一章 九話
部屋に入るとひとつメノアは溜息をついた。
物心ついた頃から、自分はヴィギアとほぼ二人だけで生活していた。遥かここから西の、巨大な大地の割れ目のような谷間にひっそり建つ城に二人きり。
ヴィギアを訪れる者もよくいたがほぼ毎日二人きり。だからといって始終二人くっついているわけでもなく、食事以外会わないこともよくあった。
『ロワの子』と呼ばれ、あたりまえのようにそれが自分を形容する言葉だと思っていた。育つにつれて、つまりそれはヴィギアは母親じゃない、という意味であることを知った。生き物は親から生まれるものだと学習した頃、自分の親は何なのかとヴィギアにしつこく聞いた時、きっと日の光から生れ落ちたのだと思う、と言われたのを覚えている。でも、ここには太陽はない。『ロワの子』といわれていたのに、親はロワじゃない。稀にヴィギアを訪れるそのロワは…不思議な魅力を持ちつつも、何を考えているかわからない少し我侭で高飛車な奴だと思っていた。ヴィギア曰く、一番の友で、一番の女神よ、ということだったが。
「どうなんのかな…」
ぽつり、と思わずつぶやいた。
馬に乗っての移動と、城についたとたんに初めて見た仲間からの歓迎。
馴れ馴れしいのは得意ではない。
すこし疲れた…
メノアは二つあるベッドを見て、とりあえず入って右側のベッドへ腰を落とした。
得意ではないが…これからずっとあいつらと一緒なんだな…
ヴィギアは…寂しくはないのかな。
どんな失敗をしてもやさしく見守ってくれたヴィギア。
ずっと いつかは仲間に会うためにあの城を出て行かなくてはならないといつも言われて覚悟はしていたつもりだった。
なのに、こんなに突然に。
憶測はつく。たぶん、力の制御ができるようになったから。
ついこの前、やっとなんとか思う通りの制御ができるようになった。
そして次の日にロワが訪れてきた。
そして、ハデスの城へ移ることが決まった…
物質を細かい粒子に砕いてしまう、『砕』の力。
意図せず物を砕いてしまうこともよくあった。
力の暴発が危険だから制御できるまではハデスの城へ置けない、ということだったんだろうと思う。
まだ4人しか集まってないってことは…俺みたいに力の制御できてない奴がまだいるってことなのかな…
ベッドに横になり天井を見ながらふと思う。
もしかしたら俺、デキのいいほうなのか?
自惚れるつもりはないが つい湧いたその考えに自嘲した。
天井から窓の外へ目を移す。
まだ次の食事までは時間がありそうだ。
ふと、対面にある空のベッドを見やる。
どんな奴が来るんだろう。まだロワから連絡がきてないっていってたな。
ラルフ…とかいった。
…あの犬みたいな…うるさくない奴だといいんだが…
…ヴィギアは…帰ったかな。
次々に色々なことをつい考えてしまう。
おちつかないな…
空き時間は常に本を読んでいた生活だったため、ふと何もすることがないと何をしていいのか困る。
さっきの部屋にもどれば本があったことを思い出し、そこへ一人で向かってみようとメノアは立ち上がり扉を開けた。