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The Land of the Last Moon  一章  作者: しんまお
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一章 四話

 鋭い牙をすぐ傍に感じつつも、傷つけぬようにと気を使って咥えられての移動は意外にも心地よかった。しかし何処へ連れてゆかれるのか、これから何がおこるのか、緊張は耐えなかった。


 「ほら、もうすぐ着くぞ」


 ケルベロスの言葉に前方を見ると、闇の中に黒い城が見えた。城門からはかなりの距離があるが、その間はまた荒涼とした大地があるだけ。あそこから見えなかったのが不思議に思える大きい城だった。


 城を囲む堀にゆっくりと釣り橋がおろされるのが見える。


 橋が設置されるのとほぼ同時に、ケルベロスは橋に足をかけ渡る。橋に手すりはなく、ケルベロスに咥えられた高さから見下ろすその堀の深さに身が縮む。


 「ようこそ、ロワの子供達」


 ケルベロスとはちがう声にはっとすると同時に、彼らは地に下ろされた。

 見上げるとそこには『おとこ』がいた。


 「はじめまして。あなたたちの世話係もすることになりました コダと申します。」


 にっこりと笑い黒い衣を着てどこか中性的なその人は話を続けた。


 「前もってロワ様からは伺っておりますが…ほんとうに小さいですね。ケルベロスに運ばれたところを見ると、やはりまだお一人では歩けませんか?」


 二人ともフルフルと顔を横にふる。


 『元の姿にもどりたい…戻ったら歩けるのに!』


 ヒシリアがたまらずに言うと、コダはそっとヒシリアの頭に手を置いた。


 「あぁ、祝福を受けた姿からまだご自分で戻られないのですね。慣れるまでは大変でしょうが、すぐご自身でコントロールできるようになりますよ。少しわたくしの力をお貸ししますので、ご自身で元の姿にもどることを強くイメージして、念じてみてください」


 言われたとおりに目をつぶって必死に考える。


 頭に置かれた手が熱い。


 『あっ』


 ゆるり、と眩暈に似た感覚を覚える。手足に痺れが走る。背中が熱い…と思ったときには変化は終わり、背中の翼を伸ばすように、大きく伸びをした。


 『できた!もどれた!』


 目をパチパチさせながら自身の体を見て喜ぶヒシリアを見て、ルドも目を瞑って念じてみる。

 ピシッ パシッと空気が震える音がする。


 「あぁ、力のコントロールもまだ難しそうですね…」


 コダはルドの頭に手をのせ、そっと助ける。


 ヒシリアはルドの変化を一部始終見つめ、現れた小さな純白の麒麟をみて言った。


 『すんげー綺麗だな、お前!月みてぇだ』


 どう答えてよいかわからず、ルドはコダを見上げた。変化を遂げても二人はコダの腰にすら身長が届かない大きさだった。ヒシリアに至っては膝丈というところか。


 「まずは城の中に入りましょう。ケルベロス、ありがとうございました」


 コダはケルベロスに一礼すると、城の内部へと歩いていった。

 ルドもケルベロスへ一礼し、ヒシリアも『ありがとう!』と言うと、トコトコヨタヨタとコダの後ろを付いていった。


 「おおおおおお!!来た!来た!やっと来た!」


 城の内部にはいるなり、大きな声が聞こえた。


 「ミノア、驚かせてますよ」


 苦笑してコダが突進してきた小さな白い塊を抱き上げる。

 白い子犬…のような姿。

 ミノアと呼ばれたそれは目をかがやかせてルドとヒシリアを見つめている。


 「おれ、ミノア!お前達と一緒、キョウダイ!」


 ぱたぱたとミノアの尻尾が揺れるのをヒシリアは凝視せざるを得なかった。


 「まずは、お部屋にご案内いたします。あぁ、この子は第七の獣のミノアですよ。貴方達と同じロワの子です」


 抱き上げたミノアの頭をポムポム優しく叩き、あやしながらコダは続けた。


 「ミノアは貴方達よりすこし先にここで生活しているので、色々既に学んでいますし、『言葉』も覚えているんです。明日から貴方達も一緒に学ぶことになりますが、すぐに知識は追いつきますよ。さ、ミノア。甘えていないでちゃんと歩いてください」


 コダがミノアをヒシリア達の前におろすと、子犬はピョンピョン跳ねるように前を歩いた。長めの毛並みがふさふさと揺れて光る。


 長い廊下をあるき、いくつかの階段を上がり、また廊下を歩いて、右にまがって…やっと一室にたどりついた。まだ歩きなれていないルドにはだいぶこたえたようだ。


 「こちらがルドルシフとヒシリアのお部屋です」


 中にはいるとベッドが二つ。明るく燃えるランプが二つ。机が二つ。


 「向かいの部屋はまだ来ていない兄弟の部屋で、隣が僕の部屋!」


 ミノアが尻尾を振りながら言う。


 「食堂は2つ下の階にあります。最初は迷うでしょうから、ミノアに連れて行ってもらうと良いでしょう。浴室もその階にあります」


 ショクドウやらヨクシツといった言葉が理解できなかったが、二人はとりあえず黙ってコダの話を聞いた。


 「おそらく最低限の言葉しか知らないでしょうから、明日からはまず言葉の勉強をいたします。先ずは言葉を覚えていただいて、声が出せるようになっていただかないと不便ですからね」


 そう言ってミノアをちらりと見る。


 「ミノアだって、最初はワンワンクンクンしか言えませんでしたから、ご心配なさらずに」


 ぷいっとソッポを向くミノア。


 「先ずはゆっくり休んで、色々学習して。一通りのことができるようになったら、ハデス様へご挨拶に行きましょう」


 「僕もまだ会ったことないんだ。早く会ってみたいな~」


 緊張と安堵と疲れで無口になったルドとヒシリアの周りをピョコピョコ跳ね回りながら、ミノアは自分の新しい仲間を歓迎した。


 「まずはごゆっくりお休みなさい。さ、ミノア、あなたがいるとゆっくり休めそうもありませんから、行きますよ。」


 跳ね回るミノアを抱き上げるとコダは一礼して部屋をでた。




 『やわらかぃ…』


 コダが出た後部屋の隅々を見て歩いたヒシリアは部屋の右側にあるベッドへ飛び上がった。寝具の柔らかさが疲れきった体を包み込む。


 その場にだまって座っていたルドも、ソレを見て部屋の左側のベッドへと上がる。自分が少し前まで樹々の語らいを聞きながら眠っていた繭を思い出す。


 二人はいつしか眠りについていた。

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