追突
ライトは、「認証エラー」としか表示されない管制室の制御装置を眺めていた。
(もしかして棒で殴ったり、高電圧をかければ、動作するのだろうか、、、)
しかし、こんな原始的な刺激を制御装置にしたとことで、10層の扉が開くとは到底思うことはできず、他に良い考えも浮かばなかった。
突然、周囲が赤くなり、サイレンが大きく鳴った。大型ディスプレイには「重大インシデント発生」と表示されていた。間を置かず、発生した事象が音声で説明された。
「未確認飛行体が、メインタワー63層に追突しました。爆発と火災が発生しています。現在、当該エリアは機能を停止しているため自動消火作業を行うことができません。指示が必要です。」
「追突?」ライトは何が起こったのか、理解ができなかった。
「アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータの管制室に権限保持者がいません。緊急マニュアルに従い、権限の拡大処理を実行します。管制室外の権限保持者からも指示ができるようになります。」
(なんだろ?指示って。全居住者に権限って、もしかして、、、)
ライトは、制御装置の上に手を置いてみた。相変わらず「認証エラー」と表示されている。もしかしたら、解除されてるかもと思ったが、あいかわらず状況は変わっていなかった。しばらくたつと、音声が流れた。
「全区域内に権限保持者がいません。緊急マニュアルに従い、権限を拡大します。指示をお願いします。」
状況の変化を飲み込めず、ライトは立ち尽くしていた。
「指示をお願いします。」音声が繰り返された。心なしか音声はライトに向けて発生されているように感じた。
「何をしたらいい?」と試しに尋ねてみた。すると、ライトの問いに明確な返事があった。
「火災が発生しています。本重大インシデントに対する指示をお願いします。」
「ここから出られたら消してくるよ。」冗談めかして言ってみた。
「承知しました。消火作業のため、メインタワー一階のロビーまでのドアのセキュリティを解除します。メインタワーのエレベータ及び非常階段の利用を許可します。メインタワーの消火装置の利用を許可します。」
ライトは驚いた。
「え?アルファ居住区から出られるの?あ、消火装置って、どこにあるの?」
「出ることができます。消火装置は各層のエレベータの横にあり、使うことができます。ホースの先を火元に向け、ボタンを押すと、消火剤が出ます。」
アルファ居住区のエレベータの横にも消火装置があることを思い出した。そんなことより、何が起こったのか把握する必要をライトは感じた。
「何がおこったのか詳しく教えて」
「十日前、未確認飛行体から攻撃を受けました。対空防衛能力が著しく低下していたため、防御エリア外からの遠距離攻撃を防ぐことができず、致命的なダメージを受けました。この結果、各居住区の管理システムやタワー周辺の防御システムが停止もしくは停止に近い状態になりました。その後、未確認飛行体は認識圏内から離脱し見失いました。」
もしかして、アルファが故障した原因かもしれないとライトは思った。
大型ディスプレイの表示エリアが左右に割れ、左側に3Dフレームで構成された飛行体が表示された。その飛行隊の映像の下に"unknown"と表示され、飛行隊がクルクル回りはじめた。右側には、遠方の光点が拡大し、数秒後に光に包まれるカメラ映像と、追突した箇所が赤く点滅しているフレームで構成されたタワーの全貌図が交互に表示された。
飛行体は、ライトの知識の中では、戦闘機というより、空飛ぶ自動車に近かった。まるでSF映画の中の出てくる乗り物に近いと感じた。タワーの全貌からは、タワー全体の構造が理解できた。アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータと名づけられた同じ構造をした居住区が六角形の頂点の位置に存在し、その頂点の位置にメインタワーの地下3階が存在していた。各居住区の10層からの通路が、メインタワーの地下3層に集まっており、メインタワー自体は80階建てだった。
「十日前攻撃してきた未確認飛行隊が戻ってきて、先ほどメインタワー62階に追突し大きな爆発が起こりました。スプリンクラーなどでの自動消火の機能が停止しているため消火することはできず、現在、火災が上層と下層へ拡大しています。」
大型ディスプレイの表示構成が変わった。エリアは3分割され、左側に飛行隊のフレームが、中央にタワーのフレームが表示された。右側はさらに上下に分かれ、上部に10日前に攻撃を受けた光点が拡大する映像が表示され、その下部にタワーに追突する直前の飛行隊の至近距離の静止画が表示された。至近距離の飛行隊の映像を見たら、なおさら、戦闘機というより丸みを帯びた空飛ぶ自動車という印象を受けた。
その時、立ってられないような大きな揺れと唸るような低音が突然発生し、赤い点滅がタワーの映像全体に一気に拡大した。
「火薬庫に誘爆しました。メインタワーの機能は致命的な影響を受けています。全機能の98%が停止しています。」
その後、何か得られる情報がないか質問を繰り返してみたが、消火作業に関連しないことについては、返事がなかった。そうしているうちにも、タワー映像で赤の点滅が点灯状態に変わる部分が次第に広がり、状況がおそらく悪化していることが理解できた。
新規の情報がえられそうにないため、ライトは10層からメインタワーに向かうことにした。