ドア
久しぶりの投稿です。
ライトは自室に戻ると、扉を閉めベットに横になった。
少し時間が経つと、自分が人間でないことはそれほど大したことではないような気がしてきた。また、不思議なことにアルファに対する不信感も和らいできた。
逆に、アルファ居住区の外を確認することの方が重要なことに思えてきた。
アルファから聞いたこれまでの出来事が事実なら、他の居住区の外に生存者がいる可能性は低いと考えられる。唯一の話し相手であるアルファがいなくなると、相当つらくなりそうだと感じた。
(仕方ない...アルファを助けるため、居住区から出ることにするか...)
両足を上げ、その足を振り下げる反動でベッドから起き上がった。
そして、「アルファ」と呼びかけた。
部屋の片隅にアルファが現れた。アルファは呼びかけるとどこにでも現れるのである。
「何か出るためのヒントを教えてよ。」
「それは、無理。10層のドアを開ける方法はない。。。アルファ居住区に存在する物質で傷をつけることができないことは分かってるわ。もう計算済みよ。ドアのロックをアルファは解除できないの。」
「え、何か方法はないの?」
ここから出るためのヒントをアルファから得ようとしたが、それは叶わなかった。アルファの結論は、どう計算しても出る方法がない、の一点張りだった。唯一の望みは、管制室に何かヒントがあることにかけることしかないとのことだった。
「厳しい状況だなぁ、、、」
それから10日間は、何も新しい事は起こらなかった。
これまでと違って、特定の物に対して念じると、その物体に重ねてその寸法や材質が表示されることは斬新であり、色んな物を見て回ったが、それだけのことであり、物体に寸法を重ねて表示させることには次第に飽きてしなくなった。
アルファと別れを惜しむために、色々話そうとしたが、それほどお互いが悲しい感情にもならなかった。これまでの見てきた映画などの別れのシーンを思い浮かべ、もしかして、人間なら泣くのかなとは思った。
それから10日後、アルファを呼び掛けても現れなくなったことを確認し、管制室に向かった。管制室のドアはスーと今まであかなかったことが嘘のように自動的に開いた。アルファが言っていた、アルファがいなくなると、管制室に入れるようになるというのは本当だった。
ライトが管制室に入ると同時に、部屋の明るくなり、円形の部屋の奥の壁には、大型の表示装置とそれと正対して10席ほどの机と椅子が存在していることが分かった。
ここで大きな争いがおこったことであろうことは即座に理解できた。ボロボロの衣服に包まれた風化した20体ほどの骨や、血の跡が残っていた。ライトが初めて見る人間の痕跡である。衣服の襟元には階級章がついてあるものもあり、ある痕跡の階級章をライトがを見て、その図案に対して懸念を持つと、親切にもライトの視野に「二等陸佐」と丁寧にも自動的にガイドが重ねて表示された。
各机の上には、横30cm、縦20cmの長方形の矩形が存在し、その上に手を翳すと、青白く光り、その後、「認証エラー」とその矩形に表示された。アルファによると、これが入力デバイスであり、手をかざし念じることで制御すると聞いていたのだが、そもそもライトにはアクセス権限がないようで、何も得ることはできなかった。
管制室の探索で得た一番の成果は、レーザーを照射するタイプの簡易武装用の銃である。銃と弾は、これまでも3層の工作室を使えば製造できたが、レーザー型は、空間に自然に存在する磁場と電場の揺らぎを高密度なエネルギーに変換する特殊なモジュールを工作室で作成するこが出来なかっため、ライトには製造することはできなかった。今回、その特殊なモジュールが見つかったため、多少メンテナンスが必要だったが、使える状態となった。このレーザー簡易銃は、弾やエネルギーの充填なしに使うことができる長さ22.5cmの銃である。最大射程は30mの比較的短距離だが、10cmの照射点での温度は1600度を越えるため、鉄を溶かすこともできることが特長である。ただし、連続して利用すると、チャージするため、しばらく使えない状態になる。
管制室の壁には、収納用の扉の付いた棚があり、中には、ヘルメットや防毒マスクなどが備え付けられてあった。何か情報が得られないかと、各机の入力デバイスをあれこれ触っていたが、ライトは認証エラーを表示させること以外のことはできず、ついには諦めて管制室を退出することになった。
管制室で入手したレーザー簡易銃と、工作室で作成した棒状の金属、同じく工作室に存在したバッテリーを細工して作成した高圧の電気信号を発生する機器を持って10層に赴き、ドアを棒で殴ることから始めた。
そして、ドアの前でライトは途方に暮れ座り込んでいた。足元には棒状の金具類、レーザー簡易銃が散乱している。高圧電気信号を認証ロックにも与えてみた。レーザ簡易銃をしばらく照射してみた。ドアは焦げているが開きそうな気配はまったくない。
「こりゃ、お手上げだなぁ、、、」
もしかして、出られないかも、、、
暗い気持ちで、ライトは管制室に戻ることにした。