Episode6 オレンジの要石
数十分後、ヘリはコーム村上空へ差し掛かった。
「あのときは夜だったからよく判んなかったが、こう見ると広いな~。」
コーム村周辺は、東西に広大な草原が広がっている。
そしてヘリはコーム村の側に着陸した。
村では復興のため、人が慌ただしく働いている。
「おやおや、バルカンの皆様ではないですか!」
奥のほうから村長が走ってきた。
「先日はありがとうございました。それで、今日は?」
「ああ、ちょっと聞きたいことがあってな・・・」
「村長さん、この色違いの石を持った人、知らない?」
リリーは自分の要石を見せながら尋ねた。
「それ、見たことがあるぞ!確か・・・」
村長は思い出すように言い始めた。
「一週間くらい前だったかな・・・、見知らぬ旅人がこの村に来たんだよ。一晩泊めてほしいといったから、宿を用意してやったんだ。その人はオレンジのそのような石を首に下げておったなぁ。」
ブレイクたちは顔を見せ合った。
「で、その人どこかに行くとか言ってなかったか?」
「さぁ、どうだったかな・・・」
「それだったら俺が知ってるぜ!」
後ろから作業着姿の男がやって来た。
「西のほうに行くからって、食料を買っていったぜ。」
「西って言ったら・・・」
プルルルル!
「おわっ!」
ブレイクの携帯が鳴った。
「指令所からだ・・・まさか!」
急いで電話に出るブレイク。
『ブレイクさんですね?指令所です。今緊急通報が入りまして、ガーミル地方でGALが大量発生したとのことです。』
「わかった、すぐに行く!」
予感は当たった。ガーミル地方はここから見て西だ。
「みんな、すぐにいくぞ!」
コーム村の人々に見送られながら、一行は西へと急いだ。
しばらく西へ向かうと広大な森林に差し掛かった。
「この辺からガーミル地方だ。見えたら言ってくれ。」
「あ!あれじゃない?」
進行方向のほうに黒い大群が見える。その先には街が見える。
「あそこにいるかもしれないな。」
GALの大群の上を通過し、6人は街へと降り立った。
「リリーとアリサで街の人たちを避難させろ!俺達で食い止める!」
「わかった!」
4人はやってくるGALの群れに向かって走っていった。
だが突然、群れの中で爆発が起こった。
何匹かのGALが宙を舞う。
すると、ブレイクたちの前に一人の旅人らしき人が出てきた。
「おい、誰だか知らんが危ないぞ!」
ブレイクが呼びかけるが、その人物は逃げる事はせず、むしろGALに向かっていった。
その人物が羽織っていたマントを脱ぎ捨てた時、4人は驚いた。
その男の首にはオレンジの要石が下がっている。
男は背負っていた重火器を構えると、引き金を引いた。
銃口からは、何かが発射された。
それはGALの集団へ、分裂しながら向かっていった。
GALは驚き、逃げようとしていたが、時すでに遅く被弾して倒れていった。
その一発のみで、群れのほとんどを殲滅した。
残っていたGALはブレイクたちが難なく倒していった。
リリーとアリサがもどって来ると、そのオレンジの要石の男も近づいてきた。
「ようやく会えたか・・・イェーツ。」ディックは言う。
「ああ、ディック。久しぶりだな・・・」
何も判らない5人は2人を呆然と見ていた。
「紹介する。イェーツだ。俺とは孤児院で一緒だった。」
「・・・俺は、ディックがカミキってヤツに連れてかれてから、旅に出た。ディックを探しに、何より自分の使命を確かめに。」
「それでイェーツ、俺達と戦おう。一緒に来てくれるか?」
「・・・勿論だ。」
「これからよろしくな。」
「さて、カミキのオヤジに連絡しとくか・・・」
ブレイクは携帯を取り出して電話を始めた。
「・・・・・・・・・」
カミキは電話に出ない。
「おっかしいなぁ~。まあいっか。かえろうぜ!」
「そうだな・・・」
ヘリに乗って帰る途中。
「イェーツ、お前はどのくらいGALを狩ったんだ?」
「・・・そうだな・・・もう覚えられないほど狩ってきてるな・・・」
「それで、なんか変な大量発生とか無かったか?」
「・・・2、3度見ている。ほとんどが今年に入ってからだ。」
「やはり、その『時』が近づいてきてるからなのかしら?」
「で、おまえは何故あの街に?」
「・・・特に理由はない。」
「・・・そうか・・・」
(こいつって、かなりクールだな・・・)
ブレイクは内心思った。
プルルルルル!
ブレイクからの着信にカミキは出ない。いや、出れなかった。
2人は研究所にいた。ある実験を見るために・・・
プルルルル!
