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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オナホ職人の朝は早い。例えソレが異世界でも……

作者: 紫炎

 私の名前は甲野こうの義明よしあき。職業はオナホ職人だ。


 そう口にすると大概は笑われるか、或いはオナホとは何ですか?という質問が返ってくる。その場合には、前者に対してはジョークグッズですしと答え、後者に対しては知らなければそれはそれで良いんじゃないですかねと答えるようにしている。まあそんなわけでここでオナホというものの詳細を

説明するつもりはない。それは必要があれば自ずと手に入れるだろうし、世の中の大概の人たちにはどうでもよいものなのだから。


 ともあれ、私がオナホ職人であるということは厳然たる事実である。とはいってもオナホ職人というものは別に山奥に篭もって自分の納得のいく作品を造ってるような匠の存在ではない。自分はれっきとしたサラリーマンでオナホ職人は役職なのだ。そう私は立派な社会人の一員なのである。


 そして私の仕事とはオナホの設計である。かつての制作には人の手によって実際に紙に製図をしてソレを元に作成していったのだろうが、現代のオナホ造りは他聞に漏れず技術革新の波に乗っている。

 まずオナホの形そのものはパソコンのCADソフトで造っている。仕事場も社長の趣味もあって整理整頓された清潔なオフィスで社員も男女の比率も1:1だ。形が完成すると奥に設置してある3Dプリンターで内部の空洞部分を作成し、それを型の中に入れてシリコン(他の素材を使うこともあるが便宜上シリコンの名称で統一している)を流し込んで固めて、空洞部分を外して、型とってしまえばとりあえずのサンプルは出来上がりだ。

 だが時代の波に乗るのもここまで。そこから先は実際に人の手によって試し、そのリサーチの繰り返しによって精度を高めていくこととなる。そして出来たオナホはオナホマイスターというモニタ人員が専用の個室でテストを行う。まあ要するにオナホマイスターとは営業などを含めての男性社員全員のことなのだが、社長が変なところを拘る人で、私のオナホ職人という役職もオナホマイスターという役割も社長が名付けたものだった。

 この仕事を知らない人たちには奇妙な光景に映るだろうが実際の使用感を確かめたオナホマイスターたちはリサーチ用の書類にチェックを入れ、実際の使用感や、気になった点などを書き、それを会議室でマイスターたちと職人、つまり私と話し合うこととなる。所詮はジョークグッズと侮ることなかれ。その会議の場において笑いはほとんど起きない。私たちが行っているのは子供の遊びではなく、仕事なのである。最近では海外への発注を考えて外国人の社員もふたり雇用した。サイズの大きいものをとも考えたが、直径よりも全長を伸ばす方向で見直しを入れている。

 内容を詰め、形が決定したオナホは、その後に外観デザインとパッケージの作成が待っている。この作業は私の手を離れ、女性社員によって造られるのだ。

 清潔感のあるおしゃれなデザインを……というのが社長の言であり、男性のためのものを包むには女性的なイメージが必要だとのことである。なので、そうしたデザインを起こす仕事はすべて女性社員を起用している。

 もっとも私も制作者として会議の場において口を出すことも多々ある。あまり女性としての色だけを出し過ぎてもユーザーが引いてしまう恐れもある。あくまでうちで取り扱っているのは実用品なのだ。綺麗なだけで手にとってもらえなければ意味はない。

 そしてパッケージも完成すると金型の作成や素材の発注し工場で製造し出荷、それよりも前の段階で営業もかけていく。海外には代理を通してサンプルを送り、今は市場を開拓出来るように手を打っているがまだ成果らしい成果は出ていない。実際に使ってもらえれば粗雑な造りの海外産よりも絶対に良いことが分かるはずなのだが言語の壁、人種の壁、常識の壁が海の先には存在している。最初の一歩というのは非情に難しいのだ。


