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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒天狗と異星人の駆け引き

作者: 紅月ぐりん

今朝見た夢の内容が面白かったので短編小説として書いてみました。ジャンルはホラーになってますが実際怖いものは殆ど出てきません。

 とあるパーティー会場。


 総勢10人程のメンバーが集い、快晴の空の下テーブルに並べられた料理をつつきながら歓談している。別にそれは業界人が集うような豪華なものではなく至って平素な、ホームパーティーとも言うべきものだった。

 美しく着飾った若い女性。

 食欲の旺盛さが体型に現れてしまった男性。

 長年連れ添ったであろう仲のいい老夫婦。

 多種多様な、どういう繋がりで集まっているのかよく分からない集団の中に馴染むように1人の少年がいた。


 名は黒天狗。勿論本名ではない。というよりも彼には名前が無い。勝手に彼が自分でそう名乗っているだけだ。

 肩まで伸びたボサボサの黒髪に同じく黒い瞳。ともすれば女の子にも見える幼い顔立ちに低い身長。彼は捨て子であり所謂ストリートチルドレンである。戸籍が存在しておらず住む家もない。当然職にもつけない。(それ以前に彼は働けるような年でもない)


 そんな彼はごく自然にこの集まりに集いメンバーの一員として振舞っている。別に彼と同じ境遇の者達の集まりという訳でもないのに。パーティー自体は何の変哲もないごくごく普通のありふれたものである。

 そんな中で裏世界で生きる彼が如何にしてこの場に集う事になったのか。それを気にする者はその場にはいなかった。



 そんな彼は至って普通にこの集まりに参加し楽しんでいた。別に何か盗みを働いたとか悪さをしようとしていた訳では無い。今の彼はパーティーを楽しむただの子供だ。

ちらり、と彼はメンバーの為に用意された一席に目をやる。そこには誰もいない。

「まだきてないのか」

 ぼそり、と呟いた声に返事が返ってきた。

「ああ、そこはとある作家の席だ。〇〇を書いてる△△△先生だよ」

「〇〇だって!?」

 黒天狗は驚く。〇〇といえばストリートチルドレンである彼ですら知っている程に有名な作品である。

「すげえよな。オレも驚いたぜ。オレ△△△先生の大ファンなんだよ。来たらサイン貰っちゃおうかな」

 そう言って嬉しそうに話すのは仲間内からマーキーと呼ばれている青年だった。見かけはいかつく手は早いが気はいい奴で黒天狗とはそれなりの親交があった。

 それから二人はたわいのない会話を交わしながら時間を過ごしていった。




               ◆




「やあ、初めまして。君達もこのパーティーの参加者だよね?」

 そんな風に二人に話しかけてきたのは全身を白いスーツに包んだ若い男だった。

「ああ、そうだ。よろしく」

 そう言って握手を交わすと、ふとテーブルの上に置かれていた色紙に目が付いた。それは、△△△のサインが書かれた色紙だった。他の参加者に頼まれて書いたものだろう。△△△のサインは独特で、彼が書いたものだと見れば一発で分かる。

(そうか。この人があの〇〇を書いた△△△か)

 そう思いながらも黒天狗は特別その事を言及する事も無くマーキーと共に会話に花を咲かせた。


 それにしても、と黒天狗は傍らに立つ男の姿を見る。

(やっぱ何処か普通じゃないな。作家ってのは皆そんなもんなのか?)

 △△△の容貌は別にごく普通のものだったが、彼が着ている白いスーツは材質が普通のものとは違うのか透けてしまって一番下に着ているTシャツまで見えている。布地は薄そうだし、秋も深まった今の時期では寒いだろう。


 そしてそんな黒天狗の考える通り△△△は寒い寒い、とぼやく。それなら何でそんな服を着てきたんだ、と思わずにはいられなかった。

 しばらく会話を交わしていた△△△だったが、やがてトイレに行くと言って席を立ってしまった。




               ◆





 それから時間が過ぎ日は完全に落ちて夜となっていた。黒天狗達が△△△の存在をわすれかけていた時、


 唐突にそいつは姿を現した。



 ボロボロの作業着姿、顔にはマスクを被り大きな鉈を右手に持ちゆっくりとこちらに向かってくる。

「□□□□だあ!! 逃げろぉ! 殺されるぞお!!」

 思わず黒天狗はそう叫びその場から全速力で逃げ出した。マーキーともう一人、若い女性が黒天狗につられたのか一緒に駆け出した。

 □□□□とは〇〇に出てくる悪役で、通り魔的に色んな人達を襲う殺人鬼であった。そんな創作上の人物が何故突然現実に現れたのか。考える間もなく黒天狗達はとにかく走った。


 そう、黒天狗達は走って逃げた。黒天狗は車で会場に来た訳では無いし、乗り物があったとしてもそこまで拾いにいく余裕は全くなかった。


 普通こういう状況になったらまず疑うというか、本物かどうか真偽を確認するものだろう。しかし黒天狗はそんな事をする暇があったらとっとと逃げろと言わんばかりに□□□□から距離をとった。

