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おねだりします。(落とし物は届けません)

なんか、やっと人増える感じです。



私の目が覚めてから三日ほど経った。

件のフーバー子爵は、隠居して嫡男に爵位を譲ったとお父様から聞いた。

新子爵はあの男と血が繋がっていることが信じがたい傑物らしく、家を継いですぐに父と弟の無礼に対する謝罪の手紙が届いたそうだ。

お父様も代替わりした子爵にまで怒りを向ける気はないようで、今は彼の人柄を見極めるべく動いている。

ちなみに、ガーナルドの罪状は国外放逐に決定した。

すでに家名も剥奪されており、これからはただのガーナルドとして生きていくことだろう。


イアソンさんも正式にオックスウッドの従者として雇われることになり、お父様に公爵家特製の軍服のようなものを無理矢理着せられている。

なんとなく助けてほしそうな顔をしてたけど、面白いから傍観してやった。

仕返しなんて微塵も思っていませんよ。

着た感じはどちらかというと、従者よりもただの軍人っぽい傭兵だ。

あんま意味ないね。


「私服じゃダメなんですかね。」

「いいじゃない。くふっ…かっこいいわよ、強そうで。」

「しっかり笑ってんでしょうが。どうせ傭兵みたいだとか思ってるんだろ、お嬢さん。」

「…それより、剣はどうしたの。いつも持っていたでしょう?」

「そらし方が露骨すぎますよ。剣は、ちょっとヒビが入っちまいましてね。長いこと使ってきたんで残念ですけど、もう使えません。」


なんでもないように肩を竦めたあと、本来なら剣があったであろう腰を撫でる手を私は見逃さなかった。


「やっぱり、落ち着かない?」

「いや…ただ、俺にはこれくらいしか取り柄がねぇから。ま、なくても戦えないことはないんで、大丈夫です。」

「そう、なら剣を買いに行きましょう。」

「…あんたね、俺の話聞いてたんですか?なくてもいいですって。」

「またガーナルドみたいなのがおそってきたらどうするの?それも大勢で。あなた一人なら素手でもいいかもしれないわ。あなたは強いもの。それじゃあ、私は?私はどうすればいい?」

「あー…そういや、お嬢さんはまだ5歳だったな。どうもあんたと話してると大人に思えて仕方ねぇ。」


ぎくっ。

イアソンさんめ、意外と勘がいい…!

剣呑な視線を向ける私を気にもとめず、頭をがりがりやりながら、それもそうだな、と頷く。


「せっかく忠誠を誓ったんだ、守れないと意味がありませんからね。」

「じゃあさっそく行きましょう。」

「行くって、お嬢さんも来るのか?たいしたもん買えるわけじゃねぇし、あんたすぐ危ない目にあうだろ。家で待っててくださいよ」

「いいから、ちょっとついてきなさい。」


私はそう言うと、今までいた自室を飛び出して一階にあるお父様の書斎に向かった。

いつもならもうすぐ城に仕事に行く時間のはずだから、書斎の前にいればお父様に会えると思う。

言った通りに少し離れてついてくるイアソンさんを確認して、書斎へと続く長い廊下をひたすら歩く。

ようやく書斎にたどり着くところで、扉が開けられてお父様が出てきた。

ナイスお父様!


「お父様!」

「ああ、エステル。体調はどうだ?出歩いて平気か?」


フーバー前子爵が押しかけてきた日に抱っこ宣言された私ですが、泣き落としでお父様に撤回させました。

ちょうどイアソンさんのことで涙目だったからすぐ泣けた。

ま、当然だよね、あんなの。


「大丈夫です。ところでお父様、これからお仕事ですか?」

「ああ、少し城のほうにな。なるべく早く帰るよ。」


お父様のお仕事はもっぱら政治関係で、どうやら昔から唯一親しい国王陛下に呼びつけられているようだ。

なんでも政が苦手らしく、お父様は相談役みたいな立ち位置にされている。

大変だな、お父様。

この国が豊かなのは、大半がお父様のおかげであっても不思議じゃないかも。


「お父様におねがいがあります。」

「ほう…お願いか。」

「イアソンが持っていた剣がこわれてしまって、イアソンは自分で買うと言うのです。でもようやく決まった私の従者ですし、ちゃんとしたものがいいでしょう?ですからお祝いもかねてプレゼントしたいと思います。…いけませんか?」


この、いけませんかの部分で上目遣いするのがポイントだ。

イアソンさんに抱っこされてちゃ見下ろすことしかできないし。

お父様は今、私が怪我をしてることで親バカのタガが外れてる。

きっとお願いも聞いてくれるはず!

