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探索者  作者: 柑橘ルイ
6/6

探索者 六

暗闇に青い三つの点が上下に揺らめき、そこから下がった位置には帯状に光るモノがあった。

 日も射さない冷ややかな空気の中、金属がぶつかり合う音が響き渡り、命のやり取りを行う緊張感が漂う。

 しかし、その音に混ざり、その場にそぐわない陽気な鼻歌が奏でられていた。

 よく眼を凝らすと光の帯には女性の眼の辺りが透けて見え、また鼻歌もその女性から聞こえている。

 高い位置にある三つの点が方向を変えて光る帯へと向けられる。三つの点の内側では、この暗闇は昼間の如く写っていた。

「直、調子いいな」

「最近霜といるのが楽しくってな」

 共に探索にいそしんでいる霜と直の二人であった。

「俺? 武野原は?」

「最近一緒に探索して無いんだ。姫を誘っても、こっちは気にしないで、て言って生暖かい目でこっち見ながら断ってくるんだ」

 首を傾げる直であったが、霜は検討がついていた。直と霜が付き合っているとでも思っているのだろう。

 そのときレーダーに反応があった。

「直」

「うん」

 短い応答で互いにやることが理解できている。置き去り事件から月日が経っていたが、直はいつでも一緒に行くという宣言通り霜が探索するときには、常に一緒にいるようになったのだ。

 害獣が複数のいたが、霜は水練を先行させて最大射程まで近づけ、暫く様子を窺っていると蛙型が一機だけ僅かに離れる、その瞬間水練は針を伸ばした。

 離れた蛙型に当たるが火花が散るだけで、損傷を与えていないのが分かる。

 しかし、意識を霜達に向けることが出来た。周囲の害獣は離れていたため気が付いておらず、蛙型一機のみ襲い掛かってきたのだ。そのままつかず離れずを維持しながら他の害獣から離れていき、戦闘時に横槍を入れられない位置まで行くと、水練と猛火で同時に襲い掛かる。

 一緒に探索する回数も増えれば、互いに連携も上手くこなせるようになっているのは当然のことで、一機の害獣を猛火と水練の二機で相手取ることが最善であった。

 二機で襲っているが現在位置は霜達にとって自己最高の深度に達しており、所々レアメタルも混じり始めているため、害獣はかなり手ごわく同数ならかなりの痛手を負うだろう。

 水練が一定の距離を維持しながら蛙型の周囲を回り、側面や後ろなど優位な位置を取った瞬間に立方体になり針を伸ばす、その速度は初期に比べだいぶ速い、同じ技術を繰り返していくと最適化されていくのだ。だが残念なことに蛙型もすんなり取られるようなこともさせず、右に左にと身体を回し水練を正面に捉えようとしていた。

 霜は内心ほくそえんだ瞬間蛙型が弾け飛ぶ、猛火が突撃したのだ。横転する蛙型に水練が装甲の隙間をねらって次々に針を突き刺していく、

 火花が散り放電も起こしていくが、起き上がろうと激しくもがく姿から仕留めるにはまだ掛かるだろう。

 起き上がった蛙型が後方へ大きく跳ね、仕切りなおしとなった霜は小さく舌打ちをした。この害獣は蛙ゆえに舌を鋭くして伸ばしてくるのだが、その威力と射程は水練を大きく上回っていた。

 指示を出して水練を左右に振りながら間合いを詰めさせるが、敵も易々と近づけさせない。

 そこへ再び猛火が襲い掛かるが、蛙型も学習したのかあっさりと避けられてしまう。

 しかし、その間は攻撃が止まるのだ。一気に接近した水練は先ほどの間合いを取り、周囲を回り始める。

 水練がかく乱しつつ、隙を付いて猛火が一撃を加える、この連携は二人で相談し合い、試行錯誤した結果である。

 時間はかかるが確実性があり、実際に現在の目標である蛙型を仕留めるのであった。

「今のところはこの連携でいいが、もっと進むと上手くいかなくなるな」

 一息つきながら霜は愚痴をこぼす。

「そこは気合いと根性で!」

「いけたらどんなに楽か……」

 拳を頭上に掲げる直をよそに、顔を手で覆う霜である。

「じゃあどうするんだ?」

 直に問われ、霜は思考を巡らす。

 このまま進めば水練達も成長し、より複雑な連携も出きるようになるだろう、しかし、同数より上の数で襲われると危険であった。此方も数を揃えればいいかもしれないが、即席で組んだところで上手くいくとは考えにくい。