 そうしてオナホ作りに勤しむ毎日の中で社長が私をオナホ造りのオーソリティだ、などと突然言い出したことがあった。なんだそりゃと私は思うが、だが同僚たちも笑いながらだが社長の言葉に同意しているようだっった。実際に私が手がけたオナホの売り上げは良いと営業の田中さんも言ってくれていた。売上の数字を見せてもらったが、確かに私のオナホは他社のものなどと比べても頭一つ抜けているようだった。当初はただ気恥ずかしいだけだったオナホ職人という肩書きも今なら多少は自信が付いたかな……などと思えてきて、私も照れくさい気持ちと共に同僚たちと笑いあった。




 しかし、気が付けば私は異世界にいたのである。



  **********



 私、甲野こうの義明よしあきは今、異世界というところにいる。目の前には露出度の高い、服と言うよりは布切れを纏った10才前後くらいの外国の金髪の少女がいた。そうした趣味の方には眼福な光景かもしれないが私にはその趣味はない。少女にこんな服装をさせた誰かに憤りと、それが目に入った今の状況に対しての妙な罪悪感があるだけである。もっともそんな気持ちも少女の口から出た言葉によって吹き飛んでしまったのだが。


 少女曰くここは地球とは違う世界なのだという。


 突然のカミングアウトに私は目を丸くして、どういった冗談なのか、大人の人はいないのかと尋ねた。だが少女からは、ここの主は自分であり、今の言葉は冗談でも何でもないという返答が返ってきた。そして少女の言葉が冗談か否かは、目覚めた部屋の窓の外を見れば一目瞭然であった。

 眼下に広がっていたのは自分が住んでいた東京と違う、外国のような石造りの建物たち。そして広がる地平線に、山の峰、空には島が浮かんでいた。他の部分は或いは長野ならありえるで済ませられるだろうが最後の一つは決定的だろう。長野では少々荷が重い。


 私も学生の頃は小説をよく読んでいたし、ライトノベルなどもいくつか目を通していた。だから、そうした設定の話があるのは知っている。勇者に選ばれた少年が魔王と戦うために別の世界に召喚される。あるいは

戦国時代に自衛隊が出現したりもするのだろう。だが私はオナホ職人である。男性の夜の楽しみを提供することは出来ても世界を救うのは専門外だ。

 そうしたことを私は目の前の少女に話し、尋ねた。そして返ってきたのは


「オナホ職人とは何かの?」


 という質問だった。これには私もさすがに悩んだ。最近では自分の仕事に対しても多少は自信の付いていたが、だからといってさすがに10才ほどの少女に話せることではない。

 外を見た際のこの建物の高さと街との配置を考えると、ここは街の中心の、恐らくは城のようなところなのだろう。少女の口調も上からのもので、来ている布切れもよく見れば、高級そうな素材である。明らかに身分の高そうな少女に対しオナホの説明は非常に難しい。セクハラ紛いの話をして怒らせれば打ち首ということもあるかもしれない。私がそんなことを考えてマゴマゴとしていると、少女も何かを察して(オナホのことを察したわけではないだろうが)、お付きのものを用意するのでそちらに話すようにと言うと備え付きの鐘を鳴らし、人を呼んだ。そして鎧を着た男性3名と、職業柄ときおり眼にするようなコスプレとは明らかに生地の違うシックなメイド服を着た女性2名が部屋に入ってきた。

 その鎧を着た兵士らしき男たちに視線を向けられたときには私も焦ったが、特に何も言われることもなく少女は彼らとメイドの一人を引き連れて部屋の外へと出て行ってしまった。そして残された私は、残された若い方のメイドから、こちらへと言って部屋の外に案内された。

 そしてついた先は調度品などが並ぶ如何にもという高級そうな部屋で、メイド曰くここは来客室とのことだった。そこにあるソファーに座るように促され、そしてお茶を差し出された。飲んでみると紅茶のような味わいだった。高級そうではあったが、私には味など分からない。なので、良い紅茶ですねなどとごまかし笑いをしながら口にしていたが、それに対してメイドはありがとうございますと頭を下げた。


 そして、そこから行われたのは私の状況についての説明である。

 まずここがどこかということだが今いるのはミラウルスク半島という土地だそうである。そのミラウルスク半島内の3つある国の一つ、ヘルクト国の第三都市の中心にある城がこの建物であり、そして先ほどの少女は巫女姫と呼ばれるこの城の主で、ああ見えて年齢はすでに100を越えているとのことだった。

