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異世界を滅ぼすなんてとんでもない。~それならハーレム作るわ~  作者: 笹倉亜里沙
宗教国家の崩壊とエルフの少女
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世界変革の引き金は彼女が繋ぐ

最近忙しくようやく投稿する事が出来ました


平和。


その言葉が大よそここまで似合う風景は無い。それほど子供達や人々の声が息づいていた。


意外にもエルフの里といっても、旧文化的ではないらしい。服装はしっかりと裁縫のされたモノであるし乱立する建物といえば、土や藁に塗れたものではなく木造のものにガラスや瓦などが見えている。木の上に蜂の巣の如く立てられているという訳でもなく、どちらかといえばひしめき合いこそしないもののしっかりとした町のように思えた。


広場らしき場所には噴水が設置されており、エルフの子供が楽しそうに遊んでいる。その傍には果実を袋に詰めた母親らしきエルフの女性たちが会話をしていた。


「意外そうじゃの」


あれほどアンナと(やかま)しく会話をしていたアニェラが寄ってくる。


「てっきり俺の予想ではもっと田舎暮らしをしてるもんとでも」


「むしろ当たり前じゃとは思わぬか? 妾達がおった町は元はと言えば、エルフと交流の深かった町じゃ。そこには人の行き来は勿論の事物流による文化の入れ替わりなどもあったじゃろうて。……まあ、ここはある意味エルフの総本部のような所じゃから仕方がないというのもあるがの」


「総本部の結界ガバガバだな」


「いや、たぶんお主が規格外すぎるんじゃと思うんだが。普通あの結界は『精霊加護』ありきじゃ。物理的に破るなどお主以外に不可能だと思うぞ」


「破れるっていうのが問題だと思うんだが」


「そう言うでない。……ん? 見ろ悠斗。カラメ焼きじゃ」


「カラメ焼き? 」


見れば店先で黄金色の飴を棒にくくりつけた菓子が売られていた。


「果実をすり潰し混ぜ込んだエルフの特産じゃ。めちゃくちゃ甘いぞ。ここの果実は甘みを良く含んでいるからの」


「林檎飴とかそういうもんか」


「なんだかその名前も美味そうな感じがするの。む? あっちは樹脂から練り込んだ陶芸品じゃの。なだらかな曲線美を描く事として有名じゃ」


楽しそうに話すアニェラだが、近寄って買ったり見たりする事は出来ない。変わらず今は案内されている身で、先頭に立つ兵長はというとアンナと何かを話しているようだった。


「知っておるかの悠斗。エルフというのは文化としてはそれこそ妾達が知る由も無い程に長いのじゃ。けれどもそれが今のような多種多様な形になったのはここ最近の話じゃ。どうしてじゃと思う? 」


銀の瞳を瞬かせて問いかけて来る。


「エルフといえば珍しいから、表立って交流が行えなかったからじゃないのか? 」


「おしいのじゃ。確かにエルフはその魔力の高さから奴隷として乱獲を行う人族や魔族が多かった」


「魔族もやっていたのか? 」


「一部だけじゃがの。そもそも実力至上を胸にする者が多かったから、本当に変わり者しかやっておらんかったようじゃが。それにその戦闘力のさるものながら見目麗しい者しかおらぬエルフは都合が良かったのじゃろう」


「それだけ聞くと魔族にまともな美的感覚があるとは思えんが」


「実力を先に重んじる事が多いからのう」


「それなら俺の場合どうなんだ? アニェラから見てイケメンなのか? 」


ぽろっと反射的に言葉として出してしまった。けれども彼女からしてみれば俺は、極悪非道外道鬼畜だ。


照れはするが、きっと軽くあしらうに違いない――。


「………」


少女は、白の半月を見事に丸くさせている。そしてそれに倣う糸のように細く美しい艶の髪とは真反対に、ほんのり太く黒い眉は思い切り引き離されていた。有り体に言えば、予想の付かなかった返しに脳が拒否反応を起こしているような呆け具合だった。


「アニェラ? 」


俺が意識を取り戻させる為に声を掛けると、彼女は一瞬で頬を朱く染めながら早口で答えた。


「し、知らぬのじゃ! いいから早う答えぬか! 」


どうやら、俺はイケメンの部類に入るらしい。といってもそれは第一印象に俺の力を加えてそう思えるのかもしれないが。どちらにせよ悪い反応ではなさそうだ。


答えを出さなければ噛みつかれそうな勢いなので、思い浮かんだ言葉を綴る。


「エルフ自体が大規模な群れを行わない種族だった上に、ユグドラシルに張られた結界っていうのはつい最近張られたものだろう? そして安全になったからこそ、一同に集まって文化が入り混じるようになった」


「……正解じゃ。お主案外考えているのじゃな」


「簡単な話だろ。いったいいつからあるのか分からない樹はあるのに、何でここに最初から皆隠れ住まなかったかって考えたらな。結界がエルフの誰かによって張られたモノだって予想がついただけだ」


