3:珈琲店Atout
「マスター!来たよ!」
カランカランッと響きのよいベルを鳴らし、中に入ると珈琲独特の焦がしたような匂いが漂っていた。
「ああ、マピュス。よく来てくれたね。」
カウンターには優しい笑みを湛えた白髪のご老人が居た。口元には威厳のある髭を蓄えていて、丸眼鏡をかけている。クラシカルな佇まいの店に馴染んでいる気がした。
「おや、そちらのお嬢さんは?」
「あ、私伊織っていいます。」
「今さっきオッドが連れて来たの。」
「そうですか、オッドさんが…。」
何だろう、今一瞬マスターさんの目が陰ったような……。
「まあ、マピュスの事だから走って来て喉が渇いているでしょう。これでも飲んで一息ついて下さいな。」
いつもの事なのか直ぐに氷の入ったグラスを差し出す。アイスコーヒーだ。
「ありがとうございます!頂きます。」
さっきから喉がカラカラだったので、遠慮せず飲んだ。本当に助かる。
「っ!これ、美味しいですね!ブラック苦手な私でも飲めます!」
見ると黒かったので、ミルクが入ってない苦いブラックだと思っていたが、苦味がなくてさらっと飲めた。
「それは良かった。マピュスにはこれね。」
マスターはマピュスにオレンジジュースを出した。
「えー!私もコーヒー飲める!子ども扱いしないで!」
「お前にはそれで十分だ、おちびちゃん。」
唐突に背後から声がした。