 それを聞いて驚く私に、あの姿は初のものが起きる前の状態を維持するために年齢を固定しているのだとメイドが口にした。最初は冗談かと思っていたのだが淡々と話すメイドの言葉に冗談の類いは感じられず、さすが異世界だと納得させられてしまう。もっとも年齢の固定化は呪いにも近いらしく、例えば不死を真っ先に願いそうな王族たちなども固定化をしているものは少ない。固定化に成功できてもその精神性が大きく変動し権力への執着を失ってしまうそうなのである。元々は永遠に刑罰を与えられる罪人のために用意されたものらしい。

 それと、巫女姫の役割だが、それは10年に一度、外界から稀人を招くことだった。つまりは私のことらしい。

 そして巫女姫が稀人を呼ぶのは別に魔王を倒して欲しいというわけではなく、他の世界の技術をこちらの世界、というよりもヘルクトという国にもたらすためなのだそうだ。故に話の流れから考えると私はこの世界でもオナホ職人として期待されているようだった。いや、果たしてそうだろうか?


 ともあれ、私にとっての一番の問題はどうしたら帰してもらえるのかということだった。オナホの作り方を教えれば良いのだろうか……と尋ねたが、メイドはオナホというものがどういったものかは分かりませんがと前置きながら、帰ることは不可能だと告げてきた。それはあまりにもあっさりとした解答だった。

 私は思わず声を荒げて尋ねるが、メイドが言うには今の私は元の世界から連れてこられたわけではなく、地球にいる甲野こうの義明よしあきという人物を魔力で複製した存在なのだそうだ。つまり本物の私は今も地球でオナホ作りに勤しんでいるはずである。よって地球に戻る、いや行けたとしても私の居場所などないということだった。

 メイドから告げられた事実に、ここまで現実離れしてどこか他人事のように考えていた私だがさすがに堪えることなる。口をパクパクと動かし、そして外を、メイドを見た。

 言葉が出なかった。私はどう考えて良いのか分からなかったのだ。その後、メイドは技術を扱うための資金や権利の説明と、自身が私の所有物、つまりは私はこのメイドの主となっていることを告げられた。その主従の関係性などに馴染みのない私は、ならば抱かせろといえば抱かれるのかなどとゲスな質問を問い、メイドはそれを迷いなく肯定した。

 ならばと、据え膳食わぬはとばかりに私は味のしない夕食の後にメイドを抱いた。可哀想な私を慰めるための道具として扱ったのだ。

 生娘であったらしい。そして、すべてが終わった後に私は泣いて詫びた。人としては最低の行いだった。まだ十代の少女に自分の鬱憤をぶちまけてしまった。だがメイドはそんな私をその胸で優しく抱きしめてくれた。名を聞いたのがその行為の後であったことは私にとっては一生の恥であったと思っている。

 彼女の名はセーラ。以後私は彼女をメイドではなくセーラと呼ぶこととなる。



 なお、気心の知れた後にセーラに聞いた話だが、どうも私はそうなるように仕向けられていたらしい。彼女の言葉通りならば、私は端的に言ってハニートラップの類に引っかかっていたのだそうだ。もっともだからと言って自分の行いをそれで正当化出来るわけもないし、聞かされた私がそれでセーラを咎めるかと言えば、もはやそんな関係ではなくなっていたのだが。



 ともあれ、私という人間は以降はセーラに依存する形となってしまうのだが、何かしらの心の内の芯を手に入れた人間は動き出すのも早くなる。ひとまず地球に戻ることは置いておき、自分のやるべきことを考えることとした。


 基本的なスタンスだが、私は自分が異世界人であることを人に知らせることを禁止されていた。巫女姫への接触も最低限に留めるように言われている。これはあちら側の都合ではなく私の身を守る手段であるとのことだった。

 巫女姫の話に寄れば、この世界において召喚体という存在は軽く見られ勝ちなのだそうだ。本物でなく複製品、そう考えられてしまうだけでは人はいくらでも残酷になれると語られた。ようは私が召喚された存在であることを知られれば人間として扱われなくなる可能性もあるそうだ。