「本当にお主悠斗なのか? 何か妾のいない内に変な物を食べたりしてないかの? 」


「失礼な。……単純にそういう事に興味が沸かないだけだ」


そう吐き出した所で、俺が背負っている少女が身じろぎし始めた。それを見てアニェラが余計な気を利かせて喋るのをやめた。


「ん、んん……」


「気が付いたか? 」


「あの、えっと……。此処は……? 」


「ユグドラシルの里じゃ。お主はそこな森で傷つき迷い気絶しておった。お節介じゃとは思うが介抱させて貰った」


「あう……、その、ありがとうございます」


「あんな森の中で何をしておったのじゃ? しかもあそこは愚者の回廊近く(もりのおくふかく)、強力な魔物も出る。ぱっと見エルフのようには思えぬし」


「………」


「答えたくはないか。ふむ。しかしどうやって結界の中に入ってこれたのやら」


「あ、いえ。その……覚えてないんです。どうしてあそこにいたのか、自分の名前すらも」


「は? てことは記憶喪失か何かなのか? 」


「ひぃう! ご、ごめんなさい」


俺が話し掛けるや否や、怯えたように震えさせる。ほんの少しだけショックを受けた。


「悠斗ぉー」


鋼のように冷えた視線を向けて来るアニェラ。どうやら俺は身体を動かすだけの人形にならなければいけないようだ。


「記憶喪失が本当かどうかは分からぬが、自分の名前すらわからぬのか? 」


「え、えと。はい。……分からないんです。全部、何もかも」


「ふうむ。お主の身元を証明できるものがあればいいがのう。服装だけはどうもどこにでもありそうなものじゃし」


「そ、それなら。ごめんなさい。降りてもよろしいでしょうか……? 」


俺は言われるままに少女を地面へと降ろす。既に彼女が負っていた傷は俺が治してしまっているので、精神的な物以外は大丈夫だったが。それも感じさせないくらいなので杞憂だったようだ。


彼女は俺よりもやや小さめの身体を伸ばし、首に下げているネックレスを取り出した。


「これ、なんだか大層なモノだと思うんですけど……」


俺とアニェラの前に掲げられたのはどう見ても指輪のソレだった。内側の方に何やら書かれているのは見えるが、どれも擦れてしまっていて完全に読み取るのは不可能になっている。


「………」


他愛の無いソレ。何故だろうか、俺は強烈に引き寄せられていた。思わず更に近寄って崩れた文字を解読しようとする。




掘られた文字から魔法陣が発動していた。




「な」


言葉にしたかは分からない。或いはどちらにせよ変わらないだろう。俺の網膜に刻み付けるようにして、指輪から魔法が放たれていた。『天上天下』は初見のみ通用する。その初見殺しは見事にハマった。


「ッ! 悠斗ッ!! 」


随分遠くからアニェラの声が聴こえる気がする。眼球の奥底により脳内に斬り込まれた魔法は、既に俺から現実感を奪っていた。


【悠斗ッ!? くそっ、こんな事ならアニェラ姉の前でも喋れば良かった!! 】


今の今まで無言を貫いていた二人の内片方、フェルの声を聞きながら俺の視界は完全にブラックアウトする。


最後に映っていたのは、哀しそうな表情を浮かべる少女の姿だった。








「おはよう。ってあれ? 珍しいねキミが先に起きているなんて」


「………」


「今日は晴れているぞ。私は一切合切気持ちよくなんて、ないけどな! っておいおい、どうしたんだ。そんな雨の中捨てられた動物みたいな顔をして。此処に来た時の荷物を纏めて手に持ってさ」


「……。僕はあれから考えたんだ。本当に、色々と」


「そっか。それで答えは出たんだろう? 」


「僕は、此処を出るよ。魔王を倒しに行く」


「ほう。大きく出たな。キミは人の生き死にを見たくないから此処に逃げてきたんだろう? 利用されたくないから出ていったんだろう? なら何故再び彼らの言いなりになるんだい。それにだ、仮に魔王を討ったとして元の世界に戻れる保証はあるのかい。世界はキミに対して都合も良くなければ優しくなんてないぞ」


「―――僕は、僕の意志で魔王を討つ。彼らの為じゃない。世界の為なんかじゃあ、間違っても無い。『珠洲』、キミを想ってやるんだ」


「………。そうか。そっかあ。ふふ、『悠斗』。キミは随分ボクに惚れこんでいたみたいだね。罪作りなオンナだなぁボクって」


「ごめん」


「ごめんじゃないよ。其処はボクに感謝しなくちゃ。辛気臭い別れは嫌だぞ。その様子だとすぐにでも此処を発つつもりなんだね」


「聞けば魔王を討てるチャンスはそう無さそうだから。……っ。ありがとう。そしてさようなら珠洲」


「ああ。さようならだ悠斗。二度とボクの事なんか思い出すんじゃないぞ。次はもっといい恋をするんだ」



ああ、次はもっとすごい人を好きになってやる。珠洲が羨むようなくらいの。世界だって支配してやるんだ。彼女が後悔してしまう程。


だからどうか。どうか、彼女が安らかに眠れますように。


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