Episede3 GAL
東の空が明るくなり、日が昇ってきた。
「起きろ~!」
『!?』
マルクたちがいる病室に声が轟く。
「ほら、さっさと起きて準備する~!」
声の主はブレイクだった。
昨日の約束どおり、三人を迎えに来たのだ。
「・・・まだ5時ですよぉ・・・」
寝ぼけた様子でルークは声を上げる。
「それに、私たちって退院していいんですか?」
続いてアリサがブレイクに尋ねる。
「あ~、それはもう話をつけてある。お前らもう何ともないだろ?」
ブレイクは面倒くさそうに言う。
「確かに!昨日はあんなに痛かったのに、今は全然だ!」
マルクは嬉しそうに声を上げる。
「でもなんで?」
「それはだな、夜中お前らが寝ている間に知り合いに来てもらって、治してもらったんだよ。」
『いつの間に!?』
「まぁ、気づかせないようにしたからな。」
「そうだったんだ・・・。」
「それはそうと、お前らさっさと準備しろよ~。」
『は~い。』
十数分後、三人はブレイクと共に病院を出た。
「じゃあ、ひとまず家に来い。そこで話をしよう。」
『は~い。』
この街はレムノス市というらしい。
かなり近代的な街のようだ。
遠くからでも分かったビル群は、間近で見ると迫力がかなりある。
病院から歩いて十分程の所にブレイクの家はあった。
正しくは借家らしいが。
「入ってその辺に座ってろ。なんか持ってくるから。」
「おじゃましま~す。」
家は街の中でもトップを争うほど古かった。
壁はあちこちで穴が開き、雨漏りの痕跡もうかがえる。
三人は居間にある小さな机を囲むようにして座った。
ブレイクは飲み物を持ってきて、机の真ん中に置いた。
「では、早速だが話をしよう。」
「はい・・・」
「まず、お前たちは自分たちのことをどれくらい知っているんだ?」
「えっと・・・」マルクは戸惑いながら話す。
「十三人いて、色違いの要石を持っていて、覚醒するとその色に輝く姿になる・・・くらいかな・・・」
二人も頷く。
「なるほどね・・・、・・・じゃあ、これから話そうかな・・・」
ルークとアリサはブレイクのほうに乗り出して聞き始めた。
「俺たちは何故、『選ばれし者』になったと思うか?」
「う~ん・・・、わかんない。」ルークは首をかしげる。
「それはな、俺たちの血に関係しているんだ。」
『血?』
「こんな言い伝えがある・・・」
ブレイクは話し始めた。
「昔、天には光の神と暗黒の神がいて、二人が均衡を保ちながら、世界を平和に守っていたそうだ。しかし、あるとき暗黒の神は突然暴れだした。それを鎮めようと光の神は手を焼いていたようだった。そこに、一人の男が現れ光の神に言った。『暗黒の神は不治の病に冒されている。もう倒すしか方法は無い。だが、私にはその力は無い。そこで2000年持つ封印で抑える。その封印が解かれる時、私の子孫たちが鎮めるであろう』と。」
ブレイクは少し間をおいて、また話し始めた。
「その封印が解けるのは今から3年後。・・・そして、その男の末裔は俺たち『選ばれし者』のことなんだ。俺たちはその男の血を引いていることになる。」
「という事は・・・」アリサは言う。「私たちが暗黒の神を倒すの?」
「そうだ。そういう運命なんだ。」
「そんな・・・」
「最近あちこちに出現するようになっている化け物も、関係しているらしい。」
「あいつらも・・・」マルクは思い出す。
「その化け物の名前は『GAL』という。」
「GAL・・・」
「俺たちがまずしなければいけないのは、選ばれし者を全員集めることだ。」
「でも、他の・・・九人の居場所、知ってるの?」
「俺は二人知っている。すぐにそのうちのひとりに会えるさ。」
「じゃあ、近くにいるんですね。」
「まあ、そうだな。」
しばらく会話した後、ブレイクは言った。
「じゃ、明日出発しよう。」
「え?どこにですか?」