 故に私はヨシアキ・オイローという偽名を使い、身分もオイロー家という実在している貴族の三男という設定を用意された。金だけ渡されて家を追い出された放蕩貴族だそうだ。

 そして私は内部がそこそこ広い家を一軒購入した。元々は鍛冶の工房も兼ねた武具店であったらしいが、まずは内装を清潔感ある白で統一し、自分の研究室を造った。資金についてはしばらくは考えなくても良いくらいにもらっている。そしてセーラにはオナホというものがどういうものかを懇切丁寧に説明をし、とりあえずの概要の理解はしてもらった。もっとも彼女はそういった類の知識はなく、そういうものがあるですねと口にしていたが。


 そして私はオナホの制作に取りかかる。

 まずこの世界でシリコン樹脂が造れるか、あるいは類するものはあるかという問題があった。モストロというコンニャクに近い食べ物があるのは聞いたが保存出来る期間があまり長くないのが難点だ。日本とは違い、保存状態を保つには魔術を使い、そのためのコストもかなりかかってしまう。まあ、それはそれで道はあるかもしれないと考え、候補の一つには入れておくが、いくつかのリサーチをした結果、材料として挙がったのはスライムだった。


 スライムというのは湿原地帯や洞窟などの湿ってた地域に棲息する魔物の一種である。獲物を内部に取り込んで溶かすこともあれば、弾力性に富んだ特長を生かし体当たりを仕掛けることもあるという。そしてここからが本題だが、スライムは倒した後に場合によっては固まった状態であったり、溶けたりもするらしい。その固まった状態が体当たりをしたときと大体同じ硬さとのことだった。

 私はともかくそのスライムの実物を手に入れたいが、かといって魔物を相手に自分で戦いたいとは思わないし出来ない。なので冒険者ギルドに『スライム生け捕り』というクエストの依頼を出した。スライムにはいくつかの種類があるようなので、それぞれのスライムを棲息する地方のギルドに対し依頼を出し、そして手に入ったスライムを研究所内で種類ごとに隔離して観察することにした。

 このスライムという魔物は雑食でとりあえずは何でもよく食べる。家で出た食べ残しも食べるし、そこらの雑草などでも良いようだが、時折暴れ出す。そんなときは肉類を与えると動きが止まる。どうやら動物性と植物性の両方の栄養素が必要なようだった。また食事を同じものにしていたら、一ヶ月後にはすべてのスライムが同じ色へと変わった。どうやら各地方のスライムは種類が違うのではなく、食べたものに応じて特徴が変質しているようだった。

 私は、大人しいか、凶暴か、硬いか、柔らかいか、臭うか、臭わないか、それぞれの地方のスライムの特徴と、スライムの主食となりそうなものを地方ごとにリサーチするようクエストを依頼することにした。品種改良自体は容易に行えそうだった。

 また冒険者の話にあった溶ける場合と残る場合の違いは比較的簡単に判明した。理由は内部にある消化袋にあったのである。実はスライムはすべて同じゼリー上に見えてそうではないのだ。分類すると外皮となる硬い部分と、消化液の入った消化袋の部分、そして核の三つに分かれる。正確には核から延びる血管のような管も存在しているのだが、それらがスライムの構成要素であり、倒したスライムが溶けるのは消化袋が破裂し、消化液で外皮部分を溶かしてしまうからのようだった。

 私はこの消化袋を摘出してみたが、それでも核がある限りはスライムは死なないようである。そして観察三日目には新たに消化袋が出来つつあるのを目撃する。私は今度はその消化袋と核とを繋ぐ管を見つけ、管を切らないように摘出して分離した形で放っておいたが、それはそのままの状態で残っていた。消化袋を外に出しておけば餌を与えるのがかなり容易になりそうだった。

 そして溶けないように消化袋を除き、核部分を破壊することも試してみた。すると弾力性はそのままに動きを止めたスライムの塊が出来上がった。どうやら核をつぶされた際の状態の形態を維持するらしい。

 問題は臭いとどれくらい保つか……ということだろう。

 耐久性については一ヶ月は形状を保っていた。その後はだんだんしぼんで干からびていく。衛生状態にも寄るが腐りはしなかった。ちなみに他のスライムにこの部分を近づけると合体するのだ。どうやらこの外皮部分、核をつぶされたことで死んだのではなく他の核と結びつくための待機状態になっているらしかった。

