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長い休暇  作者: 宮ノ木 渡
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 このメッセージは誰かに届くだろうか。ぼくは今、暗い部屋の中にいる。昨日の大雨から一転して今日は真夏日になるらしい。部屋の中は太陽が南中高度に近づくにつれて肉まんの蒸し器のようにでもなるんだろうな。それでもぼくはこの部屋から出て行かない。これはぼくの約束でもあるんだ。

約束は破っちゃいけないって子どもの時に習っただろう?ついでに言っておくと冷房装置はこの部屋の中には備え付けられていないんだ。なにせ電気が通っていないんだから!


   * * *


 もしこの文章に読み手がいるとすればだが、そんな君にある程度この部屋の風景を伝えておこうか。その方が話が早いということがあるかもしれない(あるいはないのかもしれないけど)。

この部屋には幸いにしてぶ厚いカーテンがかかっているから、それで一日中光を遮っている。ぼくには日差しは刺激が強すぎるからね。今は書き物ができるぐらいの光量があればそれで充分なんだ。その為に古いランプを買ってみた。日常でロウソクを使う習慣が無いからね。


    * * *


 それから目の前には机がある。これは実は祖父の作品なんだ。作品というにはあまりにも実用的だけど、子どもだったぼくに勉強する為の机を彼はこしらえてくれた。木製で釘が何本も飛び出しているけど軽くて持ち運ぶにはうってつけさ。引き出しだって付いているんだよ。

おそらくぼくに立派な人間になって欲しいという願いが込められているんだろうね。余計な装飾は一切ないよ。そのくせに机に向かって一切勉強というものをした記憶が無いんだけどね。天に向かって彼に大声で謝りたい気分だ。


   * * * 


 机と本棚がぼくの部屋のツートップと言えるだろうな。本棚は自分で買った。それに今まで床に積んでおいたものを詰め込んだんだ。引き籠もるには本がぎっしり詰まった本棚は欠かせないからね。チェーホフ、トルストイ、それからトーマス・マン。背表紙が睨みを利かせている。

まぁこんなところにしておこうか。そんなに興味が湧く話でもないみたいだからね。でも、そうだ!ぼくの部屋には電池式のラジオが備え付けられている。壁の中に埋め込まれているそれは、決してコンパクトとは言えないサイズのラジオなんだけど、今じゃぼくは外からの新しい情報をそいつでしか手に入れることができないんだ。

しないのではなくて、できないということにしておいてくれ。


   * * *


 なんとなくぼくが置かれた状況が掴めてきただろうか?こんな部屋の中にぼくは飽きもせずに引き籠っている。部屋の中に長く籠っていると、まるで宇宙空間に一人取り残されたような気分になってくるよ。青い宝石のように輝く地球。それを遠く眺めながら、ぼくは真空のおびただしい量の空間を漂っているんだ。現実に戻ってくれば、地球なんてそんなに美しくは見えないんだけどね。

ちなみに付け加えておくと、ぼくは別に寂しいんじゃないんだよ。勝手に憐れんでくれるのは構わないけど(あるいは蔑むのかな?)、これはぼく自身がきっぱりと選んだ道だから放っておいてくれよ。

ねえ、誰かこの気持ちをわかってくれる?誰もわかってはくれないんだろうね。ぼくはぼくと気が合う人間にこれまで出会ったことがないんだ!これは嘘じゃないよ(ぼくは嘘をつくこともできるんだ!)。


   * * *


 ほら、今になって子どもたちの声が聞こえてきた。ここは幼稚園のすぐ近くなんだ。彼らの甲高い(わめ)き声のおかげでぼくは夜行性にならざるをえなかった、という言い訳を付け足しておこう。

 何か質問があれば気軽によこしてくれ。まぁそんなことが起きるのは、隣町に隕石が降って来るぐらいの確立だと思うけどね。




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