黒天狗は迷わない。速攻で結論を出し、己の出した結論に己の全てを懸ける。

彼が自らを黒天狗と名乗るのは「風のようにすばしっこくて鼻がきく」からだ。黒天狗は逃げ足の速さと勘の鋭さには自信があるのだ。



 ともかくも黒天狗達は速攻でその場から離れて逃げ出した。突如現れた□□□□が本物で殺人鬼ならば彼等の判断は早く正しい。だが運悪く□□□□は驚いて固まっている他の参加者には目もくれず真っ直ぐに黒天狗達を追いかけてきたのだった。


 黒天狗達が走っている道は一本道だったが場所が田舎なので横にそれようと思えばいくらでも出来たし、トウモロコシ畑や林があったので身を隠しながら逃げるのにはうってつけだった。

 黒天狗はわざとスピードを落としてマーキーと女性を先に行かせてから自分は道を外れて右に曲がった。 □□□□は視角から消えた黒天狗より姿の見えているマーキー達を追うだろう。『卑怯』という単語は黒天狗の辞書にはない。大体、作戦が上手くいく保証などないのだ。彼等が追いかけられる羽目になったとしても運が悪かったという事で諦めてもらう他はない。


 そうして黒天狗は屈みながら姿勢を低く保ちトウモロコシ畑や林の影に隠れながら右へ旋回していきUターンする進路を取った。立ち並ぶトウモロコシの間から黒天狗の存在に気がつかずに真っ直ぐにマーキー達を追いかける□□□□の姿が見えた。

 黒天狗は己の策の成功を確信し、けれど決して油断せずに□□□□の動向に注意を向けながら逃げ去った。



 □□□□の姿が見えなくなっても決して走るスピードを緩めず黒天狗は今後の方針を決めようと思案する。

警察に通報する?否。

 奴が本物の□□□□なら警官が向かったところで止められまい。だいたいストリートチルドレンの黒天狗の言う事を素直に聞いてくれるかどうか怪しい。

 電車に乗って逃げる? 否。もし奴が乗り込んできたら逃げ場がない。

 ではどうする?

(………………)

 悩んだ挙句、人通りの多い場所に逃げるという結論に達した。人目につく場所なら他の誰かが襲われる可能性は高いし通報も誰かがしてくれるだろう。警官達が足止めをしている間にその場から立ち去ればいい。


 そう考えながらも黒天狗はどこをどう通ったのか住宅街に迷いこんでしまっていた。動転していて道を間違ってしまったらしい。だいたい黒天狗にはこのあたりの土地勘がないのだ。

 それでも決して足は止めずに考える事は止めない。

(考えようによっちゃあ不幸中の幸いだったかもしれねえ。もし奴が車に乗って追いかけてきたら人通りの多い場所は逆効果だ)

 あの殺人鬼がまともに車を運転するのかは甚だ疑問ではあるが、もし仮にあの殺人鬼の標的が目に付く誰かではなく、黒天狗のみに狙いを定めていたのだとしたら。

 考えにくい事ではあるが考えられない事ではない。現に最初に姿を現した時奴は無防備な他の参加者を狙わずいち早く逃げたこっちに狙いを向けてきたのだから。

 奴の姿を見た瞬間から黒天狗にはある種の悪寒がついて離れない。目が合った、ような気がしたのだ。あの殺人鬼と。距離が離れていたので確かではないが、黒天狗はあの殺人鬼がどこまでも自分を追い掛けてくるような気がしてならないのだ。


 考えながら悩みながらさ迷っていると、視界に恐ろしい光景が飛び込んできて黒天狗は足を止めた。


 マーキーと若い女性だった。全く正反対の方向へ逃げた筈なのに何故ここに彼等がいるのか。いやそれよりも二人の傍に佇む影。

 □□□□だった。マスクを脱ぎ素顔を晒していたが服装や体格は同じだ。間違いない。

 そうして黒天狗の逃げる先に先回りして待ち構える□□□□を見る限り、最初から奴は黒天狗をひょうてきにしている。それは間違いない。

 問題は、何が目的なのかだ。奴が本物の殺人鬼なら当然殺すのが目的なのだろうが、それならあの二人が今もまだ生きていることの説明がつかない。まるで人質のように扱われている二人を見て、黒天狗にはある疑念が沸き起こりつつあった。

 黒天狗は意を決して彼等の方へ足を向ける。彼等が人質として囚われているならば役に立たないと分かった瞬間に殺されるだろう。流石に目の前で捕まっている二人を目にして見捨てる選択肢はなかった。それにどうせ逃げてもまた先回りされる可能性は高い。



「何が目的だ」

 単刀直入に黒天狗は尋ねた。□□□□は何も言わずにただ黒天狗をじっと見ている。

「お前、本物の□□□□か? 恐らく違うよな? 本者の□□□□のマスクの下には醜い素顔があるし、瞬間移動能力や予知能力の類は持ってない。どう考えても反対側に逃げた俺にお前達が先回りしているのはおかしい」

