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着きました。(お膝は大変固かったです)


予想外の重量のせいでキイ、と軋んだ音を立てながら馬車が止まった。

もはや私の存在に慣れたのか諦めたのか、おじさんは落ちないように私を自ら抱っこしてくれている。

ありがとうございます、我々の業界ではご褒美です。

膝はとても固かったが、困り顔のおじさんは大変美味しかった。

冗談はさておき、ようやく公爵邸に着いた馬車から、おじさんが私を抱えたまま降りる。

続いてお母様が、私に物言いたげな目線をくれながら降りるがノータッチで。

いやー、おじさん背高いな。

ガタイもいいし、2メートル近いんじゃないかな。

短い短髪はこげ茶色で、瞳は薄っすら赤い。

厚い胸板と太い腕、大きな掌に大事に大事に抱えられていると、この世で一番安全な場所にいるような気分だ。

前世今世通して血縁の異性以外とここまで密着した覚えはないけども、感覚的には親子みたいでなんら心臓が収縮したりはしない。

好み的な問題なら結構ストライクですけどね?

美形も好きだけどおじさんも好き。

若者では出せない絶妙な色気ムンムンだよ。


馬車から降りた私達を迎えたマーサは、ベテランメイドらしくなく呆然としていて、開いた口が塞がらない感じだった。

おー、マーサが硬直している。

見たこともない武骨な男に抱き上げられた、ものすごくご機嫌な私と、苦笑気味のお母様、落ち込んだ様子の使用人達に順に目線をくれると、今度はわなわなと震えだした。

え、どうしたの、マーサ。

地震?

すると、いつも冷静なマーサが親の仇を見るような目でおじさんを睨んだ。

どこからか短剣を二本取り出すと、胸の前で素早く交差させて構える。

え、なにそのスキル。

ていうか今メイド服のどこからか出したし。

暗器っすか。

うちのメイド長すげーな。


「そこの貴方!」

「おっ、あ、俺?」

「当たり前です!なぜエステル様を軽々しく抱き上げているのですか!誘拐ですか!良い度胸です!白昼堂々オックスウッド家に宣戦布告というわけですね⁉︎ ああっ!セレスティーナ様までも人質に!ええいいでしょう!私がお相手して差し上げます!」

「おい!ちょっと待て!」

「問答無用!」

「マーサ!違うわ!この人は、」

「ご心配には及びません、エステル様。このマーサ、命に代えてもお二人を救い出してみせます!それに私、少々後ろ暗い技術を体得しておりますので!」


だからそういう問題じゃないよね⁉︎

マーサってこんなに人の話聞かないの⁉︎

お母様見てよ、突然のことにどうすれば良いかわからないからオロオロしてるじゃん!

二本の短剣を握りしめたマーサの攻撃がおじさんの頬を掠めた。

薄っすら浮かび上がる鮮血に、生粋のお嬢様たる私は失神寸前です。

…冗談です、どうせ図太いですよ。

って、だからマーサ!

目にも留まらぬスピードで短剣を振り回すのはやめなさい!


