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少し成長しました。(5歳)



皆様知っていますか。私もう5歳ですのよー!

長かったようで短かったこの5年間!

公爵令嬢であるための教育のおかげで、すっかりお嬢様言葉が染みついてしまいましたわ!

…もちろん嘘ですとも。まだ5歳ですから。


お久しぶりでございます、エステルです。

ありがちなチートスキルもなかったので、毎日ゆっくり普通に成長しました。

詳細はwebで。あ、嘘ですごめんなさい。

小難しい本を読んで天才児呼ばわりされるイベントもなければ、魔法の才能に目覚めるイベントもありませんでした。

だって字読めなかった。

ていうかそもそも魔法は存在していない。


私は今日もだだっ広い公爵邸の庭でお美しいお母様とティータイムです。

お父様はてっきりゲスい悪代官系かと思えばただのイケメン親バカだった。解せぬ。


「エステル、今日は何をしようかしら?」


今日も今日とて聖女ばりの清いオーラを放つ美女、もといお母様が精緻な細工のティーカップをこれまた美しく持ち上げる。

このお母様、まだ5歳の娘にそこまで厳しい教育を施すつもりがないのか、こうやって私にやりたいことを問う日々である。

両親揃って甘々だよ、ほんとありがとう。

おかげで私は幸せです。


「セレスティーナ様、本日は天気も良いですから、お嬢様と遠乗りなどいかがでしょう?」


傍に控えていたチーフメイドのマーサが、私とお母様のカップに優雅な所作でお茶のお代わりを注ぐ。

あ、そのくらいで。

うん、美味しい。


セレスティーナというのはもちろんお母様の名前だ。

綺麗な人は名前まで綺麗だよ、まったく。

ちなみにお父様はギルバートである。

ありがちだね、あっはっは。


「そうね。素敵な案だわ、マーサ。早速準備をお願いできる?」

「お二人がよろしければ、いつでも。」


ふむ、どうやらマーサは既に準備を終えているらしい。

仕事が早くて何よりっていうか、お母様の考えを先読みしてるマーサの熟練者加減がすごすぎる。


ともあれ、この日私とお母様は公爵邸からすぐ近くの湖まで遠乗りをすることになった。

遠乗りと言っても私はまだ5歳だし、お母様も公爵夫人という身分の高い人なので、馬車に乗るのだ。


ガタガタ揺れる馬車に乗って30分もすると、大きな湖へと到着した。

命からがら馬車から駆け下りた私は既にグロッキー状態。

…誰か、スプリング開発求む、至急。

乗り物酔いはなかったはずだけど、中世の馬車ナメてた。

揺れヤバい。

あの中でにこやかに話せるお母様は実はすごい人なんじゃなかろうか。


「ああ、綺麗ねぇ。心が洗われるようだわ。そう思わない、エステル。」

「はい、お母様。」


え、お母様に心を洗わないといけないようなことが?

あ、あれか、お父様が仕事で帰ってこないからね。

つまんないよね、うん。

でもやっぱ自然はいい。

生まれ変わってインドアではなくなったし、一応。

一緒に付いてきたメイドやら執事やらが柔らかい草の上に敷物を敷いてお茶の準備をしてる。

残念ながらマーサは付いてこられなかった。

屋敷を空けるわけにはいかないそうだ。

有事の際に指示を出せる人間がいないとダメなんだと。

馬車に乗るときにマーサも行こうって誘ったら妖しげに微笑まれて断られた。

マーサかっこいい。

てか、諸君、お茶はもういいよ。お腹たぷたぷになるから。

さっきも飲んだし。胃袋小さいんだ、5歳児は。


たらふくお茶を飲まされては堪らないので、なるたけ無邪気に見えるように湖のほとりに咲いた花に近寄る。

ふっふっふ、私がお茶から距離をとったことなど誰も気づくまい!

そこで私が遊ぶのを微笑ましげに見守っているがいいわ。

薄い紫の花がポツポツと咲いていて、あらまあなんて綺麗なんでしょう。

まるで水辺に誘っているようだ。

落ちないからな、絶対に。

うん、可愛い可愛い。

ついでに花冠でも作ってお母様にあげようかな。

きっと似合うんだろうなー。

そこらに咲いてるのでも一流ブランド級に似合うのがお母様ですよね。

さて、摘むかー。あ、これ傷んでる。

と、花を摘みに蹲った時だった。

ゆらり、と私の頭上に濃い影が落ちる。

近場に木はなかったはずだけど。ん?


「え?」

「グギャアアアァア!」

「エステル!」


耳が千切れそうな奇声の後、普段聞かないお母様の大きな声が鼓膜を震わせる。

うるさいうるさい、鼓膜破れる!

見上げると、木の枝で作ったような棍棒と粗末な腰布を巻いた緑色の肌の…


ゴブリンンンン⁉︎

えっ、あれぇ⁉︎

低位モンスターとナメてかかるとヤバいRPGの王道じゃん!

誰か、誰か私に初期装備を!鉄の剣とか!

持ってても使えないのは明白だけれども⁉︎

つーか魔法ないのにモンスターいるのかこの世界はぁ!

理不尽!間違ってるぞおい!


「エステル!逃げて!お願い!」


こっちに駆け寄ろうとするお母様を、メイドと執事が懸命に抑えつけているのが見える。

え、助けてくんないの?

お母様守んないといけないのは、わかるけど。

まさかのここで死亡フラグ?

…マジで?

魔法もチートもない、まして初期装備すら持たないただの5歳児に、ゴブリンなんてものがどうにかできるわけがなく。

私は緑色の手に握られた棍棒が、いっそ憎々しいほど澄み渡った青空に天高く振り上げられたのを目撃した。

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