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助かりました。(株も下がりました)


ゴブリンの棍棒が振り降ろされる。

お母様の悲痛な叫びが轟いても、私はずっと棍棒から目をそらせなかった。


ああ、痛そうだな、とか。

退場するには早くないかな、とか。

まだ婚約の話すら出てないのに、とか。

一瞬でいろんなことを考えた。

魔法ないのにモンスターとか一方通行フザケンナ。

なんで私がこんな目に合わないといけないのだろう。

たしかに前世は立派とは言い難い人間だったけれども、運良く転生した先で間違ってもゴブリンに撲殺されるほど不道徳ではなかったように思う。

適当に高校卒業して、適当に大学入って、適当に友達と授業受けて、単位ヤバいって騒いで、飲み会だって調子乗って、そんな普通ここに極まれり的な人間だったのに。

もっと長生きしてもよかったんじゃないかな。

恋なんてのもしてみたかったし、よりによって恋人いない歴=年齢だったし。

ちくしょう、呪ってやる。

緑色の怪物め。


って思ったところで、ゴブリンの棍棒が空中で止まった。

血走った目が私を射殺さんばかりに睨みつけている。

今度はなんだよ、もう!


「おいおい、危ねぇなぁ。こんなお嬢ちゃん相手に木の棒振り回すなんざ、ちいと下品ってもんだ。」


素敵なセリフと共に登場してくれたのは、一見粗野な感じのおっさんでした。

おおう、肉食系ですか。

前世では周りに存在しなかったタイプだ。

絶滅危惧種ってやつだよ。


おじさんは手にした大剣をゴブリンの棍棒の下に滑り込ませ、交差する形で競り合っていた。

にやり、という擬音付きで笑ったおじさんの目が今のうちに逃げろと訴える。

目力半端ないです、おじさん。

普通の4歳児はこれだけで泣くからね?

ともあれ、私は素早くおじさんの下から抜け出し、だいぶ距離を置いてから立ち止まった。


とてもじゃないけど、今はお母様の所に行く気にはなれなかった。

お母様はともかく、メイドや執事達に対する株は急降下だ。

せめて誰か助けようとしてくれても良かったんじゃないの。

ていうか助けろよ。一応お嬢様だよ。

お父様に言いつけてやろうか。

娘溺愛のあの人ならめっちゃくちゃ怒りそう。

あくまで予想でしかないけど。


未だ使用人達に囲まれて守られているお母様は、私が助かって緊張感の糸が切れてしまったようで、敷物の上に両膝を付いて泣いているらしい。

周囲の使用人達はお母様を慰めているみたいだけど、お前らちょっとそこに直れ。


「うらぁ!」

「グギッ、アァア!」


おおう、グロい悲鳴だ。

薄情な使用人を睨みつけている間に戦闘が終わっていたようだ。

良いところ見逃した、なんか損した気分。

おじさんは結構な使い手なのか、ゴブリンを一太刀で斬り伏せた時に付いた体液を払い落として大剣を鞘に戻した。

くるりと身体を反転させたおじさんと目が合う。

その目が、お前まだこんな近くにいたのかよ、と語っていた。

4歳にもいろいろあるんですよ、のっぴきならない事情ってやつが。


「あー…お嬢ちゃん、怪我なかったか。」


目をそらさない私と無言で見つめ合うのが辛かったのだろう。

おじさんはガリガリと乱暴に頭を掻きながら、ニヒルとか通り越してもはや悪人としか言えない歪んだ笑顔を向けてきた。

頭の中で5歳児の精神が怖さに絶叫してるけど、妙な安心感の湧き上がるその笑顔にいてもたってもいられなくなって、おじさんの太ももに体当たりしながら抱きついた。

人生初のスキンシップってやつですな。

瞬間、ドッて砂袋落っことしたみたいな音と衝撃がした。なんか複雑。

もうちょっと詰まってるよ。

夢とか希望とか。

きっと詰まってる、もしくはこれから膨らむ、はず。


「うぉっ⁉︎ なんだ?どうした、おい。」


どうやら思いの外ゴブリンが怖かったらしく、抱きついたまま嗚咽しか返すことのできない5歳児の頭を、おじさんは恐る恐るといった様子で泣き止むまで撫でてくれた。

ちょ、素敵すぎる。


しばらくして泣き止んだのはいいけど、引っ込みがつかなくなっておじさんから離れられません。

ていうか離れたら死んじゃう気がする。

産まれ落ちて5年で命の大切さがわかってしまった。


「なあ、お嬢ちゃん、もう泣き止んだろ?離れてくれよ。」


おじさんの問いにも嫌々と首を振るだけ。

困ったような雰囲気が伝わってくるけど、残念ながらスルー。

この場で私が心底信用できるのは、命の恩人であるおじさんだけなのだ。

吊り橋効果(笑)と言いたければ言うがいい。

どうせ単純ですよ。

お母様はまだいいが、使用人連中はマジでやめて。

こっち来ないで、泣くよ?

子供の心ナメんな。

信頼はすぐ崩れるんだからな!

砂の城だぞ!


「エステル、離して差し上げなさい。困ってらっしゃるわ。」

「…いやです。」

「エステル…。」


だってこの人安心できるし。

困ってる風だけど嫌がってる感じはしない。

動物に好かれるタイプですね、わかります。

なんか遊園地で風船持った着ぐるみに抱きついているようだ。

お母様はどうやら私が使用人達に不信感を抱いたことに気づいてる。

誰だってたった今命の危機を脱した5歳児に無理は言えないだろう。

ならば後は押して押して押しまくるのみ!


「…お母様。」

「エステル…!」


話しかけただけで花が咲くほどの笑顔ありがとうございます。

笑顔って、本当にぱぁって擬音がつくんだな。

うるうるしてるお母様の目を見つめつつも、手はしっかりとおじさんのズボンを掴んで離さない。

子供は意外と強かなのだ!


「この人もつれていってください。」

「エステル⁉︎」

「お嬢ちゃん⁉︎ 」

「私のおんじんですし、もてなすぎむがあるとおもいます。」

「それは…そうだけれど。」


よし!あと少し!

言ったれ私!


「それに、ここにモンスターが出るのはもんだいです。じっさいに戦ったこの人から、お父様におはなししていただいたほうがよろしいのではないですか?」

「そう、ねぇ。わかりました、エステルがそこまで言うなら。申し訳ないけれど、一緒に来て頂いても構わないかしら。是非娘を救って頂いたお礼をさせてちょうだい。」

「えっ、いや、はぁ…。でも、俺は特にたいしたことはしてないし、怪我がないんならこれで…。」

「行きましょう、おじさま」

「おじ…っ⁉︎」


やったー!

晴れて私の命の恩人であるおじさんを加え、馬車に乗って公爵邸への帰路についた。

おじさんはかなり困惑気味だったけれども、手を引っ張って無理矢理馬車に乗ってもらった。

ここまで乗ってきた愛馬がいるらしいが、なんと頭の良いことにきちんと自分で付いてきているらしい。

真っ黒で大きな馬でしたわ!

うちの馬車の馬より1.5倍くらいあるんじゃね?っていう。

きっと大柄なおじさんを乗せなきゃいけないから普通の馬じゃダメなんだ。

おじさんやっぱすごい人なんだろうか。

命の危機だったことを盾にお母様の言うことも聞かず、道中ずっとおじさんの膝に座らせてもらった私は、誰から見てもご満悦だったに違いない。

小説難しい…。

普通に書いたら文字数少なくてヤバいっす。

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