「はいっ!」
翌日、マルクは電話の音で起こされた。
部屋の時計を見るとまだ5時だ。
『よう、俺だ。早くに起こしてすまないな。』
電話はブレイクからだった。
「どうかしたんですか?」
『いや、出撃とかではないんだが、GALのことでわかったことがあるから、早く教えようと思ってな。他のやつらも起こしてある。今すぐ指令所まで来てくれ。』
ブレイクに呼ばれ、マルクは指令所に向かった。
窓の外は生憎の雨模様のようだ。
「おっ、来たな。じゃあ、さっそくだが話すぞ。」
ブレイクはモニターを使いながら話し始めた。
マルクが周りを見ると、全員ベンチに座っている。
一人イェーツは離れたところに座っている。
マルクは視線をモニターに移す。
「まず、GALの成り立ちからだ。皆も戦っていて判るだろうが、ほとんどが動物の姿に似ている。研究した結果、なんらかの理由により、動物の死体がGALへとなっているようだ。」
「その何らかの理由はわからないの?」
リリーは質問する。
「今のところは。」
ブレイクはモニターの表示を切り替える。
「次にこれだ。」
モニターには古びた石版らしきものが映し出された。
「これは南部地方に派遣されている調査隊が、とある遺跡で発見したものだ。」
石版には古代文字のようなものが彫られている。
「研究チームが一部解読したところ、驚くべきことが書かれていた・・・」
モニターに解読文が映し出される。
「『1つの神、12の使徒。共に眠り、共に起きる。』だいたいこんな感じだな。」
「『1つの神』は暗黒神で間違いないだろうけど、『12の使徒』とは何なんだ?」
ディックは考える。
「12体の何かがいるということは間違いなさそうね。」
「そうだな。そして最後にコレだ。」
ブレイクはまた表示を変える。
「これは俺達を含め、バルカン全体での戦闘記録だ。これに俺達の最近の行動ルートを照らし合わせる。すると、俺達が行動していない範囲にも戦闘記録が多いところがある。」
「つまり、そこにGALが多い。そして、選ばれし者がいるというわけか。」
「だから、現在この地方に調査隊を増員して向かわせている。」
「で、いざとなったら私達がいくのね。」
「ま、そんなとこだ。一応これで伝えることは以上だ。質問がなければ今日は解散!」
「マルク!朝飯食べに行こ!」
ルークに誘われて、アリサと共に食堂へ向かった。
「なあ、マルク?」
食後、食堂で休憩していているとき、ルークが話しかけてきた。
「なに?」
「訓練所行こうよ。アップデート終わったって言ってたよ!」
「う、うん。」
三人は訓練所へ向かった。
「?マルク?どうかした?」
「ううん、なんでもない・・・」
「?」
マルクはさっきからずっと考え事をしていた。
『1つの神、12の使徒。共に眠り、共に起きる。』
この『共に眠り、共に起きる。』という文章。
そして『12の使徒』。
どこかで聞き覚えのある言葉だった。
しばらくして、訓練所へと到着した。
中に入ると、係員らしき人がパソコンをいじっている。
「おや、訓練しに来たのかい?」
係員はこちらに気付いたらしく近づいてくる。
「はいっ、シュミレーションやりたいです!」
ルークははしゃいでいるようだ。
「ではこちらへどうぞ。」
通路の脇には大きめの部屋がいくつも続いている。
「ここでは、一人づつ個室でのシュミレーションを行います。また、団体戦は別の部屋で行います。詳しい使用方法は部屋に用意してあるので、お好きなだけ戦いましょう。」
そう言い残して係員は去っていった。
「よっしゃぁ、ヤルゾー!」
ルークは気合満々で部屋に入っていく。
「もう、ルークったら落ち着きがないんだから・・・」
アリサも部屋に入っていく。
マルクも部屋に入った。
部屋はだいたい学校の教室の倍くらいの大きさだ。
入口のすぐそばにはモニターが設置されている。
モニターでは、戦闘の条件などが選択できるようになっている。
マルクは手始めに簡単そうなモードを選択した。
『それでは、戦闘を開始します』
アナウンスの直後、部屋の中央にGALのような生物が出現した。
本物と似たつくりの外見で、戦闘力はほぼ同じ、と説明書きがある。
マルクは剣を構え、GALに切りかかった。
本物と同じように倒れていく。
マルクはよくできたものだと思う。
もう一度やろうとして、モニターの方へ歩いていったとき、ふと1つの考えが浮かんだ。
30秒後、マルクは廊下を走っていた。
自分の部屋へ駆け込み、部屋に最初からあった近辺の地図を広げる。
始めから不思議に思っていた。
何故ここにはGALが攻めてこないのか。
(あった・・・)
バルカンの位置にペンで印を付ける。
続いて、次々と印を付けていく。
(やっぱり・・・)
地図上につけた戦闘の場所。
それぞれがある一点を中心とした円の中に納まっている。
その数は・・・12.
そして全てがバルカンを避けるように配置している。
12=『12の使徒』
つながった。
あとは何故ここを避けているようになっているのか。
そのためには・・・カミキに聞くしかない・・・
マルクは地図を握り締め部屋を飛び出した。