居住区
これから物語が始まります。
土日に投稿できたら良いなぁと思ってます。
とんでもない事件に巻き込まれていき、成長させていきたいです。
ドアの前で一人の青年が途方に暮れ座り込んでいた。足元には棒状の金具類、レーザー簡易銃が散乱している。また、高圧電気信号を与えるためのバッテリーから伸びた配線が認証ロックに接続されている。ここ数日、青年はこのドアを開けようと躍起になっていた。
ここは「アルファ居住区」と呼ばれる場所である。青年が座り込んでる通路は、端と端がつながり歩いてでも1分もあれば一周できそうな通路である。その円形の通路の外縁側に合計24室の同じ規格の居住室が並んでおり、一部屋に2段ベットが二つずつあるので、4人ずつ収納することがができる。風呂やトイレ、キッチンはない。円形通路の内縁側には共有スペースがあり、円盤型の居住区を10層重ねることで「アルファ居住区」を構成されている。全ての層の共有スペースにはトイレがある。各層には固有の役目を持つ部屋があり、例えば5層には男女別の大きな浴室がある。6層には食堂があり、7層には6層と連携して動作する調理スペースと食料貯蔵庫がある。また、1層から10層までの円形通路の内側に2機のエレベータがあり、自由に上下に行き来ができる。円形通路のちょうど逆側に階段があり、青年は10層から別の居住区に出るはずのドアの前に座り込んでいるところである。
青年はこの居住区で生を受けた。物心ついたときは一人だった。正確にいうと、人型をした身長1mほどの金属的ないかにもロボな2体と、いつでもどこでも呼びかけに応じて現れる若い女性の姿をした高性能人工知能「アルファ」と一緒に暮らしていた。「アルファ」は立体映像であり、実体はないが、代わりに2体の万能型小型ロボが彼女の手足となった。「アルファ」によると、この小型ロボは居住区全体で100体配備されていたのだが、時が流れるのに従い、主に関節を構成する駆動系の磨耗による故障が発生しはじめ、リプレースパーツが不足しがちになり、次第に数を減らし2体にまで減ったとのことだ。他に各層には掃除ロボや調理ロボなど特定用途型のロボが多くいたが、故障によって数が減り、全層を機能させることができなくなっていた。そのため、現在は青年が利用している8層から10層に全ての機能するロボを集め、かろうじて衛生的な生活を維持しているのが現状である。
「アルファ」は身の丈176cm、比較的長身で、スリムであるが出るところは出た美人である。目は大きいが細めで鼻筋は通っている。アルファが言うには、最も好まれるような姿をアルファが計算するとこうなったらしい。姿や声色は自由に老若男女、好きなように変えられるらしいが、そういう姿を見せたことはない。彼女は腰まで美しい黒髪がまっすぐ伸びており、瞳の色は黒。設定上の年齢は25とのことだ。
青年の名は、ライトという。「アルファ」が膨大なデーターベースから確率的に縁起の良い名をつけた。年は16歳。短めの黒髪、痩せ型の長身。肌に密着した光沢のある機能的な衣服を常に着ている。彼は1日の大半を2台のロボと農作物の栽培に費やし、彼が住む8層から10層の共用スペースで、自ら食べるための農作物を栽培してすごす。元々8層はジム、9層はプール、10層は多目的広場であったのだが、農作物の栽培に広い場所が必要であり、ライトが生まれる可能性が確実になると、「アルファ」が当時はまだ16体稼働していた小型ロボをフル稼働させ、3層の工作室の機器を使い、木製の家具類を細断チップ化し、大量に存在した衣服の化学繊維を糸状にほぐし、漉き込むことで大量の土を生産した。さらに、4層の医務室に保管されていた有機化合物をベースに、作物の成長に必要不可欠な土壌細菌類を合成し、10層の広場に元々存在した観葉植物の土や、各居住室に残る鉢植えの土を総動員し、農作物を栽培するための土を用意した。
彼が農作業する時間以外は、料理をするか、無尽蔵に存在する映画や音楽のデジタルコンテンツや本を楽しむことに時間を割いていた。また、「アルファ」から数学などの基礎学問や、ロボのメンテナンスの手法などを学んでいた。
予測外の事象は発生しないため、計画的で単調な生活となり、特に何も疑問も抱かずライトは毎日過ごしていた。しかし平穏な日は、今日から数えて十日前、居住区全体が揺れる大きな揺れを感じた時に終わった。突然9層の通路で「アルファ」が目の前に現れた。彼女から自発的に現れたのは初めてのことであり、ライトは非常に驚いた。彼女はライトに視線も合わせず、会話....というより発話した。