一章 十話
「あ。」
扉を開けたメノアは思わず固まった。
「ん?」
偶然にも扉をあけたその先に、ルドが通りかかったのだ。
「どうかしたのか?」(ル)
「あ…いや…」
別に悪いことをするつもりではなかったのに、予想外の対面に言葉がでない。
「一人で城の散歩か?初めてだと迷うぞ」
「さっきの部屋に…本を読みにいこうかと…」
そういうとルドは そうか、じゃぁ付いてこいと先を歩いた。
「お前は何か用事があって部屋を出てきたんじゃないのか?」
メノアが問うと、ミノアとヒシリアがいて落ち着けないから出てきた、とルドは言った。
「別に嫌な奴じゃないんだが…一人になりたいときは書庫に行く。ミノアもヒシリアも本があまり好きじゃないからめったに来ない」
わかるなぁ…とメノアは心の中で頷いた。
「俺もヴィギアのところで時間を潰すっていったら本よ読むことくらいだったからな…本があると落ち着くんだよ」
「本はあとで元の位置に戻すなら部屋に持って行っても大丈夫だ。2、3冊持っていくといい。俺は…夕飯時までミノアがいそうだから部屋に残るがな」
「いつもあんな感じなのか?あのワンコ」
「まぁ…極度の寂しがりやなんだろな。今はヒシリアとまだ見たことのない兄弟の話でもりあがってるよ」
苦笑しつつルドが言った。
「…うるさそうだな…」
「…にぎやかなのもそう悪くはない。が…ミノアは本読むのも邪魔するからな。はやく同室が来ればいいんだが。…あぁ、本を読むだけならここの書庫でもいいか?ここからなら部屋にも一人で帰れるだろう?」
そういってルドが古びた扉を開ける。
独特の古書のにおいが開けた扉からあふれ出る。
「ここは歴史系統の書庫だな」
「ふぅん…ヴィギアのところには生物系しかなかったからな…しばらく楽しめそうだ」
そういってメノアは棚の本を物色する。
ルドは目星をつけていた本を取り出すと窓際の机へ向かった。
静まる空間。
時おりルドのページをめくる音とメノアの本を物色する音がする。
暫くの静寂の後、メノアが口を開いた。
「なぁ…お前、自分がどこから来たかとか知ってるか?」
問われてルドは顔を上げる。いくつも並ぶ本棚の陰でメノアの姿は見えない。
「んー…目が覚めたら繭の中。ほぼ直後ロワにこの世界につれてこられたってトコかな。あれがどこだったかなんてわからんが…知ったところでドウコウなるものでもないからな。…ミノアもヒシリアも同じ事を考えている。おそらく『ロワの子』皆同じ事考えるんじゃないか?まぁ、今は気にしすぎないことだな。考えても答えが出てこないからな」
「…確かにな」
再びの静寂。
暫くしてメノアは3冊の本を選び終えると ありがとう とルドに言って部屋へと戻った。
メノアが出たあとルドはふと扉に目を向ける。
ここまで育って生活のベースができたところでこの城に連れてこられて適応させるのも大変だろうな、と思った。
きっとミノアやヒシリアならどこでも順応しそうだが。
まぁ そのミノアの相方が…やってきたらきっと大変なことになりそうだなと思い、ミノアのおしゃべり攻撃に困り果てる見たことのない仲間の姿を想像して思わずふっ、と笑ってしまう。
ミノアは嫌いじゃない。すこし黙れ、と思うことはあるがあそこまで無邪気だと嫌な気にはならない。が、最近ミノアとヒシリアとが仲良くしているところを見るといてもたってもいられず部屋を出る。
言葉にならない感情。
形容できない心の内。
少し執着しすぎかな、とひとつ溜息をつくと再び読書に没頭することにした。




