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The Land of the Last Moon  一章  作者: しんまお
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一章 三十九話

 その夜、久々に体を動かして早く寝ると思っていたルドの予想に反して いつもの就寝時間を過ぎてもヒシリアはもぞもぞとベッドの上で寝返りを繰り返していた。

 

 「あーなんか寝れねぇ~」


 逆に気が高ぶってしまって寝れなくなってしまったのだろう。いつもは早寝なヒシリアなのにこの時間まで起きているというのも珍しい。すでに日付が変わっている。

 何度となく呟く彼の言葉にひとつため息をついて ルドは立ち上がった。


 「すまんな、俺が明かりつけているからかもしれん。書庫へ本を探しに行って来るから」


 「ん~、いつもは気にならねぇんだけどな~。つか ルド、魔法で寝せてくれるやつとかねぇの?そんなんあったらこーゆー時便利じゃねぇ?」


 またもぞもぞと布団のなかで動きながらそんなことを言うヒシリアにむかって いいから早く寝ろ、と言い捨ててルドは部屋を出た。


 表向き ヒシリアのために部屋をでたようなものだが、実際は丁度良い部屋を出る理由ができた というところだった。

 能力の持たないヒシリアに気を使って、ルドは自分の能力制御の練習をヒシリアが眠った後にこっそりと部屋を出て行っていた。

 いまさらヒシリアも能力がないことについて一々落ち込まないとは思うのだが、やはり気を使ってしまう。落ち込みはしなくても、少し拗ねることくらいはありそうだ。

 努力しているところを他に見られるのも好きじゃないという理由もあって、たまに夜に部屋を抜け出しては城の跳ね橋を下げ外へ出る。

 

 跳ね橋を渡って外に出ると 必ずケルベロスがどこからともなく走りよって来る。


 「今日は遅かったな」


 「あぁ、ヒシリアがなかなか寝なくてな。別に今日は練習するつもりもあまりなかったんだが あいつが寝づらそうだから出てきたんだよ」


 馬鹿でかいケルベロスの右の頭 アインと会話をすますと 橋を渡って右に曲がり、いつもの低位置に立ってルドは変化を遂げる。

 唯一ルドの練習を見るのを黙認されているケルベロスは最初の頃こそ彼の能力に興味津々でずっとついていたものの、ルドの能力が暴走すると自分が吹き飛ばされることを知ってから城から出てきたのが誰か確認が終わると少しだけその技を見て、また巡視という任務に戻るのだった。

 月明かりしかないこの暗闇の大地に、ルドのそのしなやかで透明感のある白い獣の姿は目立つものだった。だからこそ、彼は誰かが覗くかもしれないという窓を調べ、その死角を探してそこで己の術を磨くために励んだ。

 誰が見てるわけでもなく、誰が指示するわけでもなく、誰が褒めるわけでもない。

 ただひたすらに、自分の思うとおりに力を出すことができるようにと今は何度も繰り返す。

 乾いた空気が摩擦を起こして パチパチと青白い火花を起こす。

 音を出さないように力を使いたいところなのだが、どうもまだ上手くはいかない。


 小一時間程して、ルドは獣の姿のまま跳ね橋を渡り、城の中へと戻った。

 

 城の内部に入ってからゆっくりと人型へと戻り、跳ね橋を上げて扉を閉める。

 この作業を忘れたらもう2度と外で勝手に練習させてもらえなくなる約束だ。


 能力の訓練は体力も精神力もかなり使う。最後の力でやっと人型へもどるようなもので、正直もうこれ以上なにもしたくない、というほど疲れを感じるのだが 毎度訓練の後は気がはってすぐには寝付けない。


 今頃ヒシリアはもう寝ているであろうか?


 次は俺が眠れねぇと布団を頭からかぶる番か…


 そんなことを考えつつ寝る前に汗を流そうと浴室へ向かっているとき、予想外に前から歩いてくるランプをもった人影に気づく。。

 あちらもルドに気づいたのか ぴたりとその足を止める。

 こんな夜中に人に会うなど考えてもいなかっただけに ドキリとする。


 「ん…ルドか?」


 「あぁ、メノアか…どうしたこんな時間に」


 お前こそ何してんだ、と言いたげな顔でメノアはルドをじっと見つめた。


 「まぁ、酒の勉強と酒を飲みに。立ち話はなんだ、食堂来るか?」


 酒というのは聞いたことがある。アルコールが入っている飲み物だというのは知っているが、実際飲んだことはなかったのもあって好奇心からメノアについてゆく。


 「前にコダから初めて飲ませてもらってな…お前初めてか?初めてなら飲みすぎるなよ」


 食堂に入るとメノアは2、3箇所に明かりを灯し、奥からボトルとライムを持ってルドの座るテーブルへと戻ってきた。


 「俺は体質的に飲んでもあまり酔わないようなんだがな、アルコールはあまり摂取しすぎると判断能力を鈍らせたり気持ち悪くなったりするようだから 自己判断で気をつけてくれよ」


 そう言いながらメノアは手際よくライムを切り、注がれたグラスに飾り切りされたそのライムを添える。酔ったら判断能力が鈍るというわりに自己判断しろというのは無茶じゃないのか。