 ただこの状態も臭いについては課題が残る。それは品種改良でどれほど抑えられるかだろうと私は考えた。


 平行して私はオナホの設計自体も手がけていた。地球時代とは違い、作業はすべて手作りで行わなければならない。まずは紙に設計図を起こし、木彫りで内部構造を実際に作成する。慣れぬ作業に四苦八苦するが大体一週間ほどで満足ゆくものが完成し、それを型に入れてモストロを流し込んだ。このコンニャクに似たモストロだがやはり保存性については難があるのだが、水の量の調整で弾力を代えやすいためサンプルを造るには適していた。実際使用してみた感じはまずまずの出来だったと言える。かつての会社でならばすぐさま不合格の烙印を押されるような稚拙な出来だが、評価が可能なクォリティのものが出来上がったこと自体が非常に嬉しいことだった。それをスライム捕獲の依頼などで気心の知れた冒険者の何人かに実際試してもらってみた。最初は怪訝な顔をしてみたが試しに……と使用してみてもらったところ効果は絶大であった。

 カルチャーショックという奴だろう。私は勘違いをしていたのだ。元の世界では常に最高の品質を求めていたが、だがこの世界にはオナホはないため、私にとってはつたないシロモノでも彼らにとっては最上のものとなるのだ。

 私はまだ改良の余地はあるものの、オナホの設計自体はひとまず合格ラインと考え、材質の完成を急いだ。

 続けていくうちにスライムの臭いは食べる肉などの違いであることが分かった。肉に代わって卵などを与えることで臭いの問題は回避できた。逆に草によっては香りよい匂いを放つことがあることに気付いたのは成果であった。いくつかの香草で試し、オナホに気分を若干高揚させるような香りをつけることに成功する。


 なお共に研究に当たってくれていたセーラは、この特徴から香玉という製品を作り出した。これは核と消化袋を抜いた外皮部分を乾燥させ、匂いだけに特化したものだ。女性向けに受けそうではないかというのでこちらも平行して製品化を目指すこととした。やはりセーラは出来る女性である。


 またスライムの弾力性の違いはどうも土に関連するらしいというのに気付くのには若干の時間がかかった。一作目ではその条件に気付かず、三作目の商品から、それらの要素も盛り込んだものを製造することとなる。型については木彫りから、内部のボツボツ感などの出を考え粘土質のものを作成して焼いて型にする方向に変えた。


 そして、私がこの世界に来て約一年が経ち、ついにオナホの販売を開始する日がやってきた。お店は地球時代の社長の言葉通り、清潔感あふれる白で統一し、誰でもお気軽に入れるような雰囲気作りを心がけた。

 最初に入ったお客は冒険者たちだった。彼らはクエストを行う夜やダンジョン内に潜る際の処理に苦慮しているらしく、こうした商品は非常にありがたいと言っていた。一日目は完売。何度となくモニタを頼んでいたことが利いていたのだろう。私のオナホのことは口コミで広がっていたらしい。


 併せてその日、私は人生におけるある重大な決意をし、実行に移した。セーラへのプロポーズである。閉店間際、馴染みの顔が並ぶ中で私はセーラに伴侶となることを望み、セーラも涙ながらに笑って私に頷いてくれた。

 あとで聞いた話だが、その頃にはセーラのおなかの中には私の子がいたらしい。だが異世界人である私が帰る方法を探して出て行ってしまうのではないかという懸念があったことと、前述したハニートラップの件でずっと罪悪感を感じていたらしかった。だがそれはセーラの早とちりだ。


 私の中からはもう地球に帰ろうという意思はとうの昔になくなっていた。


 そしてそれからの私は精力的に働いた。

 毎朝早くに起きてはスライムたちの餌やりを行い、手頃になったものからオナホ処理を行っていく。なおスライムは核をつぶすのではなく型にはめた後に一部を切り取ることにしている。こうすることでスライムを殺さず適量だけ使用出来る。餌を与えればまた増えてくる。なお切り取る際にはその際にはコア部分にアルコール度数の高い酒を注射するのを忘れてはいけない。結局のところ、制御しているのは核なのだ。その部分さえ鈍らせれば暴れることもなくなるのだ。