 何故なら仮に乗り物に二人を押し込んで先回りしていたのだとしても、姿を見失った黒天狗の行方を正確に掴まなければ待ち構える事など不可能だからだ。黒天狗自身迷って偶然たどり着いた場所に先回りしているという事は何かしらの超常現象なり超能力なりが起こった結果だろう。到底信じられる事ではないが、現にこうして起こっているのだ。


 黒天狗はここで目の前にいる□□□□の正体を『人間ではない何か』結論づけた。本物の□□□□も人間と呼べるような存在とは言い難いが少なくとも元は普通の人間だった。

 目の前にいるこいつからは人間の匂いが全くしないのだ。体臭ではなく、人間らしさが。


「もしかしたらあのパーティー会場に来ていた△△△もお前の仲間かお前自身が化けてたんじゃないのか?会場で獲物を選び物色する為に。そうでなきゃ作家が現れた後にそいつの創作物が現実に現れるなんて流れにはならないだろ」

 ただ、やはり何故黒天狗がそれに選ばれたのかは分からない。単に運が悪かっただけなのか、それとも……



 暫く黙って黒天狗の口上を聞いていた□□□□だったが、ようやく口を開いた。

「やはり、噂通りの人物らしい、な……」

□□□□は喋ったりはしない。やはりこの男は□□□□の姿を借りているだけの別人のようだった。

「噂だと? どんな噂から知らねえが、やはり俺が標的か……だが、今すぐ俺を殺すって訳でも無さそうだな」

「………………」

「そうだろ? あんたが本物の□□□□で俺を殺すのが目的なら今頃俺は物言わぬ死体となって転がってる筈だぜ」

「何故、だと思う?」

「ん?」

「俺の正体が何者で、何故お前を狙っていて、何が目的だと思う?」

 その質問に黒天狗はしばし腕を組んで考えていたようだがやがて考えが纏まったらしく口を開いた。

「少なくとも人間じゃないのは確かだろ。あんたからは人間らしさが。全く感じられねえ。目的は……そうだな。人外が人間に興味を持つなら、『調査』は目的の一つではあるんじゃないか? わざわざそうやって俺を試すような事を言うんだからな」

「………………」

「何故その相手が俺で、俺の何を知りたいのかは分からんけどな」



「ふふふ、ふははははっ! こいつは面白い」

「何がそんなにおかしい?」

 突如笑い出した男に黒天狗は訝りながら聞いた。

「お前は頭がいいし、勘も鋭い。だが、そういった高い判断能力を持ちながら自分の価値についてはまるで分かっていない。そこが面白くてな」

「………………」

 憮然とする黒天狗に男は上機嫌そうに言う。

「取り敢えずの目的は果たした。楽しませて貰った礼に二人は開放してやろう」

 男が指をパチンと鳴らすと、二人が急に崩れ落ちた。拘束も何もされているようには見えなかったが、何らかの力で自由を奪われていたのだろう。開放された二人は気を失っていた。



「それで結局、お前の目的は何なんだよ」

 そう聞いてくる黒天狗に、まだ分からないのか、と微かに溜め息をついて男は言った。

「お前が欲しい。心も体も、全てをな」

 黒天狗が放たれた言葉を理解して硬直する間に男はさっさと消えていなくなってしまった。


「それではな、黒天狗。また会おう」


 男の声だけが路地に響き渡ったのだった。



 黒天狗は開放された二人を介抱し病院に搬送したが、二人は奇妙な事に今回の件を記憶からさっぱり消してしまっていた。

 パーティーの参加者達も全員今回の事件の事を覚えておらず、そして△△△の事も初めから居なかったものとして扱われた。

 結局目的は何だったのか、いや、別れ際の言葉を信用するなら何もおかしい事はないのだが、何となくそれを認めてしまうと色々な意味で恐ろしい事になりそうなので、黒天狗は考えるのを止めた。

 再び姿を変えて黒天狗の前にあの男が現れるまでは。




               ◆




「どうだった? 今回の調査対象(ターゲット)は」

「想像以上だった。あれでは、俺達の存在しょうたいを確信するのは時間の問題だろう」

「ふむ。今回の連中のように記憶消去するか。しかしあれは意志の強い人間には効かないしな。最悪の場合……」

「有能なのは間違いない。処分するよりこちら側に引き入れた方が得だ」

「へっ、それはお前の私情だろ? 分かってるぜ、お前今回の調査対象ターゲットに惚れちまってんだろ」

「………………」

「資料の写真を食い入るようにみてたもんなあ。全く、人間に惚れるとは物好きな奴がいたもんだよ。だがいいのか? 人間なんぞに惚れてるのが公になればお前の出世街道は閉ざされるぜ」

「黙れ。余計なお世話だ」





 異星人が人間の子供に惚れてしまった。

 要するにこれはそういうお話。

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