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次回予告。勇者アンナは空を飛ぶ


目が覚めたら今度は見知らぬ場所にいた。変な場所ではなかったが、知っている場所でもなかった。日が暮れているらしく、真っ赤な夕日が空を照らしている以外辺りは明かりが無い真っ暗な森の中。足場が悪いという訳ではないが、歩いていて人気を感じ無さそうな場所だった。



『あーテステスー。悠斗ー、聞こえておるかのー』


おい! やっぱり本名知ってるじゃねえか!


耳から聞こえる感じではなく、心の奥底から沸いてくるような言葉。前の世界では『思念』と呼ばれるテレパシー魔法だったが、あんな所からでも喋れるのか。ついさっきまるで今生の別れみたいな言い方してたのは一体何だったんだ。



『聞こえておるかの―。そっちの世界はのー、イヴァリスという名前の世界じゃ』


「………」


意図的に無視してやろう。いつでも構ってもらえると思うな。



『え、えぇ……? もしかして儂の言ってる事が聞こえておらぬ? おーい、おーい……。……ひぐっ、儂、シカトされておる? ……ひど、ひどいのじゃ。じゅるっ。ブフー! チーン! 』


「うわっ!? 耳元で変なモン聞かせるな! 」


『きごえでおるならべんじじでぼじいのじゃ゛ぁ゛あ゛』


またあいつ泣いてるのか。鼻水と涙をすする音を聞くという大変体験したくない物を経験してしまった。


てってれー


★『耳栓』を覚えた。


………今の経験で、すげえどうでもいい特技を覚えてしまった。使う機会無くはなさそうという微妙さもムカつく。


「はあ、聞こえてるぞ。というかあの場所から喋っているのか? 」


『ふは、ふははははははははは!! 儂くらいになるとどこでも喋れるのじゃ』


若干どころではないくらいに喜んでいた。もしアイツにアホ毛があったのならびんびんに立ちまくっているくらいに、声色に嬉しさが滲んでいる。


『まあ実は黙っていても考えるだけで聞こえるんじゃが。無視されるとは悲しいのう』


「ぶっ飛ばすぞコイツ」


『声ーッ! 声に出ておるのじゃー! 思ってても言わないのが優しさじゃろ! 』


第一印象から思っていたが、こいつ何でここまで弄ってると面白いんだろうか。しかし残念ながら俺が求めてるのは笑いではなく女の子という潤いなんだが。


『儂、その女の子なんじゃけど……。どうしてここまで扱いがひどいのじゃ……』


一気にテンションの下がったU.K.を無視して、俺は歩き始める。目的地など決まってはいないが、この様子だとそこらで野宿することになりそうだからだ。しかも、服装は俺の記憶の最後だった寝間着ではなく冒険をしていた頃の服装だったことは救いだが、明らかに腰元が軽すぎる。当時持っていた聖剣一つってどういうことだ。普通こういうのは金やらなんやらはご都合主義で準備していてくれるんじゃねえのか。


『忘れておったのじゃ』


お前もう黙ってろ。


最近はご無沙汰気味だった整地されていない道を歩き続ける。途中何度か前の世界ではゴブリンと呼ばれる雑魚モンスターに似た奴をちらほら見たが、俺の姿を見るなりバケモノを見るかのように走って逃げていった。


『どっちが化け物か分からんしのう』


お前の顔を化け物みたいにしてやろうかうんk。


『化け物顔になっても抱けるもんなら抱いてみるのじゃ』


流石に無理だ。ゴブリン顔した奴は抱けねえ。


『そこはもうちょっと頑張るのじゃよ!?? というか儂ゴブリン顔にされる所だったのじゃ!? 』


中身も知らんのに顔がヤバかったらさすがにエッチ出来ねえだろ。


『確かにそうじゃがのう……。いきなり真面目になるのは止して欲しいのじゃ。というか。おーぬーし―、何さりげなくイベントから逃げておるのじゃ? 』


…………。


『その様子じゃと途中から気付いておったな。お主の考えている通りじゃ、お主が太陽だと思ったあの明るさはただの戦火で、ここは戦場のど真ん中じゃ』


ど真ん中じゃ(はあと)じゃねえよ。年考えろロリババア。何をトチ狂ってそんな所に転移させたんだ。


『殺すぞ、なのじゃ』


妙に威圧のかかった感じで言われたので、黙る事にした。


『まったくのう。折角ならこういうイベントには参加してほしいものじゃがのう。むしろそうしてくれないと儂が面白くないのじゃが。こうぱぱっ無双してくれたりすると満足するんじゃが』


「生憎だが面倒事は嫌いだ。可愛い女の子が関わるのなら別だけどな」



俺は木々を抜けて、広い場所を見つける。そこには二人の女の子が戦っていた。……いや、


『思いっきりボコられとるのう。というかお主もしかしてここに向かっておったのか? 』


そりゃあ戦場で女の子探すといえば強い奴がいる所だろ。きっと可愛い女の子が将軍だったり、大将だったりに違いない。あとはそうだな、勘だ。


『くひ、くははは、くふふふふふッ。いいのう、いいのう。動機が不純でくだらないのう。勘というよりは魔力探知じゃろうが、まあなんでもいいのじゃ』


U.K.はスイッチが入ったのかは知らないが、声に恍惚が漏れ出している。正直笑い方がキモいが、あえて突っ込まないで置こう。


『……聞こえておるのじゃ』


おめでとう。


そんな下らないやりとりをしている内に、片方の強者らしき奴が弱者らしき奴にトドメを刺そうとしている。



予想とは遥かに違ったが、ここらで貸しを一つ作っておこう。


「―――助けてやるッ! 俺の全てを以て、俺の全てを賭けて! 」



俺は振り下ろされる剣と彼女との間に割り込むようにして凶刃を受け止めた。その行為に受け止められた女の子。―――炎を燃やすように赤い髪を揺らし、憎々しげに顔を歪めていた女の子の顔が驚愕に染められる。相当に驚いたんだろう、戦場ではありえないくらいに気が緩み何が起こったのか分からないという疑問に時間を止められていた。


さてと、助けた方の女の子は可愛いと嬉しいんだが。我ながら恰好良い登場の仕方だったと思う。百人に千人は惚れていてもおかしくはないぐらい、会心の出来だ。


『きもいのう』


俺は振り向く。



―――――その少女は空に輝く星のように煌かせた銀の髪を携えていた。




その髪は砂利や血が飛び散り汚れていたが、かえってそれが生々しく非現実的な髪を現実的にしている。髪と同じかそれ以上に優しく淡い白銀の瞳は絶望に満ち溢れていて、透き通った色素の薄い肌に涙が零れていた。細からず太からず整った黒い眉は緊張で硬く寄せられており、柔らかく沿った顔立ちは見る物全てを引き付けるようだった。身体つきはあまり褒められた物ではなかったが、少しだけ出ている胸が服の上から可愛らしく自己主張している。ゴシックロリータというべきか中世のひらひらと白を基調とした服によって少女は際立たされていた。




有り体に言うと。可愛かった。見惚れる程に。月に照らされ、微かな光を見つけたかのような少女に。



「だから、俺の奴隷になってくれ! 」



つい言ってしまっていた。無意識に。滅茶苦茶にしたいと思った。この少女を。


ふは、という声が聞こえた気がする。いや、心に語り掛けられたんだろう。下種な笑みと共に。



『―――――ああ、言いそびれたのじゃがのう。そ奴、儂の子孫じゃからの』

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