警告
「警告します。10日後、致命的なエラーE1042が発生し、機能継続ができない状態になる可能性が約99.321パーセントあります。速やかに作業中の処理は中止し、全機能を停止後、パーツ番号b-1-8-aを交換し再起動してください。」
アルファが言った内容も驚いたが、それ以上に、美人な顔に表情はなく機械っぽい音声で淡々と事務的な内容を伝えるアルファも衝撃的だった。ここで、何かのスイッチが入ったか如く、アルファの目はライトの目を捉え、いつものくだけた人間らしい口調に戻り発話を続けた。
「ライト、聞いて欲しいことがあるの。」
いつもより暗い感じでライトに話しかける。
「え、今 何か言った?部品の交換?再起動って?」
「...アルファは10日後いなくなるわ...」
「ちょっとなに冗談言ってるんだよ。突然おかしなこと言うなよ!」
あまりにも想定外であるが、アルファが非現実的なことを言ったり、揶揄うことをしないので、受けた衝撃は大きく、思わず声を荒だてた。と同時に直感的にこれは真実だと感じた。
「アルファがいなくなる前に、話しておきたいことがあるの。これから生きていくのに必要なこと。」
「...」
ライトは思考がまとまらず言い返せない。
「アルファは、273年前に生まれた、、、というより、目覚めたのかな?この10の層で構成されるアルファ居住区のインタフェースとして設計されていたの。私の連続稼働の耐用年数は100年なのよ。よくここまでもったと思うわ。」
「何言ってんだよ。壊れたのなら直せばいいじゃん...」
ライトはやっとのことで口を開いた。
「直せないの。アルファはこの居住区の中しか見えないし直し方がわからない。つまり交換が必要な部品がどこにあるのかわからない。それが見えないの。アルファの役目はあくまでも、アルファ居住区にいる人間のためのインタフェースなのよ。」
「え、インタフェースって?」
「1層に居住区の管制室があるわ。でも、ライトは入れない。この居住区の管理をしているのはそこ。アルファは、ライトが過ごしやすいように考えて管制室の機器に伝えてるだけなの。そういうことをインタフェースというのよ。だから、私がいなくても居住区の空調は最低限だけど管理され、暗くなったりすることもないわ。管制室の制御コンピュータで直接操作すれば、複雑な指示もできるわ。この居住区にはライトの声を聴くセンサーが多く備え付けられているし、1層にいかなくても、小型ロボにどこでも指示を出せるし、ライトが当面生きていくには問題はないわ。」
「管制室に入れないのは知ってる。そんなことより、一人になるなんて大問題だよ。この小型ロボって話せないじゃん。話し相手がいなくなるよ。」
ライトは、いつもお供としてついて回っている2台の小型ロボを一瞥した。少し涙目になってきた。ライトが幼い時、アルファは母であった。そして姉に思うことも。最近は、ライトの方も背が高くなり、恋人のような思いも持っていた。その存在がいなくなると宣言しているのである。ライトには、彼の世界で唯一会話できる存在がいなくなるということを認めたくなかった。
「私が起動できなくなったら、居住区のセキュリティキーがすべて解除され、どこでも入れるようになるわ。つまり、1層の管制室に入れるようになる。他にも、色々制限が外れる...例えば、4層の医療カプセルでできる医療機能の上限レベルも上がるわ。手動でだけど記憶の書き換えや蘇生のような危険な医療行為もできるようになるのよ。これから新しくできるようになったこと、新しい機器の操作方法を教えるわ。ライトなら大丈夫よ。」
「大丈夫ってなんだよ。オレが一人になるじゃん。それはどうしたら良いんだよ。」
「そう、ライトは、なぜ他の人間がいないのか疑問を持ったことない?」
アルファは、ライトが初めて聞く話しはじめた。