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中学を卒業しようかという頃になって、ようやく学校生活にも慣れて来た。ぼくは窓辺に佇み銀杏の葉が枯れ落ちていくのを眺めていた。
階下から校長がやってきた。最初は誰かわからなかったが、彼はぼくを見ると、ぼくが何をしているのかを察し(ぼくは銀杏の木をただ眺めていたのだが)、妙にその光景に納得したようだった。
まるで、ぼくが素晴らしい行いをしているかのように微笑みかけ、そして去って行った。
* * *
卒業後、ぼくは高校にかなり強い決意を持って通い始めた。それがどのような場所であっても三年間通い続けなくてはならなかった。中学の時のようなことは避けなければならない。そしてそれが功を奏したようだった。曲がりなりにも三年間、まるでそれまで何事もなかったかのように登校を続けた。
当時の高校のクラスメートから、ぼくは社交性がないと思われていた。後になって知るまで、ぼくにはその自覚はなかったのだけれど、気付かないうちにひどいことをしていたのかもしれない。しかし、それでもぼくは高校三年間を何とかやり遂げることで、心の平安というものを手に入れたような気がする。あるいはそれは自信だったのかもしれない。
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しかし、ぼくはなぜこんな文章書きの真似事を始めてみたのだろうか。だれに何を伝えたかったんだろう。そう思って考えてみたんだ。そうしたら、やっぱりぼくは君にぼくのことを伝えたかったみたいだ。
ところで、ここで一つ質問がある(ぼくは自分に問いかけている)。繰り返し出てくる「君」とは一体だれのことなんだろうね?
ぼくは世界でたった一人の君だけにこのへんてこな文章を書いているんだと思う。心当たりがあればよし。ないのであれば知ったこっちゃないってところだろう。
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そろそろ外に出る時が来たようだ。わかっている。これはいつもの長い休暇なんだ。暗い部屋はぼくに安息の時間をもたらしてくれる。しかし、いずれは外の、この世界とも和解しなくてはならない。あるいはそのように努力しなくては。努めることができるというのは人間の美徳の一つなのだから。たとえ相手がどう思っていようともね。あいにく外は雲一つない晴天。ピクニックに行くには絶好の天気だ。