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コテンパンにしました。(自分も危ないようです)

一応ちょいシリアス的な…





私は、目を閉じて想像する。

眼の前で戦っているであろう人。

その人に迫る相手の鋒。

動き、表情、剣技。

どれを取っても負ける姿が思いつかない人を。

見ている必要なんてない、勝敗の確定した未来を想像する。


剣を撃ち合わせる甲高い音が耳に痛いけど、不思議と怖さは感じない。

大きな壁が立ちはだかって、相手の剣先を阻んでいるような錯覚。


「くっ、この、くそが!」

「お嬢さんの前で口が悪いですよ。大口叩いたんだ、もっとしっかり撃ち込んでみろ。」

「き、貴様、調子に乗るのもいい加減にしろ!」


追いつめられたようなガーナルドの声が響き、それを挑発するイアソンが笑う気配がする。

こんな奴の相手するくらい余裕なんだ。

やっぱり強いじゃないの。


「イアソン、勝てるかしら。」


戦っている最中なのは承知で話しかける。

きっと応えてくれるという確信があるから。


「勝ってみせますよ、お嬢さんがお望みなんでね。」


やっぱり、かっこいいのは、私じゃなくてイアソンさんのほうだな。

ガキン、と大きな音が聞こえたあと、ベンチのすぐ横にドスッと何かが落ちる音がして、戦闘音がやんだ。

…落ちるっていうか、刺さった?


「あ、やべ。」


何がヤバいって?

イアソンさん。

ゆっくり目を開く。

勝っただろうイアソンさんより先に、私はすぐ右脇に目をやった。


「ちょっと、イアソン。」


ガーナルドの剣が折れて、私のすぐそばの地面に突き刺さってるんですけど?

殺すつもりですか。

地面に尻もちをついたガーナルドに、日光を浴びて鈍く光る剣を向けているイアソンさんの背中に視線をやる。

知っていますか、視線は刺さるんです。


「いや、久々に力入れたら手元が狂っちまって…。わ、わざとじゃねぇですよ⁉︎」

「…わかってるわよ。」


でっかい身体でオタオタしないの。

可愛いだろちくしょうめ。

まあ当たらなかったからいいけどね、気をつけてよ頼むから。

こっちに苦笑いしながら、ガーナルドを抑えていた剣をしまう。

非合法だけど、決闘っていうからにはもう決着はついた。

イアソンさん、ガーナルドのことはどうせ最初から興味ないんだろうなぁ。

はっ、そういえばクズとの決闘に気を取られて時間のこと忘れてた。

お父様に言われてから結構経ってるよね。

そろそろ馬車のところに戻ったほうがいいかもしれない。

今まで座っていたベンチから降り、まだ茫然自失のガーナルドの手前に立つイアソンさんの元まで歩く。


「そろそろ戻りましょう。お父様が帰っているかもしれないわ。」

「もうそんな時間か、了解。この男はどうします?」

「ほうっておきなさい。」

「…いいんですか?」

「いいから、もう行くわよ。」


ガーナルドの扱いに不満があるらしいイアソンさんと連れ立ってその場をあとにした。

あんな馬鹿が近寄ってくるからゆったりまったりした時間が台無しだよ。

子どもは寝そうなときに起こされるととても腹が立つのだ。

イアソンさんけしかけたのは私だけど!

だってむかついたし。

誰が聞いてるかもわからない場所であんなこと言うなんて、人間としてありえないよね。

だから小物なんだっつーの。

どうせなら中ボスくらいの気高さで向かってこいよ。

ほんとイラつくわあの男。

まったくもって、


「おや、お帰りエステル。ちょうどよかった。今呼びに行こうと思っていたところだ。中庭は楽しめたか?」

「お父様のせいでさんざんでしたわ!」

「お嬢さんお嬢さん!ご当主目の前にいるぞ!」

「わかってるわそんなこと!元はといえばお父様が私たちをおいていくから!私たちははじめてここに来たのに案内もつけないで!」


いつの間にか馬車の前に到着していたらしいけど、頭の中でいろいろ考えていた私は、お父様に話しかけられたことで口に出してしまっていた。

イアソンさんは私を止めようとしていたけど、一度ブチまけてしまったのでこの際全部言ってやろうと思います。

お説教タイムだこらぁ!

たとえイケメンなパパだろうと許すまじ!