案の定お父様は私の頭をぽんぽん撫でると、懐から財布を取り出しました。

チョロい。


「そういうことなら、王都の職人街にあるフットリーという店に行きなさい。私が結婚する前から懇意にしている店だが、店主も気のいい男でな、腕もたしかだ。お前とイアソンならきっと大丈夫だろう。」


財布から白金貨を取り出しながら、お父様は妙な含み笑いをしてみせた。

白金貨。

うおおい!

白金貨⁉︎

え、一枚、二枚、さん…?

何枚ですかお父様⁉︎


「これだけあればいいだろう。良い剣を選んでやれ、エステル。ただし、くれぐれも安静にな。」

「っ、はい…。」


差し出された白金貨五枚を両手でそっと受け取る。

あ、意識が…。

私白金貨は滅多に見られないとか言いませんでしたっけ。

おかしいな。

間違っても5歳の娘に与えていい代物ではないはずなんだけど。

私が白金貨を凝視しているうちに、お父様は爽やかな風を残して出勤していった。

5歳児に白金貨五枚。

なんか語呂がいいかも。

じゃなくて!

お父様の親バカ具合を舐めていました。

白金貨五枚も使って買う剣って、ワールドクラスの聖剣とか魔剣じゃないかな。

イアソンさん何と戦うんだよ。


と、ともあれ、軍資金を得た私とイアソンさんは、現在彼の愛馬に乗って王都を目指している。

なぜ馬車に乗っていないかというと、イアソンさんが嫌がったからだ。

曰く、馬車は狭くて何かあったときに動きづらいとのこと。

そりゃあ、そんな大きな身体じゃ狭いわ。


「で、そのフットリーって店は王都のどこらへんなんです?」

「お父様は職人街の西側だって言ってたわ。」

「そりゃ大通りに近いな。ご当主が紹介するくらいだ、いい店なんでしょうね。」

「どうかしらね…。」


お父様のことだから、なにかしら厄介事が待ってる気がする。

あの含み笑いも気になるし。

そういうとこだけしっかりしてるもんなぁ。


オックスウッド公爵領は、王都からほど近いところに存在している。

建国以来続いている我が家は法衣貴族ではないので、当然領地がある。

それもかなり広大な。

王都を囲むようにして、うちを含む公爵家の領地があり、その周りにまた侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家と広がっていく。

