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カンテラの街  作者: 齋藤翡翠
12/16

J:Regina di cuori

「ねえ伊織、何でそんなに暗い顔をしてるの?」


アドルフが帰って行ってから、様子がおかしい私をマピュスが気にかける。


「アドルフが何か言ったの?」


「ううん、違うよ。大丈夫。心配かけてばかりでごめんね」


マピュスに言われて我に帰る。直ぐに笑顔を作って何でもない振りをする。


「ホントに?」


「本当だよ。気にし過ぎだよ、マピュス」


もしかしたら、知りたがりのマピュスのことだから知っているのかもしれないけれど、先日のキリーさんの言葉にあれだけ戦慄した様子だったから、話したら怖がるだけだ。


そう思ってアドルフと話した内容に蓋をした。

いや、最も怖い話はオッドが最後に放った言葉だが…。



不意に部屋の時計を見るともう直ぐ昼だ。

するとオッドがいそいそと大きなトランクを持ち出してきて、何やら珍妙なマスクを被る。


「……あ、そっか。もうそんな時間か」


その様子を見てマピュスが言った。


「何?」


「これからオッド、仕事に行くの。お昼の材料が無いから…ちょうどいいや」


「何がちょうどいいの?」


わからない?とマピュスがにんまり顔で言った。


「オッドの仕事を見に行くついでにご飯も食べに行くの」



どうやらまた、連れ回されるようだ。






「何で俺まで……」



連れ出された私は今、街の噴水広場にあるカフェテラスでオムライスを食べている。そして、隣には偶然居合わせたルゥが座っている。


「良いじゃない、オッドの仕事を見るだけなんだから。そんなことでブーたれるなんて付き合い悪いわよ」


睨みを利かしてオッドを説き伏せる。


「別に俺が居なくても良い話だろーが…」「あ、始まるよ!」


ルゥの意見は虚しくも聞かれず、マピュスは広場の中心の噴水へと注目する。



そこにはマスクを被った道化師が居た。


側に一人、アコーディオンを持った黒子が居る。



アコーディオンの黒子が音を奏で始めると、道化師も芸を始める。



足元に置いてあったトランクの中から赤い風呂敷を取り出すと、片手に被せる。


パチンと指を鳴らし風呂敷を取ると、何も持ってなかった筈の手から花束が出てきた。


広場に居た観客から声が上がる。



次にトランクの中身を観客たちに見せた。色々なガラクタが入っている。


再びパチンと指を鳴らしトランクを開けると中は空に。

もう一度指を鳴らすと中から灰色の鳥が飛び出してきた。


「バッビーノだ」


マピュスが目を輝かせ言う。これにもお客は拍手を送った。


道化師は他にも幾つか手品をして見せ、いよいよ最後の芸を披露する。



それはトランプを使った芸。


道化師はジェスチャーである程度切ってあるカードの束から、一枚観客に引くように願い出る。


そうだな―と言うように考えるポーズをして辺りを見渡すと、観客の中から私を指差した。


「え?私?」


道化師はコクリと頷き近くに来るように手招きする。


私は差し出されたカードの束から一枚選んで引き、道化師には見えないように観客たちに見せた。


私が引いたのはハートのクイーンだ。

一通り見せた後、カードの束に入れ直す。道化師は束をしっかり切った。


今から全くわからないそのカードを当てると言う。


カードの束を綺麗にブリッジ型にすると、バラバラと音を立てて飛ばす。


まるで真後ろにある噴水の様だ。

カスケードという技だ。


その一瞬の内にいつ取ったのかさえわからないが、カードの雨が鳴り止んだ時道化師は一枚のカードを掴んでいた。


ゆっくりとそのカードを裏返すとそれは私が引いたハートのクイーンだった。


おおー!っと観客の喚声が上がる。拍手の雨が暫く鳴り止まなかった。


最後にバッビーノが「ご視聴ありがとうございました」と言って芸を締めくくった。


「こりゃ良い酒が飲みたくなったなぁ。レジーナ・ディ・クオーリの酒がちょうどいい」


私の隣でルゥが言った。


「レジーナ・ディ・クオーリってなぁに?」


私が心の中で思ったことをマピュスが聞く。


「レジーナ・ディ・クオーリはイタリアの酒さ。意味は伊織が引いたハートのクイーン。勝利と機会(チャンス)の女神さ。」


「へー、ルゥさんは物知りなんですね」


私がそう言うとルゥは少し照れた。


「べっ別にそれ程でもねーよ…」


「ただの蘊蓄(うんちく)よ」


「ああ?喧嘩売ってんのか?チビ」


ま、お前に酒の話なんかわかんないよな~とマピュスをけなし始めるルゥ。

ああ、お決まりの修羅場が…


と思ったその時、

「マピュスを悪く言う奴は誰だい?」


聞き覚えのある女性の声が耳元で低く響いた。


「キリーさん!」


「ゲッ、魔女…」


「やぁ、嬢ちゃん。昨日ぶり」



手をあげて笑うキリーロヴナが立っていた。勿論、側にいるルゥを足蹴にして。

残り後四話になりました。



話の先が中々見えない作品ですが、ちらほら最終回のフラグを所々散りばめています。


これでも、散りばめているつもりです…




何となく思っていたのですが、登場人物の設定とかこういう後書き・前書きがあった方がいいのでしょうか?


私は読むのに邪魔な物だし、あまり書かない方が謎が深まっていいのかなーと思って書かずに、今初めて書くのですが……



もしも、登場人物の設定ぐらいは知りたいという方、いらしたらお知らせください。


遅すぎますが、次話の前書きに載せます。


まず、後四話も明日中に投稿できるのかという問題ですけど…(苦笑)



では、これにて失礼。

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