 「メノアは夜な夜なこんなことをしてたのか」


 「毎晩じゃないが...。ラルフがたまに魘されて発作みたいなの起こすから起きちまうんだ」


 「発作なぁ…なんかコダも意味深なこと言ってたしな。同室も大変だな」


 「…まぁ、な。あまり気にしちゃいないが…」


 ほんの少し、メノアの顔が赤く見えるのはこの酒のせいだろうか。


 「これ美味いな。こんな美味い飲み物あったのか…」


 一口のんでルドが素直な感想を言う。


 「いろんな酒があってな、甘いのから酸味のあるの、苦いの、臭いのきついものも。面白いぜ。で、混ぜたりするとまた味も変わって美味くなるんだ。ただアルコールってのがコダ曰く、飲みすぎるとほんとやばいらしいから普段出せないんだと。まぁ 酔ったらどうなるのか見てみたいとは思うんだが、コダとオードリーの許可が出ない限りは他に出すなって言われてる」


 「俺はいいのか?」


 「いいんじゃないか?大丈夫そだし。で、ルドはこんな夜中に何してたんだ?」


 「俺は…まぁなんだ、眠れないってうるさい同室に気を使って部屋を出たついでに自習してきたってとこか」


 「だから埃くさいのか」


 「風呂入って寝ようとして向かってたとこだったんだ」


 なるほど、という目をしてメノアはぐいっとグラスを飲み干した。


 「まぁ 酒飲んだ後に風呂入らないほうがいいらしいぞ。酔いが増徴するってさ」


 「じゃぁ辞めておくか…」


 「もう一杯飲むか?」


 「ん・・・もらう」


 酒のせいだろうか。それとも本当はこんな奴だったのだろうか。

 やはりラルフが来たからだろうか。

 こんなにメノアが話しやすい奴だと思わなかった。

 他愛のないことを話しながら つまみに出してくれたナッツを楽しむ。

 こんな時間も良いかもしれない。そう思えてしまう。


 「そういや今日、ラルフに姫じゃなくて騎士の従者だっていわれたよ」


 ルドがそういうと、は?とメノアに聞き返された。


 「ヒシリアがラルフを姫って呼ぶからつい 俺も口が滑ったんだがな、あいつは自分のことを騎士の従者だって。騎士ってお前のことだろ?」


 少し酔っているのだろうか。これが判断能力が鈍っているということだろうか?

 今言わなくてもいいような話題を振ったようなきがする、とルドは思いつつメノアを見た。

 あの言葉が少し気になっていた。


 「従者か…。俺はそう思ってないんだがな…」


 「なんだか訳ありそうだが、メノアに合う相方でよかったな」


 「仕組まれた運命による出会いだからな」


 「なんだそれは?」

 

 「まぁ、そのうちわかるさ。さて、ココ使えるのは1時間なんだ。それ以上長居すると心配されてコダが来ちまうからな」


 そういうとメノアはグラスとボトルを持つと 食堂のカウンター奥へと向かった。


 「ま、ラルフが発作起こさなくてもたまに夜ここにいるから 飲みたくなったら声かけてくれ。俺も味の感想聞ける奴いると助かる」


 「こんな美味いもの飲ませてもらえるならまたお邪魔させてもらうよ」


 メノアは一応グラスを洗って片付けてから帰るというので、ルドは先に戻ることにした。


 普通に廊下を歩いているつもりだった。

 いつもの歩きなれた廊下。

 しかしなにかと 足元がふらついているような気がする。

 実際真っ直ぐに歩けている気がしない。

 これが酔っているということなのだろうか?


 生まれてはじめての酒を飲んだ感覚は妙なものだった。


 こんな姿ヒシリアには見せたくねぇな…


 自嘲しつつ ルドは自分の部屋にやっとたどり着くと 寝ているであろうヒシリアに気を使って静かに扉を開けた。


 部屋に入るとスヤスヤとヒシリアの寝息が聞こえる。


 ほぼヒシリアは一度眠ると朝まで起きない。


 部屋に入って一気に緊張感の抜けたルドは、思わず自分のベッドではなくヒシリアの眠るベッドへとふらりと歩み寄ってその寝顔を除き見る。


 相変わらず片目の傷は痛々しい。本人はもう痛くない、とは言いつつも見ている方にはその傷跡がまだ生々しく思えてしまうのだ。

 真っ黒いヒシリアの髪の毛をさらりと撫でつつ、ルドはじっとヒシリアを見つめる。

 

 …この唇に…


 思わず口をつけてしまったんだよなぁ…


 2度、3度とヒシリアの頭を撫でつつ、彼の顔をじっと見つめる。

 ヒシリアの知らないとこで彼にキスしてしまったことに罪悪感がないわけでもない。

 でも、知られたらどんな反応をされてしまうのだろうか。

 だいたいキスというものをヒシリアは知っているのだろうか?

 …お姫様の出てくるような本を読んでるくらいだ、知ってるか…


 酔った頭はさまざまな事が一度に思い浮かんでは消えてゆく。

 取り留めのない思考の渦に、このままヒシリアのベッドにもぐって寝てしまいたい、寝ているヒシリアにもう一度キスしてしまいたい、という欲望が紛れ込むが、ルドは残された理性でそれを廃し、名残惜しそうに最後に一度ヒシリアの唇を指で触ると 立ち上がって自分のベッドへ横になった。


 酒というのは不思議なものだ。

 気持ちがよいようで、気持ちが悪いようで。

 大胆な行動にでたくなるようで、一編の理性がそれを引き止める。

 寝付きやすくなるとメノアが言ってたのに、ルドはしばらく眠れそうにないな と思いつつ瞳を閉じた。


 

 

 



 



                     


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