4:ルゥという男
見ると、黒髪で長身の男がマピュスの頭を押さえるようにして肘をついていた。
「なっ何するのよ!ルゥ!」
「よぉ、通りがかりに寄ってみれば、子リスが喚いててさ。うるさいったらありゃしねぇ。」
ルゥと呼ばれる男は鋭い目を細めてほくそ笑む。
「お前んとこのインコの方が十倍煩わしいがな。名前もクソだし。」
「え、あれってインコなの!?」
思わず驚愕する私を見てルゥは訝しむ。
「ん?あんた誰だ?見ねえ顔だな。」
「伊織っていうの。今朝オッドが連れて来たの。」
ルゥの腕を払いのけてマピュスが答えた。
「伊織です。よろしくお願いします。」
私は軽く頭を下げると、ルゥは顔を緩めて手を差し出した。
「そうか、オッドが連れて来たのか!まぁそんなかしこまるなって!俺はルゥ。よろしくな。」
差し出した手を握り握手を交わす。直ぐ放すつもりが、ルゥが強く握ったまま放さない。放さないどころか私を舐めるように見る。
「んにしても、いいオンナだなぁ?オッドには勿体ねぇな。俺とど…グハッ」
ナンパをし出すルゥをマピュスが蹴りを入れて制する。
「伊織、こんな奴相手にしなくていいよ。」
「え、あ、うん…。」
「くっ…!ちょっとぐれぇ良いじゃねえかよ、チビ!」
「イタイわよ、変態チャラ男。」
(何だろう……火花が散っているように見えるのは、気のせいだろうか。)
マピュスとルゥがさっきからずっと口喧嘩している。
あれ、止めた方が良いのでは?とマスターに聞くと、迷惑ですけどいつもの事ですから。と眉を下げて、でも微笑ましそうに言った。
「今日こそこのガキャ泣きっ面拝んでやる!」
「臨むところよ!まぁどうせ、今日も負けるんでしょうけど!」
(いや…エスカレートしていってるし。何するつもり……?)
息巻く二人を止める術が見つからず、ただ眺めていた。
「マスター!アレ出して!!」
「はいはい。」
マスターはカウンターの下から何やら四角いものを出した。
「…トランプ……?」
少し古びた箱から五十四あるカードをマスターが取り出す。
「二人でトランプするんですか?無理があるでしょ。」
二人でするトランプゲームなんてババ抜きくらい…どちらにしても二人では面白くない。
すると、怪しい顔でルゥが私の肩を掴む。
「伊織もするんだよ。」
「えぇ!?私も!?」
「さぁ、遊戯の始まりだ。」