2
誰からもメッセージがないから一人語りの続きをしようと思う。宇宙からの交信を今日も試みるわけだ。ぼくは一体何をしているんだろう。はは、あるいはぼくは気が狂ってしまったのかな?もしくは他の奴らが全員おかしくって、ぼくだけが正常なのかもしれない。それもあり得そうな話だ。
* * *
今日の天気――正確にはぼくがこれを書き終えて眠っている日中の天気だが――は雨だそうだ。もうすでに曇り空。月の光が斑な雲の裏側をこれでもかというぐらいに照らしている。月光が木漏れ日のように雲の隙間をすり抜けて地上に届いている。
でも、ぼくはこの光を受け取ることのできる器を失くしてしまった。あるいは、最初から持っていなかったのかもしれないな。
* * *
そういえば、昨夜、またあの忌々しい夢を見たよ。もう何回目だ?全く気持ちが悪くなる。夢の話なんて君にとって(そこの君だよ!)あるいは退屈な話かもしれない。
でも、そういう話が重要になる場合もあるんだ。少なくともぼくはそう信じている。
* * *
目の前には崖があった。あと一歩でも足を進めていたら、ぼくは下に真っ逆さまだ。そこから真っ暗でなにも見えない遥か下の深淵を覗き込んでいるんだ。まるで計器を忘れた測量士のように、目測で深度を想像しながら。
この空間的な断絶、つまり、ぼくがいる場所から向こう岸までの、此方と彼方との真っ暗闇の断絶がぼくに何をもたらすのか、そればかり考えているんだ。他に何もすることがないみたいにぼんやり眺めながらさ。
ぼくはその断絶に橋を架ける想像をして、あるいはぼくが空を飛んで暗闇を飛び越える空想をして、ひとしきり楽しんだ後でその深淵を実際に飛び越えて向こう岸に辿り着くことを切に願うんだよ。そして崖から飛び降りれば、もしかしたら、何かとんでもなく超越的な力が働いてぼくを彼方まで導いてくれるのではないか、という気がしてくるんだ。
ぼくはそれが夢の中だってわかっているから、なんの心配も不安もなしに飛び降りる。暗闇という得体の知れないものに飲み込まれ、冷ややかな気配がぼくの身体を囲む。
その感覚がやけにリアルな夢なんだ。そして、ミンチになる前に目を覚ますというわけだ。誰にもこの話をしたことはない。まぁこんな話に興味を持つ物好きな人間はそうそういないだろうからね。
* * *
なぜぼくは昨日、夢の話なんて持ち出したんだろう?また誰かに操られていたのかという疑問が湧き出てくる。自分のことを正確にコントロールすることさえできないよ。そういえばぼくの書いた文章を読み返してみたんだ。ひどく子どもじみた文章で驚いたよ。君も子どもと話しているような気分なんじゃないのかな?
でもぼくはそれに異論と唱えたいと思う。つまり、ぼくはわざと子どもに擬態しているような気がするんだ。ぼくには子ども時代と呼べる代物があまりにも短すぎたから、今になって意識的に子どもを演じてみたかったのかもしれない。人生を語るのにシリアスになり過ぎることもないからね。
* * *
幼少期の話をしてみようか。何かしらのきっかけを掴めるかもしれない。
しかし、その前にちょいと訂正を。昨日ぼくは夢についての例の話を誰にも話したことがないと言った。でもそれは間違いだったんだ。一人だけこんな話を楽しそうに聞いてくれる人がいた。なぜ忘れていたんだろう。
彼女だけはぼくの目を見て話を聞いてくれたし、ぼくの目を見て話をしてくれた。本当になぜこんな大切なことを忘れていたんだろう。