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カンテラの街  作者: 齋藤翡翠
9/16

8:夜に潜むモノ

隣の空き部屋へ行ってみると、殺風景な部屋だったが綺麗にしてあって、ベッドやタンスなどの家具が一式置いてあった。


前に誰かが使っていたのだろうか。


部屋の窓を覗くと、もう日は沈んでしまって外は真っ暗だ。


人影なんて一つも見当たらない。

ただ、昨夜と同じくカンテラの灯がゆらゆらと煌めいていた。


(はあ、私も寝よ…)


置いてあるベットに倒れ込む。


今日は色々あった。この街に来てオッドに出会い、マピュスに連れられて街を回った。


《伊織、あんた"夜の街"を歩けるのかい?》


不意に蘇るキリーさんの言葉。あれは一体どういう意味なんだろう。


確かに私は夜の時間にこの街に来た。

それはもう"夜の街を歩いた"というカウントに入るのだろうか。


だが、それを言ったらあの時オッドだって"夜の街"を徘徊していたという事になる。


(それじゃあ、彼は一体――…)


考えれば考えるほど疑問が溢れ出てきて、目が冴えてしまう。


浮かんだ疑問が気になって仕方なくなり、私は部屋を出てオッドが居る所へ向かった。


オッドに聞けば何か答えてくれるかもしれない。そう思ったのだ。


リビングに行くと、窓際の作業机に向かって作業をしているオッドの姿があった。

何時まで起きているつもりだろうか。


「あの…オッド、聞きたいことがあるんだけど…」


「…」


返事がない…。聞こえてないのか?


側まで寄って見ると、先程持って帰ってきた薬をフラスコに入れて何やら作っていた。


「オッド、お話があ…」

「この街の事か?」


目線をこちらに向けずに突然答えるものだから、少したじろく。


「えと…それもあるんですけど、今日キリーさ…キリーロヴナさんに会った時、『夜の街を歩けるのか?』と聞かれたんです。それがどういう意味なのか知りたくて…あ、夜の街が危険な理由はマピュスたちに教えてもらいました。」


私の話を聞いているのか分からないが、ひたすら手を動かすオッド。

しかし、暫くすると「何故?」と返してきた。


「何故伊織は俺にそれを聞いてきたんだ?」


私は自分が推測する事を話した。


「私とオッドが出会った時は夜でした。もし、それも"夜に街を出歩く"事としてカウントされるのであれば、オッドも"夜を歩ける人"に入ります。だから、キリーロヴナさんが言った言葉の意味を知っているんじゃないかと」


思ったことを言い終わると、オッドは立ち上がり私の方を向いた。


蝋燭の灯りが揺れる度、オッドの緑色の目が光る。

黙って私を見つめること三十秒。何だか恥ずかしくて私は思わず目を逸らした。


「話すのが面倒だ。今から外に行って実際に見た方が早い」


ソファに掛けてあった茶色いコートを私に投げて着るように言うと、玄関先へ向かっていく。


「え!?今から行くんですか?」


オッドは、「ん」と言って親指を外に向けるポーズをした。

早く行くぞ、という意味らしい。


渡されたコートを素早く着て恐る恐る外に出ると、頭上には幾千幾万ものカンテラが光を放っていた。


オッドは上着のポケットに手を突っ込んだまま、先へ先へと進む。

私ははぐれないように、必死になってオッドの後をついて行った。


どれくらい歩いたのだろうか。

まだ行ったことのない道まで来ると、何処からか奇妙な音が聴こえてきた。


うおおおおおぉ――…という動物の唸り声のような音だ。それも段々近づいて来る。

私は怖くなってオッドの背中にしがみついた。


「オッド、い今のは!?」


「…来たな」


オッドが見る方向――建物の曲がり角辺りを見ると、黒いモノがうごめいている。


「あれは……人?」


黒くうごめくモノはやがて姿を現した。

人の形をしているが、動き方は人のそれではない。黒いオーラを纏っていて顔ははっきり見えないが、目や口は真っ黒い穴になっていて怖い以外の何者でもない。


黒いバケモノは唸り声を上げてこちらに向かって来た。


「こ、こっちに来ますよ!」


私が悲鳴にも近い声でオッドに言うと、本人は黙ったままポケットに入れていた手を素早く出した。


そして黒いバケモノに向かって何かを投げる。


白いピンポン玉くらいの球体だ。

球体はバケモノの足元辺りに落ちて、やがて凄まじい閃光を放つ。


眩しくて反射的に目を瞑る。ドンッという音と振動がしてから目を開けると、黒いバケモノは倒れていた。


駆け寄ってみると、黒いバケモノは白く光り出して人の姿に変わった。


多分、街の住人の一人だろうか。三十代くらいの男の人だ。


男の人は少し目を開けて私たちを見ると、「すまない、ありがとう」と呟き涙を流した。


やがて白い光になって男性は消えてしまった。



「消…えた……」


私は呆然と立ち尽くすしかなかった。


「オッドさん、やるね」


何処からか声が降ってきた。

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