例外で国境付近に辺境伯が何人かいるが、まあだいたいそんな感じだ。

ちょっと贔屓じゃないかなってくらい王都に近いので、基本的にうちの家族は領地の屋敷で暮らしてる。

王都にも屋敷はあるけどね。


「お嬢さん、そろそろ城門に着きますよ。」

「わかったわ。」


私はもらったお金を落とさないよう注意しながら、無駄に豪華な刺繍の入った巾着からお父様が一筆書いてくれた書状を取り出す。

いつもは馬車にオックスウッドの紋章が入ってるから、顔パスみたいに城門を通れる。

けど今日はイアソンさんと馬に乗っているわけで、そうもいかないのだ。

ついでに、うちの紋章は盾を中心として黒い狼と白い雄鹿が背中合わせになっている。

黒い狼は誰にも御することのできない武勇を、白い雄鹿は濁ることのない叡智を表しており、背中合わせは互いを損なわないことの証である、らしい。

完全にマーサの受け売りだけども。

とにかく、私達は普通に馬に乗っているので一目で貴族かどうかはわからない。

身なりがいいくらいの人は結構いるのだ。

商人とか、冒険者だって強ければ稼げるって聞くし。

でも市民に混ざって長いこと待つのは、怪我をして要安静の私にはキツいだろうという、またしても親バカお父様の計らいである。

書状には、これは私の娘とその従者なので、城門を通してよいという旨が書かれている。

要するに、この紙切れが身分を保障してくれるVIP専用パスポートになるというわけだ。


「オックスウッド公爵家ご令嬢のエステル・オックスウッド様と…従者殿、ですね。たしかに書状をお見せいただきました。どうぞお通りください。」

「ありがとう。」


門を警備している衛兵に書状を見せると、イアソンさんだけ訝しげに二度見されていた。

笑い声がもれなかったのは奇跡だ。

普通は令嬢乗せた馬に従者が一緒に乗ることはないからなー。

それこそ盗賊にでも襲われて馬車が走れなくなったりとか。


「お嬢さん、王都の中はあんま馬走らせられないんで、降りることになりますけど。」

「いいわよ、別に。」

「歩いても大丈夫なんですか?連れてきといてなんですがね、ご当主に安静だって言われてるし、職人街までは距離がありますよ。」

「だから、大丈夫だって。」

「…やっぱり信用ならないんで、お嬢さんは俺の言う通りにしてください。」


ちょっと、信用ならないってどういうこと。

抗議しようと口を開きかけたところで、ひらりと華麗に降り立ったイアソンさんに抱っこされながら馬から降ろされてしまった。

またこれ⁉︎


「はなしなさいイアソン!」

「はいはい、じっとしててください。」


ジタバタと暴れるも、たくましい腕に非力な私が勝てるわけがない。

逆に落ちないようしっかり抱え直された。

ちょっとぉお!

衛兵が見てるじゃん!

私のささなかな抵抗も虚しく、門近くの厩舎に馬を預けたイアソンさんがさっさか歩き出す。

やーめーろー。


「ほらお嬢さん、市場ですよ。」

「だからなんなの…。」


抵抗するのにも疲れたわ。

もういいんじゃないかな、歩かなくていいのは楽だし。

諦めモードに突入した私の目に、賑やかな市場が飛び込んできた。

美味しそうな匂いのする屋台や、珍しい果物を扱う店が並んでおり、所狭しとそこらじゅうに人が溢れかえっている。

イアソンさんがそこに一歩踏み出すと、皆がちらちらと私達を見ているのがわかった。

やっぱり誘拐に見られてんじゃないの、これ。

我関せずといった顔で人の波を分け入るものの、向けられる視線に若干煩わしそうだ。


「相変わらず混んでるな。」

「来たことあるの?」

「一応ここの兵士だったんでね。よく来てましたよ。」


何度か店の呼び込みに足を止められながら、とりあえず誘拐の嫌疑をかけられることなく市場を抜けることに成功した。

よく考えたらこの世界に生まれて初めての人混みだった。


王都の内部は王城を中心に貴族街、職人街、市民街と、領地の分布に近い形に作られている。

ひとつ違うのは、ここの貴族街は職人街と接するところに一代貴族の騎士爵の屋敷が存在していることだ。

騎士爵は領地を持たず、次代に爵位を継承することはできないけど、国王直々に活躍が認められ、当代のみ貴族を名乗ることを許されたすごい人達のことをいう。

会ったことないけど。


「ご当主の言ってた店は、たしか西側だったよな。とすると、ここらにあるはずだけど。ご当主が贔屓にするくらいだから、もっと貴族街に近いところか?お嬢さんも探してください。」

「どちらかというと、市民街に近いんじゃないかしら。」


お父様が素直に貴族街近くの店を利用するとは思えないし。

わざわざ遠くの名店を探しに行きそうではあるよね。


「この俺がこんな店の剣を買ってやろうというんだ。大人しく注文通り作れ!」


私が市民街の方向を指差した瞬間、まさにそちらから荒々しい声が聞こえてきた。

遠目にだが、店の看板にはフットリー武具と書かれているように見えてならない。

…なんでこう、トラブルばかり落ちてるんだろう?

誰だ、落としてんのは。

拾ったら一割とかいらないんで、放置してもいいですか?

話全然思いつかなかったので、大変でした。

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