 そうして一日分のオナホを作成し、販売する。同時にセーラの香玉も売りに出した。こちらは店の前で販売している。オナホとは客層が違うし、通りがかりの女性が匂いに購入することも多いそうだ。


 そして店を開店して三ヶ月が過ぎた。


 相変わらず客は途絶えず、遠方より冒険者が訪ねてくることも多かった。製品も三作目が出来上がっていた。弾力性を調整し、ハード、ノーマル、ソフトにランク分けし、より強い刺激を求める客にも売れていった。

 商売は順調、そろそろ人を雇い、商いを拡大することを私も考えはじめていたのだが、だが、物事には良いこともあれば悪いこともあるのである。


 私が商人ギルドの会合から帰ってくると店が荒らされていた。セーラが倒れていた。私は取り乱し、慌てふためきながらもセーラを抱えて医者へと走った。

 セーラの顔は腫れ、乱暴された後はあったが命に別状はなかった。だがおなかの子供はダメだった。流産だと言われた。

 相手はこのヘルクトの街に駐留している兵士たちの指揮官だった。強引にオナホを軍に接収しようとし、巫女姫とも通じているセーラが正当性を主張したところ、話も聞かずに乱暴を働き、オナホを奪っていったのだ。


 私は怒りに震えた。殺してやろうと考えた。だが私の手には剣も魔法の杖もない。命じれば何でも叶えてくれる魔人もいない。私の手にはただオナホしかなかった。いや……


「止めましょう」


 そう言って私の手を握る妻がいた。ああ、そうだ。私にはセーラがいたのだ。セーラは私の顔から私の心中を悟ったのだろう。だがセーラは私が考えていたようなことを望んではいなかったのだ。それに気付いた私はセーラの手を握り返し、そしてふたりの間に生まれるはずだった子のことを思い、その夜は共に泣いた。


 その翌朝、私は城に赴き巫女姫に面会した。そして昨日のことを伝えた。そこに復讐の意味合いはない。それはセーラに止められていたし、私自身も心の中で黒々と燃えているものもあるがそれを表に出さない自制心もある。だが、起きたことに対する対処はまた別の話だ。

 今回のことは裏を返せば、私のオナホが軍の間でも必要とされているということなのだ。それに気付かず、結果としてこうした自体を引き起こしたことは私の不徳でもある。自らの持つ大きな力を正確に把握できなければ、不幸になるのは自分だけではないのだと私は悟ったのだ。


 そう私のオナホには力がある。


 勇者のように剣を振るい、魔法を放つものではないが、だが確かにある力だ。私はそれを使ってこの世界に生きている。だからこそ、力の流れを見極め、自身でコントロールする必要がある。


 結果としてセーラを暴行した司令官は最前線へと送られることとなった。


 セーラは元々巫女姫に仕えていたメイド。目に入れても痛くないほど気に入っていたからこそ10年に一度召喚された稀人へとつけてくれたのだ。そして私たちの子と会うことをとても望んでいてくださったのも巫女姫だった。そんな彼女の怒りたるや烈火の如くである。目の前にいた私が怯えて腰を抜かしそうなほどであった。

 だが私としてもセーラの意志を無碍には出来ない。だから巫女姫に告げた。復讐を望んでいるわけではないのだと。

 そして形式上は罰則ではないが、司令官は前線へと送られることとなったのである。巫女姫にとってもギリギリの判断だったのだろう。本来であれば直接手打ちをしているところらしい。


 その後、その司令官は現地で移された病気にかかり、亡くなったと聞かされた。どうやら現地の売春宿から広まった流行病に多くの兵がかかってしまい戦うどころではなくなっていたそうだ。


 それを良い切っ掛けとして考えるほど自分は屑ではないと思いたいが、だがそれは商売として持ち込む余地のある事件でもあった。もし社長や営業の田中さんがいたのなら、ふたりもここだと言っただろう。私は軍に対して積極的に営業をかけていったのである。

