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サーベルキックのハーミットだ!

「ゆ、勇者。様……」


「大丈夫か? どこか痛む所は無いか? 」


俺は少女を持ち上げるように起こしつつ、ひっそりとケツを揉む。うむ、なかなかだ。形が良い。流石は魔王といった所だろうか。


その際やはりこういった事に免疫が無いのか、少女は羞恥に塗れた視線を俺に向けてきた。口元は恥ずかしさに耐えきれないと言わんばかりに、ゆるゆると歪んでいる。今にも涙を零しそうだ。


『儂のがいいシリしとるぞ』


叩くのにはちょうど良さそうな形はしてたな、お前のケツは。


「わ、わざとやっとるのかの? 」


「ああ! わざとだ! 」


『爽やかな笑顔でとんでもない事言っとるのーこいつ』


少女は目をグルグルグルと目まぐるしく回し、湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にする。


「ぬ、ぬ。ぬぬ。うぬぬぬぬ。……助けてくれた礼はするのじゃ。じゃからこういう事はもっとお互いを知ってじゃな」


「じゃあお互いの事を知ればもっとすごい事をしてもいいのか? 」


「も、もっと……凄い事? 」


ごくり。少女が息を呑んだのが分かった。白銀の瞳には羞恥と侮蔑と、ほんの少しの期待が混ざっているように見える。


「……か、考えてあげるのじゃ」


『儂の子孫ながらチョロイのう……』



お前の頭の足らなさが遺伝しなくて心底良かったと思うぞ。



「それじゃあ俺から自己紹介するぞ。我妻悠斗、元勇者だ。ここには丁度迷ってたところでな。たまたまキミを助けれたんだ」


『嘘も休み休みに言うもんじゃ。ほれみい、あからさまに怪しがっておるぞ』


「アニェラ・サリーじゃ。不躾ですまぬが、お主は一体何者なのじゃ? 勇者と魔王は一対一で現れる。じゃからお主が元勇者という事はありえぬのじゃ。勇者を退ける程の力を持つ者なぞ、妾は知らぬ」


「……その話、私も気になりますねぇ」


俺と少女とU.K.以外の声が混ざる。


「誰じゃ! 」


闇夜から現れたのは、体全体を覆うマントを羽織った男だった。唯一出している顔は色男を想像させるほどの甘い表情をしており、一たび笑みを向ければ貴婦人からはもてはやされそうな端正な顔立ちをしている。


ただ、そいつからは鬱屈した気持ちの悪い雰囲気が漏れ出ている。あとイケメンというのも気に入らない。


「困りますよ……。その方には死んで頂かないと」


「す、スクラダ! お前、生きていたのか! 」


姫様が駆け寄る。しかし男はマントから取り出したサーベルを彼女に向けた。


「ふう、随分間抜けなお姫様ですね。……裏切られたというのも分かっていない。これだから貧弱な者を魔王に仕立て上げるのは反対したんだ。思えば前魔王も頭が弱かった。そういう所だけは引き継ぐもんなんですね、案外」


「スク、ラダ……? 何を言っておるのだ……? 」


「ああ! 姫様。何も知らぬままに美しく逝きなさい。大丈夫です、貴方の亡骸は私がじっくり丹念に使わせて貰います」



恍惚の笑みを浮かべながらサーベルを振り下ろす。



「おい、クソ野郎。さすがに死体に手を出すのはどうかと思うぞ」



俺はその狂気を受け止める。しかしそれに対してスクラダは意外そうにした後、嫌らしく嗤った。



「おや? おやおや。ふふ、これはすいません。元勇者様(笑)には私が死体で愉しむ趣味がおありだと勘違いされてしまったのですね。いえいえ違いますよ。私の力の糧になって貰う、ただそれだけの事です。それにしても、貴方が勇者が退けたというのは本当ですか? 確かに姫様では忌々しいアンナを退かせるのは無理だと思っていましたが」


「弱かったしな。お前も弱そうだ」


「弱かったですか、ふふ。40レベルが弱いというのは大分誇張しますね。どうやって退けたのかは存じませんが、私のレベルは50レベルですよ? 退屈しなければよろしいですが、ふふふ」


どうやら俺が悪戦苦闘した後に勇者を退けたのだと思ったらしい。しかも不意打ちとかたぶんそういう系だと思われている。現にスクラダからは弱者をいたぶる時の嗜虐的な笑みが張り付いている。たのしそう。


「ではまず前奏から行きましょうか。『ハーミット』」


スクラダのマントから大量の植物が出て来る。どれもこれもが茨状になっており、禍々しく揺れ動いていた。


「す、スクラダ! お前、本気で」


「ええ本気も本気ですよ。もとより私は貴方の配下ではないですし、別に不思議な事ではないでしょう」


「何故じゃ、妾はお前の事を本気で父上だと……」


「私はね。貴方のようにただ自分の血筋に胡坐をかいて座る奴が、心底憎かったですよ」


スクラダはそう吐き捨てて、ハーミットと呼ばれる植物を俺へと飛ばしてきた。



「気を付けるのじゃ! そ奴のハーミットはただの植物ではない! 捕まればさい――」


「捕まらなければいいんだろ」


俺は『エンチャント』で雷属性を付与した聖剣で、『ハーミット』を高電圧で全て焼き斬った。跡形もなく、少しだけ焦げ臭さが辺りに充満する。


「…………、?? 」


スクラダの表情が固まった。それどころか後ろにいる姫様まで息を呑んでいた。――何が起こったんだ? そう言わんばかりの呆け顔だ。……ん? え? これで終わりなのか? 


「???????????????? 」


「???」


『?????』


陽動とかじゃなくて? マジ? 


戦いの場で全員が棒立ちしていた。


いや、U.K.お前は分かるだろ。姫様やスクラダが理解出来ていないのは分かるが。何で分かってないんだ。


「げ、幻術か!? 」


どうやら俺にやられたのは幻術らしい。俺からしてみればお前のハーミットは貴重な攻撃する機会を失った卑劣な技だ……。



ていうか! サーベル出したんならサーベルで攻撃しろよ! 飾りか!? 


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