A:闇に浮かぶ灯
ピチョン……ピチョン………
何だろう、水の音がする。
これは………夢?
あれ、私は眠っていたんだっけ。
まあいいや。早く目覚めないと。
起きなくちゃいけない気がして、私は重たい瞼をゆっくりと開いた。
「此処は……何処…?」
目覚めると漆黒の闇が広がっていた。
勿論、何も見えない。
気のせいだろうか。少し……いや、嫌に肌寒い。
それもただ寒いのではなく、気持ち悪い寒さだ。
「っ…寒い……」
身震いして私は腕を擦った。
余りにも真っ暗で一筋の光も見えず、私は恐ろしくて座り込んでいた。
でも何もしないわけにもいかず、足元を手探りしたり、辺りを見回したりした。
すると、ある一点に小さな本当に小さな明かりが見えた。
私は明かりを目指して歩いていく。
その明かりは近づくにつれ、段々大きくなっていく。
よく見ると、それは幾つもの灯火の集まりだった。
「カンテラ……」
目の前に広がる景色はいつか唄われた架空のそれのように思えた。
そこは無数のカンテラが飾られ輝く街だった。
「誰?」
ぼんやりと眺めていると背後で声がした。
直ぐ様振り返って見ると、一人の青年が立っていた。
持っているカンテラを掲げてこちらの様子を伺っている。
山吹色を少しくすませた様な髪に、色白の整った顔。長い前髪で左目が隠れている。
全身黒尽くめの服装で、暗闇に溶け込んでいた。
「君は誰?」
呆けている私に青年は再度問う。
「私は、伊織。…貴方は?」
「……」
青年は何も答えず、暫く私を見つめる。
「あ、あのー?」
「…アウトだな」
「え?アウト?」
アウトの前に何か言っていたように聞こえたが、小さい声で聞こえなかった。
「私が駄目って事ですか?…あ、名前アウトって言うんですか?」
そう聞き返した時、頭上で何かが羽ばたく音がした。
「オッドマン!仕事だよ!オッドマン!」
甲高い声で叫ぶそれは青年の肩に着地する。灰色の大きな鳥だ。喋っているからオウムだろうか。
「と鳥?オッドマン?」
odd man(奇妙な男)ということだろうか。
訳がわからずおどおどしていると、青年は私を通り過ぎて街へと向かっていく。
「あ、あの!私ついていってもいい?」
「…お好きに」
そうして私はカンテラの灯火が瞬く街へと足を踏み入れた。