「それは後のお楽しみ。三人ともしっかり準備しておけよ。」
そう言ってブレイクは三人に部屋を用意し、街へ出て行った。
その部屋の中でマルクはベッドに腰掛け呆然としていた。
まさか、自分たちはそういう運命だったなんて。
「マルク!買い物に行こう!・・・マルク?」
「・・・あ、ごめん。いこっか。」
ルークに呼び出され、我に返ったマルクはその現実を受け止められていなかった。
マルクは買い物中、笑顔を振舞っていたが、二人はいつものマルクとは違うと思っていた。
やはり、そのことが気にかかるのだろう。
次の日の朝早く、ルークとアリサがまだ寝ている時、マルクは家をそっと出て、裏にある丘に出かけた。
まだひんやりとした風が気持ちよかった。
丘の上からは、西から北にかけての山脈、東の平原、南の海が一気に見えた。
きっと、あの山のふもと辺りが自分の故郷なんだろう。
懐かしい記憶を思い出しながら帰ろうとすると、何かが目に入った。
街で一番高い建物、あれは教会だろうか・・・
その屋根の上に黒いものが見えた。
その黒いものは屋根の上を飛び回った後、どこかに消えていった。
あれは何だったのだろうとマルクは思いながら帰っていった。
「あ、マルク!どこいってたんだよ。」
ルークはマルクの姿を見ると言った。
ブレイク、ルーク、アリサは朝食の準備をしているようだ。
香ばしい匂いがする。
「うんちょっとね・・・」
「おまえら早く食えよ~。早く出発したいんだから。」
『は~い。』
三人は朝食をかき込み、荷物を用意した。
「よし、準備できたようだな。あとは・・・あいつだけだな。」
玄関の前に集まった時に、ブレイクはそうつぶやいた。
「あいつ・・・?」
「私のことよ。」
黒い長髪の女性が向こうから近づいてくる。
「よっ、来たか。」
「おまたせ。」
「紹介するぜ、こいつはリリー。黒い要石を持つ選ばれし者だ。」
黒・・・ マルクは何かが引っかかったが、そのままにした。
「そして、この子達がブレイクが助けた選ばれし者たちね。」
「えっと、白い要石を持っているマルクです。」
「僕は赤の要石を持ったルークです。」
「私は緑の要石を持っています、アリサです。」
「みんな、よろしくね。」
各自自己紹介を終え、出発する事にした。
「歩くのは大変だし、時間が無いから車を用意した。みんな、乗ってくれ。」
「はーい。」
小さい車だったので五人乗るのは窮屈だった。
「んじゃ、出発しんこ~」
街を後にし、車は森林地帯を貫く道路に入った。
「ねえ、あなたたちはどのくらいGALを狩ったの?」
リリーは後ろに乗り出して聞いてきた。
「えっと・・・、僕は村で3体、ルークと6体、三人で10体かな。」
「へえ~、結構狩っているのね。」
「お!敵のお出ましだぜ!」
ブレイクの声で前を見ると、道を塞ぐようにしてGALのグループがこちらを見ている。
ブレイクは車を急停止し、前方から近づいてくるGALに向かって、迎撃体制をとった。
GALの数は10体ほど。
「おまえたち、少ないからって油断するなよ!?」
「わかってるわよ。みんな、覚醒するわよ。」
リリーの掛け声と共に五人は覚醒をした。
簡単にGALを倒し、元の姿に戻った。
「旅立ち早々から戦闘なんて、幸先よくねーなあ。」
「でもいいじゃない。トレーニングにもなるんだし。」
「それもそうだな」
5人は再び車に乗ると走り出した。
「それで、今から本部へ向かう。」
「本部?」
「ああ、『GAL殲滅機関』、俺たちは『バルカン』と呼んでいる。その本部だ。」
「殲滅機関・・・」
ブレイクは再び車を走らせた。
「ところで、そのバルカンって、何処にあるんですか?」
マルクはブレイクに尋ねる。
「一般人は基本的に立ち入り禁止で、情報も非公開になっている・・・バルカンはちょうど右のほうに見える湿地にある。このことは、そう簡単に言うんじゃねーぞ。」
「はーい。」