「おい!待てって!話を聞けよ!」

「誘拐犯の言うことなど誰が!」


マーサの迫り来る短剣を初撃以外全てかわしきるおじさんマジすげーっす。

ちゃんと私に当たらないようにしてくれてるし。

自分だけ避ける動きしたら私ざっくりいっちゃうもんね。

私を片腕抱きにシフトチェンジして、おじさんの腰の長剣に手がかかる。

マーサの綺麗な眉がピクリと動いた。

…降ろしてやってくんないかなぁ。

あわや撃ち合いかと思いきや、意外なところから制止の声が上がった。


「そこまでだ。」


品の良い低音ボイスは、特に張り上げたわけでもないのに辺り一面を支配した。

とろけるような声音にお母様の笑顔が咲き乱れる。

恋する乙女か、お母様。


「ギルバート様…!」

「エステルが違うと言っているのが聞こえなかったのか、マーサ。」

「しっ、しかし、こやつはエステル様を抱き上げているのですよ⁉︎ それでも良いのですか!」

「ふぅ…、マーサよ。少しは落ち着いたらどうだ。」


唐突に割って入った美丈夫は、美しい顔を歪めてやれやれと首を振った。

なんか、する事なす事に色気振りまくのやめてほしい。

イケメンなパパは嬉しいけど、度がすぎると現実味がなくなるなぁ。


オックスウッド公爵家当主にして、我が父ギルバート・オックスウッドは稀に見る美丈夫である。

その美貌たるや、あのエルフすらも裸足で逃げ出すのではと噂されるほど。

エルフなんて存在はいませんが。

ツッコミはさておいて、ともかくそれくらいのイケメンだよーということであるが、パーティーやらなんやらで言いよる女性は数知れず。

しかしその全ての誘いを断っていたお父様は、なまじ公爵家子息であったために自分より高位の令嬢に無理な婚約を迫られることもなく、幸いにも当時の王家には男子しかいなかったこともあって、のんびりと青春を謳歌していた。

当然一人で。

ぼっちですか、お父様。


しかし、そこに現れたのが麗しのお母様なのです!

しぶしぶ出席したパーティーで出会った聖女と見紛うばかりに光り輝くお母様に、一目惚れしたお父様は初対面(ていうか自己紹介すらまだだった)にも関わらず声高に叫びました。


結婚してくれ、と。

デロッデロに甘いですな。

まだ4歳なのにこの話を通算50回は聞いたね。

しかも二人から。

娘が溶けたらどうしてくれるんだろうか?


…まぁ、それはいいよ、別に。

晴れて二人は一緒になって今に至るわけですが、さぞかしいろいろな障壁があったのかと思いきや、とんとん拍子に話は進む進む。

なんかね、両家のお爺様達は我が子の結婚がままならないのではないかと気が気じゃなかったようで、あっという間に婚約成立。

すぐさま婚姻関係を結んだとか。

他家のお嬢様が手を出す暇もなかったらしい。

お母様も伯爵家の令嬢だったけど、伯爵以上はいっぱいいるから遅れていたら危なかった。

ていうか私は産まれてなかった可能性もある。


「なぁお嬢ちゃん、あれは誰なんだ?またえらい美形だな。」


お父様の急な登場でおじさんはキャパオーバーらしく、片腕に抱いたままの私の耳元に小声で問いかけてきた。

お父様には及ばないまでも、骨に響くような重低音を耳元で発するなんて、5歳児をどうする気ですかー。

…まあうん、気になるよね。

お父様当然のように出てきたし。

俺のこと知ってるだろ?的な。

いやいや、うちのお父様はそんな痛いナルシストじゃございませんことよ。


「あれは私のお父様です。」

「お父様って…マジか。」


よし、話を戻そう。

マーサを止めたお父様は私とおじさんに目線を移し、目元を和らげたかと思えば頭を下げた。

笑わないところがまたイケメン度割り増しさせてるよ。


「早馬で事情は聞いた。娘を救って頂いたこと、心から感謝申し上げる。」

「いや、ほんともう、俺はたいしたことは何もしてないんで…あの…。」


帰っていいっすか。

そんな声が聞こえてくるような表情してる。

すっごい居心地悪そう。

おじさんの方が20センチくらい身長高いはずだけど、体格はともかく威圧感で負けてる感じ。


「是非とも我が家へ立ち寄ってくれ。モンスターの話も、よければ聞かせてほしい」

「…はい。」


おじさんは、退路を塞がれてしまった!

ふざけてる場合ではないけど、お父様はきちんとモンスターの話もするだろうし、これで万事解決だ。

一時はどうなることかとおもったけど、命拾いもしたし、めでたしめでたし。


おじさんを案内して玄関の扉をくぐったところで、お母様と連れ立って歩いていたお父様が思い出したように振り返った。

黒いオーラが見えるのはきっと気のせい。

幻覚だよ。ほら、幻惑魔法的な。

存在しないけど。


「その前に、エステルを降ろしてもらおう。これについては譲らないから、そのつもりでな。」

「はっ、い。すぐに。」


せっかく威厳のある風だったのに、台無しだよ、お父様。

おじさんの力強い腕とはおさらばしたが、手を繋いではいけないなんて言われてないもんね!

私はおじさんの手を握ったまま、お父様とお母様の後に続いた。

身長差の激しい私に手を引かれて中腰になっても、振り払われることはなかった。

優しいなぁ、もう!


こらこらお父様、睨まない睨まない。

大人気ないよ。

おじさんの名前が決まらない…

自己紹介あるのに…

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