 この頃には私は人を雇い、スライムの専用の飼育場も用意し、オナホの量産体制を整えつつあった。商売の手をこの街から外にも伸ばし始めてもいた。この世界は商人ギルドなどの存在により流通が見た目よりも整っているのだ。一ヶ月以上保つ商品ならば十分に商売になる。

 そして私は今度は軍という大口を抱え込もうと考えている。

 戦場での処理というのは実際バカに出来ないと聞く。何しろ、一度病気が流行り出すと部隊全体に浸透し、果ては全滅というパターンもないわけではないからだ。

 それをオナホは解消する事ができる。私はそう売り込んだ。そしてそれは大成功を収めることとなる。折しも私のオナホが普及し兵たちに行き渡ったのとおおよそ同時期に隣国エリミネアとの戦争がヘルクト国の勝利で終結した。無論、私のオナホが戦争を勝利に導いたなどと吹聴するつもりはない。だが、未知の感覚、未知の快楽を味わった兵たちがその直後に勝利したことで、私のオナホが勝利に導いたのだと考え、口々に伝えてくれているようだった。そして彼らが制作者である私に会いにこの街まで来て、感謝の言葉をくれたときには私も目頭が熱くなった。そんな私の横には寄り添うセーラがいた。そのおなかには新たなる命が宿っている。心が温かい。オナホを作ってきたことをここまで誇らしく感じたことはなかった。




 そして私は今日もオナホを作り続ける。


 今の私は地位も名声も金もある。世間から見れば私は成功者の部類に見えるだろう。巫女姫が当初望んでいた異世界の技術の伝来も出来たのではないだろうか。

 だが私にとってはここがスタート地点なのだ。今のオナホはかつて地球で手がけたオナホにようやく近付いたというシロモノなのだ。未だ改善点はあり、まだやるべきことは山のようにある。

 朝のスライムの餌やりだって変わらず行っている。量産体制用のオナホスライム4号の飼育は社員に任せているが、品種改良のためのオナホスライムXシリーズの微細な調整はやはり人の手には任せられない。弾力性については及第点だが、餅のように吸い付くと言うほどではない。保存状態によっては表面がわずかにかさつくのも課題だ。現在はミンシアナ王国の高山に生えているリリー草と竜来山の溶岩を砕いた土を試しているところだ。効果が認められれば現行の餌と分量を代えて徐々に納得のいくものに改良していく。

 そして潤滑油についてはさらに課題が残る。現在は市場で売っている植物油の中から一番あったものを代用品として使用しているのだが、他にも植物性の香油や、スライムと一緒に飼育している軟体魔物のローパーの粘液などを候補として研究もしている。ローパーの粘液には性感を刺激する成分を含んでいるらしいが保存性が悪いのだ。スライムと同系統ではあるようだから品種改良によって対応可能かもしれないが、成分だけを抽出して香油と混ぜ合わせる可能性も試す必要がある。

 それと内部構造についてはやはり手探りで試していくしかない。モニタのオナホマイスターもクエスト依頼という形で冒険者から毎回募っている。実際のユーザーと対面での制作が出来る点はこの世界での強みでもある。

 そんな刺激ある毎日が今も続いている。そしてこれからも続いていくのだろう。



 私の名前は甲野こうの義明よしあき。職業はオナホ職人だ。


 かつての私には言えなかったが、今の私ならば言えることがある。


 私はオナホと共に生きている。私の人生はオナホそのものだ。そう私こそがオナホ職人なのだと、今ならば強く、はっきりと言えるのだ。


Fin

 テレビ見てたら3Dプリンタースゲーッて特集があって気が付いたらこんな話が思い浮かんで書いてました。一人称で書くのって難しいね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これぞ名作ってやつだね 感動しました
[良い点] 出オチか?と思えばそんなことはなく、浅い知識で無双するものでもなく、職人を感じさせるいい作品でした。
[一言] オナホも色々アイデア戦争があって、今、色々切磋琢磨してる中らしいですね 形状によるコスト費とか読者好みの割合(密度)など真面目に見てると一生懸命考えてる仕事なんだなぁとか、関心した覚えがあり…
2016/05/19 01:08 退会済み
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