。
「テストだって。クラス委員決めの。」
「それだけ?」
「うん。」
「まじかよ! んじゃ明日も行かなくてオーケーだな。サンキュー!」
俺の返答もまたずに真島は電話を切った。
真島は明日も来ないことが確定した。
電話がきたから思い出したのだけど、そうか、明日はテストがあるんだった。
平凡主義な俺は今まで適当に勉強してきたけれど、どうするか。
なんとなく勉強したい気分だ。
気分屋は気分になった時にしかできないものだ。
よし、勉強しよう。
僕は開いたままだった文庫本にしおりを挟み、テーブルへ向かった。