5:札遊戯
「革命!」
「んな!嘘だろっ!」
悲鳴に似た奇声をあげて、ルゥは立ち上がる。
「嘘もクソもありませーん。嘘を吐くのは『ダウト』くらいですー。」
意地の悪い顔をしてマピュスが言い放つ。可愛い顔してるのに、使う言葉は可愛気が無い。
「はい、上がり~」
そして最後の一枚を出してマピュスは一抜けした。えげつないものだ。
「しかも、最後の札が5だと!?ふざけるな!」
お察しの通り、今やっている遊戯は『大富豪』。現在マピュスが革命をしたことで、3が一番強くなり逆に2が最も弱い位になっている。
つまり3か4を出せば良いのだ。
「パ、パスだ!こんなの出せるわけが…」
「あ、パスですか?じゃあ私のターンですね。」
「はあっ?お前、出すには一枚しか出せねぇぞ!?」
ルゥがパスしたので、私は残りの一枚を出す。
因みに3を出したら禁止上がりになってしまう。
私が出せるのは、4のみ。
「ちょうど良かったです。」
私はクラブの4を出した。
「マジかよ……!」
ルゥは持っていた札を落とし、口を開けた。
「今回の大貧民もルゥね。何して貰おうかしら?」
「お前ら、グルだなっ!?」
そうなんだろ!と疑いの目を向けるルゥ。
「負け犬の遠吠えね。私たちそんなズルしないわよ。」
呆れた口調でマピュスが答える。
「それにしても、伊織も良い腕してるね。最後の札が"縁起物"だなんて。」
「"縁起物"?」
私は出したクラブの4の札を見つめて首を傾げた。
「そんなんも知らねえと出してたのかよ。」
ルゥが私を馬鹿にするように言う。さっきの態度とは打って変わってだ。
「クラブの4ってのはな、『幸運を呼び込む』って言われてんだ。その昔、一世を風靡した"幸運の神"なるマジシャンが、この札を使って芸を披露した事が始まりだとされている。まぁ、ただの願掛けみたいなもんだな。」
「へぇーそうなんだ。」
「ルゥって無駄な知識はあるのよね。」
「うっせえ!」
ペチャクチャ騒いでいると、不意にコンコンと店の窓を小突く音がした。
「ん?何だろう。」
「おや、お客人ですかな。」
マスターが窓際に行き、窓を開けると灰色の鳥が店に入って来た。
「バッビーノ!?」
オッドの飼い鳥バッビーノだ。何やら足に紙を結び付けている。
「オッドマンからマピーに手紙」とバッビーノが喋った。
「手紙?」
マピュスは足についている紙を取り、開いて読んだ。
「『薬を買ってきてくれ。』だって。」
「薬?」
「うん、オッドが色々な物を作るときに必要なの。知り合いの人が作ってるんだけど……この量は持って帰るの大変ね。」
リストを見ながらマピュスは困ったように言う。
「私、手伝うよ?」
「ありがとう。…それでもちょっと人手が足りないな―…」
そう言ってマピュスはルゥの方を向く。何かを言わんとする目で訴えている。
「ゲッ、ちび、まさか"あそこ"に行けっつーんじゃないだろーな…?」
マピュスの視線にルゥは顔を真っ青にして言う。
「大富豪の罰ゲームにちょうどいいし、拒否権は無いよ?」
マピュスは嫌な微笑を溢す。この子、やっぱり小悪魔が入ってるのかも。
「最悪だ……。」
何か嫌なことがあるのか、言葉を失うルゥ。
「じゃあ、決まり!今からお遣いに行こう!マスター、ごちそうさま。」
「ご馳走様です。」
「いえいえ、また何時でも来て下さいね。」
マスターは目尻に皺を作って優しく微笑んだ。
軽い会釈をして私は歩みを進める。
沈んでいるルゥを連れ出し、私たちは珈琲店を後にした。