それからおよそ10分後、湿地の入口に差し掛かった。
「そういえばブレイク、この子達を連れて行くこと、オヤジさんに言ってあるの?」
リリーは心配そうに尋ねる。
「あっ!や~べ、すっかり忘れてた。」
鞄から電話を取り出すと、番号を押して誰かと話し始めた。
「・・・あ、オヤジ?オレ、ブレイク。・・・うん、でさ、選ばれし者、三人連れて行くから、そこんとこよろしく。・・・うるさいな分かってるから・・・、・・・えー、あと10分くらい・・・じゃっ。」
「どうだった?」
「準備しとくってさ。・・・すげー怒られたけど・・・。」
「オヤジさんて、誰なんですか?」
ルークは尋ねる。
「一応、バルカンを仕切ってる、一番偉い人かな。」
「あと10分くらいで着くから、あなたたち、準備しておきなさい。」
10分後、巨大な建物が見えてきた。
「あれがバルカンだ。すげーだろ。」
ブレイクは玄関前で車を停止させると、中から人が出てきた。
「やーっときた、遅いよブレイク。」
「すまんすまん。」
「それで、この三人が選ばれし者?」
「そうよ。ところで準備はできてるの?」
「ご心配なく、リリー。できてるよ~ん」
「ったく、のんきなんだから、ディック」
「おっと、三人には自己紹介がまだだったな、俺はディック。君たちと同じ、選ばれし者だ。」
ディックは誇らしげに紫の要石を見せた。
「それじゃ、中に入った入った。」
自動ドアを通り抜けるとそこには、広大なエントランスがあった。
人々があわただしく走り回っている。
「えっと、とりあえずこっちの部屋に来て。」
三人は3階の奥の部屋へと案内された。
「オヤジ~、連れてきだぜ。」
「おぉ、そうか。」
奥から一人の人物が近づいてくる。
「君たちが、選ばれし者の子達だね?」
『はい!「マルク」、「ルーク」、「アリサ」です!』
「うむ、私はカミキだ。ここを取り仕切っている。」
「俺たちは『オヤジ』って、呼んでるけどね。」
ディックが補足をする。
「では、ディック。この子達を部屋に案内してやってくれ。」
「うぃーす、んじゃ、いくぞー。しっかりついてこいよ~」
「は~い」
まず4人は、玄関エントランスに戻った。
「ここは知ってのとおり、玄関だ。ふつうはこうやって出入りできないから気をつけろ。このIDカードが必要になる。」
ディックは三人にカードを渡した。
「そして、ここには各自の部屋が用意されている。あそこのエレベーターでいける」
玄関の向かい側には、エレベーターが何本も並んでいる。
4人はエレベーターに乗り込んだ。
「で、さっきのカードをここにかざすと部屋のある階に自動的にいくようになっている。」
マルクはカードをかざすと、4階の表示が出て、エレベーターは、4階で止まった。
「あとは、自分でいけるな。他の場所はまた明日案内する、今日はしっかり休んどけ~。」
ディックはそう言い残し、去っていった。
「マルクは何番の部屋?」
「えっと・・・412だね。」
「僕は413.アリサは?」
「私は414ね。みんな隣みたいだね。」
三人は各自、自分の部屋に入った。
中はマルクの予想していたものよりもずっと豪華だった。
部屋は二つに分かれていて、片方は寝室のようで、もう片方はちょっとした調理台やテレビ、その他色々と揃っている。
プルルルル!
机の上で電話がなっている。マルクはとってみた。
『あ、マルク?通じた!』
「ルーク?」
『うん。それよりもすげーな、この部屋』
「結構広いもんね。」
『で、食事とかってどうするんだろう?』
「!ルーク、机の上にマニュアルみたいなのがあるよ。」
『あ、これ、マニュアルなのか!』
「なんだと思ってたの。ここに書いてあるけど、地下1階に食堂があるみたいだね」
『じゃあ、もう少ししたら、アリサも呼んでいこうか、じゃ、またあとで~』
「うん。」
電話を切ったマルクはわくわくしていた。