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01

矢が尽きて、短剣に持ち替え多勢に無勢の戦闘を繰り返して一体どれほどの時が過ぎたのだろう。


限界など、とうに越えている。肩で息をする自分に、相手はおかまいなしに仕掛けてくる。ここが平野ではなく岩場であることが幸いだろうか。


否、逆に体力を消耗しているだけかもしれない。何せ、谷にある岩場なのだから。


あちこちにある傷の痛みは既に麻痺している。感覚が無くなってそちらに気が散ることが無いのは幸か不幸か。


肺にある空気を全て吐き出し、大きく吸い込む。一時的に身を隠していた大岩から飛び出し、残り少ないダガーを投擲する。相手の利き腕に刺さったのを横目に、襲いかかる別の相手に短剣で応戦する。


少なくとも自分にとっては激戦の最中でも、頭の中では様々な思考が入り乱れていた。


戦いながらでも考え事をするほど自分は器用な人間だったのか。

限界を越えても体は動き続けているなんて、人間とはつくづく面白い。皮肉にもこんなことにならなければこんな自分は知らなかっただろう。

残る敵はあと何人だ?


ぐるぐると思考が渦巻いていても、体は生存本能に従ってか、襲い来る敵と応戦し続ける。


がむしゃらに戦い続け、残るは十数人の兵士と彼らを率いる幹部の一人のみ。


いよいよ安らぎの瞬間も近いか、と小さく息を吐いてた隙に、今まで静観を決め込んでいた幹部が一瞬の間に肉薄していた。身構えることも出来ず足を払われて転倒する。背負っていた長剣を喉元に突きつけられ、満身創痍で体力は限界を越えていた体では起き上がることも出来ず、されるがままになる。


幹部は細身で高身長の髪の長い男だった。長剣を突き付けたまま、無言で見下ろしてきている。


なんでこいつこんな髪長いんだ。女も羨ましがるサラサラ具合だな、なんて風に靡く彼の黒髪を眺め、そして顔に視線を移す。遠目から見てもかなりの美形だった。若い頃の自分なら歓声を上げていたことだろう。


地面に伏せった自分からは背が高い彼の表情は、翳っていてよく見えない。


あぁ、だが今はそんなことはどうでもいいのだった。自分の最期はこいつによって齎されるのだろう。ようやく求めていた終焉が訪れる満足感からの笑みが浮かぶことを自覚した。


未だ思考は様々に蠢いている。だがそれも、長剣が振り上げられると同時に一つに収束した。


「っ」


長剣が振り下ろされる瞬間、見開かれた銀色の瞳が脳裏に焦げ付いて、暗闇が訪れた。





ギルドの長は、執務室にて背凭れの高い贅沢な椅子に背を預け、窓の外を見つめていた。


数日前のこと。とある女が暗に捨て駒になれという命令を静かに微笑んで受諾した。

女は命令を述べた私に対し、安堵の表情でこう言ったのだ。


『死ぬ理由をくれてありがとうございます』


ギルドの長は彼女がとても窮屈な生活をしていたことを知っている。だが、我々ギルドはそんな彼女を自由にしてやることも出来ず、結果的に飼い殺しにしてしまった。


女は曖昧な立場だったのだ。能力者や未覚醒の能力者までも見分ける能力者によって彼女は未覚醒の能力者だということが判明した。だが、手を尽くしても覚醒の兆候は現れず、非道な手段に手を出すしか無いのかと言うところで、穏健派との口論が続いていた。


ギルドに来たばかりの頃は心細いという表情ばかりだったが、ギルドに慣れ始めれば表情豊かになっていた。しかしそれも長くは続かず、最近の彼女は感情が抜け落ちたような無表情ばかり。


久方ぶりに見た笑みが、あの悲しい微笑みなのは残念なことだった。


本部の戦力のほとんどが支部へ分散されていた状態での、クランからの侵攻が発覚。最も安全とされる本部には、偶然にも戦える能力者が全くいない状態だった。


戦闘員が本部に辿り着くまで時間を稼ぐ必要があることは明白だった。だが、本部で戦える者はギルドの長である自分を除いておらず。自分が出ることを必死に止める者達の中から、女に足止めの任務を任せるべきだと言う声が上がった。


彼らも必死だったのだろう。その意見に次々に賛同者が現れ、もはや決定事項となってしまった。

追い詰めれば能力が覚醒するかもしれない、という理由もあったのだ。


故に、ギルドの長は渋々ながら命令を下すしかなかった。


例え、彼女の微笑みによって己の下した命令をどんなに後悔しようと、一度決定した事を責任者として覆すわけにはいかなかった。


「失礼致します」


静寂を破るノックの音に軽く返事をする。入室してきた諜報部隊の隊長はいつも通り作り笑いのポーカーフェイスで報告を述べた。

その内容に眉を顰めずにはいられない。最悪な結果となったのだ。


「敵に連れ去られた、か」

「ええ。53人のクランの一般戦闘員の死体が確認されましたが、我が隊が到着した時には敵の姿は確認出来ず、そして、焔緋の死体も確認出来ませんでしたので、おそらくは」

「そうか。ご苦労だった」


クラン側には、彼女が未覚醒の能力者であるという情報は漏れていない。しかし彼女の利用価値はそれなりにある。クランには過激な行動に走る者が多い。彼女はここにいた時以上の苦しみを味わうかもしれない。

無論、彼女が死んでいる可能性もおおいにある。


やはり、辛酸を舐めることになった。


「うちの精鋭があちらさんの本部に潜ってますから焔緋の存在が確認されれば報告があがります。それを待ちましょうや」

「… わかっている」


隊長は肩を竦めて長を見やる。昔から割り切れずに要らぬ気苦労をするような性格だ。何を言っても聞き流すだろうと、隊長は素直に退室して行った。


ギルドの長は一つため息を吐くと、頭を切り替える為に机上の書類へと手を伸ばした。


下書き無しで書くのがこんな時間かかるとは思ってませんでした


主人公の名前は葉風はかぜ焔緋えんひ

ギルドの人達には名前しか名乗ってません。22歳になって異世界転移し、優しいけど残酷なギルドの人達に囲まれて二年というところです。


魔術の類はありませんが代わりに能力者がいます。能力はピンからキリまで様々。能力者が能力使う時に解説を入れるつもりです。

魔物もほとんどいませんがキメラなどはいます。

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