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奴は四天王でも最弱……



翌日早朝。太陽が世界に現れようとする前の透き通った空が支配する時間に、ある部屋に集まる者がいた。部屋に明かりは無く何となくの気配でしかお互いを認知出来ない程、暗く奥行すらも分からない。



「……スクラダが死んだようだ」



輪郭でしか分からないその者は、野太くしかしそれに反して冷たい声を出す。




「デュフ、でゅふふ。まあまあ、読めていましたからねェ。あ奴はどこか私達に嫉妬していた節がありますからねえ。大方それを利用して逆にジェラシーに喰らわれたんじゃないんですかぁ? 」




喋ろうが喋らなかろうが分かるぐらいには呼吸が浅く、太ましい声を出すモノが一人。



「いや、それはないよ。僕が保証する。だってそれなら僕が分かるもの」



暗い部屋には似つかわしくない、朗らかな声を上げる者。しかし根底に酷く鬱屈としたモノが滲み出ている。



「ははっ、そりゃそうだろうな。あの武器はあんたの手足といっても過言じゃねえしな。物理的にも精神的にもよ」



対照的に声そのままといった明るく活動的な声を持つ者が、それを遮る。




その場にいるのは四人。いずれも世界を蹂躙し壊そうと動く"五帝"の者。



「いやはや。おぞましいというかなんというかぁ。総統閣下は相も変わらずおかしな方ですなァ」


「あはは。いやあ。だってもしもの為に持たせておけば少なくともヤッた奴とスクラダごと喰ってくれるでしょ? ジェラシーの消費する能力は効率が悪いし。どうせならって、僕は思っての事だったんだけど」


「だけど、喰われてねえ。つまりスクラダもジェラシーも両方倒した奴がいるって事だよな? 」


「うーん。残念ながらそうみたいだね。スクラダも勿体ない事をしたなあ。どうせ死ぬならジェラシーに喰われて死んでほしかったのに」



その声には憐憫など無い。あるのはただただ出来の良い人形が解れてしまったのを嘆く主人だ。



「誰かなぁ。人族? 魔族? それとも他の部族かな? そこまで強いなら僕らが知っていてもおかしくないと思うんだけど」


「勇者じゃねえのか」


「残念ながら違うみたいなんだよね。それどころか勇者も誰かにやられたみたいだよ。さっき連絡があったからねえ」


「ほかにも転移してきた奴がいるのか? 」


「案外その辺りかもね。あーあ、神様も面倒な事をしてくれるなあ。その人も僕たちの仲間になってくれるといいけど。敵になったら倒さないといけないじゃないか」


「いわゆる、主役級だったらどうする」


「ん? そんなの決まってるだろ。適度に仲間になって適度に改心して、生かさず殺さず歪ませなきゃ。敵になったら勝てないからね。所詮は悪役、主役には真っ向から挑んでも無理さ。大丈夫、きっと話せばわかってくれるよ」



あはは。と人の好い印象を与える柔らかな声で笑うその姿は、暗くて分からないが本心から吐き出しているのだろう。



「……貴方のそういう所ぉ、私は怖いと思いますよぉ。敵に回したくないですねぇ」


「? 何を言ってるんだい? ボクらは友達じゃないか。敵になるはずがない。仲間じゃあないか! 」


「仲間なら、私達にこんなモノ渡してこないと思うんですけどねぇ……」


「その"神装武器"は僕達が仲間になってる証だよ。まったくもう、君達が必要としてるからあげてるんじゃないか。それを僕が強要してるみたいに言うのは酷いと思うよ」


「………」


「それにしても僕が呼びかけてるのに五人集まらないなんて、酷いや。他の二人はどうしたの? というかむしろ一番来ないと思ってた子がいるのが逆に僕はびっくりしてるんだけど」


「強敵の匂いを感じたからな。話だけ聞きにきたんだよ」


「……むう。もし主役級だったらできれば戦って欲しくないけど。まあ僕は君たちを信じてるからね。きっと汚く卑怯に勝ってくれるに違いない」


「それだが、一人は研究で出れないという事だ。もう一人は……その、言いにくいが」


「どうぞどうぞ。気にしないよ」


「五帝を抜けるらしい」


「………………。……えええええええええええッッ!!? まだ出てすらいないよッ!? 僕らの硬い信頼はどこにいったの??? 」



大層驚いたように話しているが、その声の調子からはまるで驚いた色が混ざっていない。



「たはは、まいったなあ大将。それなら俺も、"抜け"だ」


「あれ、あれれれ?? キミはてっきり抜けないと思ってたんだけど。あれほど僕と闘いたがってたのに」


「今でも変わらないぜ。あんたと闘いたくてウズウズしてる。……けどな、もっと戦いたい奴が出てきちまったんだ。もうこだわる必要もねえ」



空気が変わる。



「僕が、そいつに劣るとでも? 」


「話を聞いた限りじゃな」



静寂が時を奪うかのように支配する。これが一国の王なら斬り捨てられてもおかしくないくらいの不敬。



「あはははッ! いいぜ、出るなら出ても。止める所か推奨しよう! 君はこういう枠組みにいない方が強いだろうし、もともとそういう約束だったからね」



しかし逆に気に入ったらしく、その声からは今日一番の喜びが滲み出ていた。



「ありがとよ。恩に着るぜ」


そこから出ていこうとする者は、思い出したかのように音を止めて再び元の場所へと戻って来た。


「そうそう、これを忘れてた」


「"神装武器"インセニティ。自らが狂っていればいるほど強くなる武器。君はわざわざハンデを作っていくつもりかい? 」


「一応、あんたには感謝してるんだ。だからこれで戦うのはフェアじゃねえ。それに、抜けるのに持っていったらおかしな話だろ」


「それもそうだね。これがなくても僕は君を友達だと思っているから、いつでも戻っておいで」


「ああ、またな。総統閣下サマ」



少なくとも部屋の中よりは明るい光が差し込み、再び閉じられた。



大将とも閣下とも呼ばれた者は、名残惜しそうに吐き捨てる。



「もう会う事はないだろうけどまたね。ちぇっ、もうちょっと安っぽい友情を続けたかったのになあ。まるで巣立ちを見る親のようだよ、まったく」


「閣下はどうするのですかぁ? 」



「どうもしないよ。僕は暫く様子見さ。今まで通りこの世界を壊す為に動く。それに喧嘩を売っちゃったら仲間になれないだろ? もしも僕が負ける相手ならそういう可能性も残しとかないと」


「閣下は相変わらず異端ですねえ。……貴方のような方を邪悪と呼ぶのだと思いますよぉ? 」


「ありがとう。だってやるからには勝ちたいじゃないか。卑怯で卑劣で下劣で汚らしく勝たないと。間違っても僕は清く正しく生きるなんて事は向いてないよ。やれることが減っちゃうからね」




其の姿は、正しく悪であり、敵だった。

気付いてるかもしれないですが、五帝なのに五人ではありません。それぞれに意味がある。……といいなあ(遠い目)

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