「エ、エステル、それは、」

「お父様が婚約がどうのと言って私をつれてきたのに放置!おまけに場所も知らない中庭でたのしめるわけがありませんわ!」

「う、うん、急に仕事の件で呼び出しがな?」

「お父様のせいで私とイアソンはとてもめいわくしました。あやまってください。」

「お嬢さん、俺のことならいいから。」

「…いいわけないでしょう。あなた、あんなこと言われておこらないなんておかしいわよ。私がいなかったらそのままにしておいたんじゃないの。」


ていうか絶対言われるがままになっている様子が目に浮かぶわ。

お人好しだもんね!

長所は短所にもなりうるのよ。


「待てエステル、いったいなんの話をしているんだ?」

「お父様がいなかったときのおはなしですが?」

「…わかった。私が悪かったよ。ろくな説明もせずにおいていって。だから機嫌を直しておくれ。」


しょうがない、お説教は終わりにしてあげよう。

べ、別にイケメンにほだされたわけじゃないんだからね!

…おぇ。

ツンデレ属性は向いてないわ。

私は心なしかしょんぼりしているお父様に身体ごと向き直って、事のあらましを教えようとした。

けど、できなかった。

あるいはお父様の真後ろに剣を振りかぶる人影が見えなければ、そのまま話すことができたのに。


「イアソン!」


とっさに呼んだのが彼の名前であることに、内心少し驚いた。

だって犯人に最も近いのはお父様なんだから。

お父様だって一応腰に剣をさげているし、見たことはないけどきっと強い人だとわかってる。

でも私が知る中では、この人が誰より強い人だと思ってるんだ。


「あんた、懲りもせずに来やがったのか!」

「黙れ!貴様さえ、貴様さえいなければ…!」


剣同士が甲高い鳴き声を上げて押し合う。

目が血走った彼の剣は、イアソンに折られて元々の長さの半分もないものだ。

さっきまで優雅に整えられていたガーナルドの髪は乱れ切り、幽鬼のような雰囲気すら入り混じっている。


「なんなんだあの男は!エステル、そこは危ないからこっちへ!」


お父様に引っ張られて後ろに下がる。

けど、私の目はガーナルドがこちらを捉えた光景をしっかりと目撃していた。

やば。


「このガキがっ!見下したような目で私を見るなァ!」

「うぉっ⁉︎」


火事場の馬鹿力というやつだろうか。

体格のまるで劣ったガーナルドが、イアソンさんを押しのけて私に向かって来た。

反射的に身体が逃げようとする。


「あっ⁉︎」

「エステル!」


小さい足は私の意図に反してもつれ、地面に倒れこんだ。

距離はそんなに縮まっていないのに、殺意のこもった瞳が私を捕まえる。

逃げられない。

逃げられない逃げられない。

怖い。

ゴブリンのときも怖かったけど、人間の殺意はこんなに怖いものだったんだ。


「て、めぇっ!近寄んな!」


ギィン、鋼と鋼が一際嫌な音を立てた。

イアソンさん?

ガーナルドの剣が、今度こそ手から離れていた。

凶悪な鬼の手に、もはや武器となりえるものはない。

助かった、みたい。

安堵の息が無意識に漏れる。

もう大丈夫なんだ。

武器を失ったガーナルドはイアソンさんが取り押さえてくれている。


「イ、イアソン、」


気を抜いて顔を上げなければ、もう大丈夫だと勝手に思わなければ。

首元で、ザシュッという肉を抉るような音がした。

とても冷たい。

身体中凍ってしまいそうなくらい、冷たくて、熱い。


「お嬢さん!」


イアソンさんが呼んでる。

最初はお嬢ちゃんだったのに、いつの間にか上品になっちゃってさ。

ぼたぼた、と首元から流れ出るものはなんだろう。

それは美しい濃紺のドレスをここぞとばかりに汚し、私の身体から逃げ出していく。

首を掌で押さえると、赤いものがべったりついた。

なんだ、これ。

恐る恐るガーナルドのほうを見ると、ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべながら、何かを投擲した姿勢でイアソンさんに捕らえられている。

何を、何を投げたの?


「エステル!動くんじゃない!大丈夫だ、心配するな。私がついてる。」

「お、とう、さま」


喉から上手く声が出せない。

鉄のにおいが辺りに充満している。

お父様が見たこともない焦った顔で私を抱きかかえた。

バタバタバタ、たくさんの足音が響きながら近づいてきているらしい。

イアソンさんは、いまだ暴れるガーナルドを力技で押しとどめて、苦虫を噛み潰したような表情を私に向けた。

なんなんだ、皆してそんな顔で。

状況をたいして把握できていないまま、私の意識はゆっくりと飲まれていった。

クズの名前が少し気に入っています。

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