強くてニューゲーム
「くそったれ! また幻術なのか!!? 」
『いや、幻術ではないのじゃ! 』
お前ら仲良いな……。俺は砂の忍びじゃないぞ。
俺はスクラダの出すいくつもの魔法や技を全て破壊していった。具体的にはスクラダのプライドをへし折るように、適当な感じで。
その度に表情が歪みなかなかいいリアクションをしてくれたら、やるしかないだろ。ご自慢のサーベルを叩き折った時の絶望といったら、最高だったぜ。
「まけ、負ける。私が、この私が……? ゆる、許さ、ゆるされる訳が無いっ。私は五帝の一人なんだッ! お前みたいな人間に負けるべき才能ではないのだッ!! そうだ。そうとも、私は、最強なのだから」
結果。精神崩壊を起こしたらしい。肉体も物理的にボコボコにしてやったが、それより先に精神が限界を迎えたらしい。
オリジナル魔法とか最強の技とかいう度に片手間で破壊してしまったからだろう。
「大体、私がお前のステータスを見れないというのもおかしい。わ、私より上な訳が、ないッ! 」
どうやら俺の事をしっかり調べていたらしいが、残念。どうやらこちらの世界でもレベルが自分よりも圧倒的に上の奴のステータスは見れないようだ。
俺のレベルは999だが、999になれば見れるかもなあ。試したことも試されたことも無いが。
スクラダはゆらり、ゆらりと体を揺らす。その後に彼はぼそりと呟いて何もない空間に向かって腕を突き出した。ぬるり、歪んで捻じれて混ざって禍々しい一つの剣が現れる。
その剣はスクラダに向かって根を張るかのように浸食し、彼の肉体を異様に膨張させた。
「は、はははッハハハハハはははハ!! 力がァ、力が沸いてくるじゃないかァ! けれど、オマエのその力も羨ましいなァ!」
「ん? 」
あの武器は見覚えがある。あれは前の世界にあった"神装武器"じゃねえか。確か、神様が人に与えた感情に名を付けて堕とした武器だった筈だ。そして"神装武器"それぞれの感情に合わせた能力があるが、あれは確か……。
「『嫉妬』のジェラシーだったか」
「ほウ? よくこのナマエを知っていますねェ? 」
そりゃ全部が全部感情そのままの名前してれば、いやでもインパクト強すぎて覚えるわ。この際どうしてこっちにもそれがあるのかという事は置いておこう。
武器本体の力に呑まれて、スクラダの精神は原型が無くなってしまっている。いや、増長されているだけか。普段よほど鬱屈していたんだろう。
「ひハははハ! そうです。私は貴方達の才能が羨ましかったァ! けれどこの神装武器は他者に嫉妬すればするほど自身のレベルを上げるゥ! つまりそれはワたシの才能の他ないのでハ? 」
ジャイ○ンかよ。
スクラダの振り下ろされる太刀筋は、先程までより遥かに早くなっている。一太刀事に太い樹を斬り、俺の影を追い詰める。
面倒臭い事だ。どうしても俺を圧倒的な力でねじ伏せたいらしい。
「く、クくク! 貴方私より遥かにレベるが高いですねェ。その力、羨ましいなァ……」
ようやく素直に自分の力量と相手との差を認めれたらしい。……てか、ああ。そういう事か。
ぐぃん、地に足が着くとはこの事を言うのだろう。或いは、プールから上がった時のような倦怠感と現実との祖語。
ジェラシーにはもう一つ特殊能力がある。
嫉妬した他者のレベルを全て奪い取る。という特殊能力が。
「げひゃ、ヒャは、ヒャヒャヒャヒャ! ありがとう! ありがとう! 私はこれでまた才能を得られました! 」
俺のレベルを吸い取ったお蔭か、……えーっと、誰だったか忘れたヤツ。そいつが神装武器に呑まれていた意識を取り戻せたようだ。先ほどより言葉と言動がしっかりしている。
そうか、そうか。俺はレベル1になれたのか。く、くく、ははは、ハハハ! 前の世界ではジェラシーは壊れていたが、なんて都合がいいんだ!
「ありがとう。とは逆に俺が言ってやる」
「はい? 」
「ありがとう。俺のレベルをレベル1まで吸い取ってくれてよ。お蔭でまだ俺は強くなれる。だから特別にお前をしっかりとした"奥義"で殺してやる。これは俺からの感謝の気持ちだ、受け取らないなんて言わないでくれよ? 」
「何を、寝ぼけた事を……。ふふ、いいでしょう。圧倒的な才を持つ私の身体に、傷つける事が出来るとでも? くひゃ、くははははッ! やぁあってみるがいい! ハンデを与えてさしあげましょう! 」
ニタニタと笑う肉塊に、俺は静かに聖剣を前へと構える。
使うは一刀にて全てを裂く、原初にしてシンプルな技。
「――――奥義、始まりの太刀」
ただ、直線に斬るだけの単純な技。それ以外にいらない。それ以外に必要すら無い。
「………。………? ふふ、ふはは、はははははッ! 何かと思えばたかだか早いだけの技ですかあ? 元勇者だか知らないですが、それですらこれなら。私が他の五帝を出し抜くどころか、私がこの世界の覇者になるのも時間のもんだ………」
ズルリ。
ズル、ズルズルズル。
肉塊の身体が斜めにズレていく。不可解な音が零れる。断面からは血すら漏れ出ない。
「ひ、ひぃッ!? ひっ、ひっひっひぃィイイッ! 」
自分の視界が壊れていくのが恐ろしいのだろう。言葉として成り立たない純粋な悲鳴が出ていた。それは既に強者としての体裁は無く、ひたすらに死に怯えた弱者の鳴き声だった。
「く、くくく」
思わず嗤ってしまった。ああ、くそ。こんな事に愉悦を感じていたら、後ろで腰を抜かしている魔王の女の子に言い訳できないなぁ。だが、仕方がないだろ。俺は勇者じゃあないんだ。
「な、何で……。おまえ、れべる1……だ、ろ」
どうやらレベルを吸われて1になった俺が、こいつにとっての999レベルに何故勝てたのか分からないらしい。
冥土の土産に教えてやるか。それに、気分が良い。
「その武器はレベルは吸うが、魔法奇跡技能技能力身体能力ステータスとかは吸えないんだよ。つまりお前は俺から経験値は奪い取った物の、元の実力自体は奪い取れてないって事だな」
「そ、そんな……」
希望が砕かれた音がする。彼のレベル999は俺の999のステータスに及ばず、ただただ俺の成長の手助けをしただけという事実。
「良かったなあ、レベルカンスト出来て。良かったなぁ、俺の伝説の導入になれて。だから満足して死ね」
「ひッ。ごめ、い、いえッ! すいませんでした! 私が間違っておりました! これからは心を入れ替えて、貴方様にお仕えします! だからどうかご慈悲を! 」
「そうか」
「わ、私は役に立ちますよ! そこの女よりも遥かに! 」
「そうか」
俺が一ミリも見逃す気がない事に、精神的な物が決壊したようだ。
「ち、ちくしょうがあああああああああああああッッ!! お前、勇者だって名乗ってたじゃねえええええかあああああああああッッ!! 勇者がこんな無抵抗の弱者を殺していいのかあああああああああああッッ!!!? 」
「元、だな」
軽く聖剣を横撫する。
「第一、俺はイケメンが嫌いなんだよ」
男も嫌いだがな。
なんで野郎しか出ない話を書かないといけないんですかね(血涙)