「将と武野原の二人を組み込むか……」

 霜と将、直と姫はよく組んでいたのだ、全く知らない者よりかは分かりやすい、それに多すぎることもなく、また少ないということもない、いざとなったら二人づつ分けることも出きる。そこまで考えた霜は案外行けるかもしれないと希望を見いだした。

「希望的観測しかないが行けるかもしれない、とりあえず武野原に話をしておいてくれないか?」

「分かった、今日の飯時にでも聞いてみる」


「と言ったことなんだけどどうだ?」

 食後の雑談で騒がしい中、直は問いかける。

「直達がいいなら私は構わないよ」

「よし! じゃあ霜に連絡しておくよ」

 直は嬉しそうに携帯を取り出すのだった。

 連絡も終わり、雑談をしながらココアを飲んでいる直が首をかしげる。

「あそこのやつらがさ、誰が好きだのなんだのって話しているだろ」

 直が指している方を姫が見る、そこにはひとつの集団が楽しげに話しているだろう。

「人を好きになるってどんな感じかと思って」

 ココアを飲み一息ついたときには、姫は目を瞬いていた。

「そんなにも驚くことか?」

 姫の態度に直は不機嫌になる。

「ご、ごめんなさい、もう知っているかと思っていて……」

「どういうことだよ」

 手を合わせる姫の言葉に、直は全く検討がつかなかった。

「日ノ本さんのこと好きなんでしょ?」

 何を言われたのかなかなか頭に入らず、直は沈黙する。

「ば! なに!?」

 霜の顔が浮かんだ瞬間に直の顔がほてり、心臓が高鳴った。

「胸が苦しくなったりしない?」

 楽しげに笑いながら、姫はなおも追及していく。

「な……なる」

「人混みの中のでも、ふと気付けば探していたり」

「ある……」

「一緒にいると嬉しかったり」

「……」

 姫に次々に言い当てられ、直は呆然としていた。

「この前デートしていたよね」

「デート!?」

 デートという言葉の衝撃に直は思わず立ち上がる。

「二人きりで遊ぶのは好意を持っているからだよね?」

 姫に問われ、直は答えに窮した。

「あ、あたしは」

 己が行動に驚愕した直は、余りの驚きに震える手の平を見詰める。

「霜が……日ノ本霜が……」

 直は小さく、だがはっきりと口にしながら、鼓舞するように手を強く握りこんだ。

「好き」

 呟いた途端、しっかりと自覚をした。

 いつごろから好きになったのか直は正直分からなかったが、途中から霜が殺人を犯したことを、否定するために調べていたことや、死にそうになった時に霜が浮かんだことなど、直が霜に対する行動の理由が、パズルのピースがはまるかのごとく納得できた。

(霜が好き)

 心の中で再度認識すると、胸が高鳴り苦しくなる。しかし、それは嫌な感じも無くむしろ嬉しく感じ、霜の姿が思い浮かぶと心の中が温かく安心する、そして側に霜が居ないことに寂しさも感じていた。

「ふふふ」

 嬉しそうな笑い声に直が我に返ると、姫が生暖かい視線を向けていた。

 姫一人だけではなく周囲の人達の視線もあった。生暖かい視線の他に、嫉妬にまみれた人や好奇心に眼を輝かせている人など、様々な視線に晒されていた。

「なんで?」

 なぜ見られているのか不思議に思った直は姫に尋ねる。

「直が好きだって口にして、百面相しているからかな」

 探索者または関係者を目指しているとはいえ、女子高生である。噂話や話題のテレビなど色々話が尽きないが、もっとも気になるのは恋愛関係であろう、そんな気になる話を近くでされたら、耳を大きくして集中すること間違いなしであった。

「告白するの?」

 姫は期待するかのように眼を輝かせた。

「こ、告白か」

 伝えることに妙な恥ずかしさが襲い、直は顔を赤らめて俯いた。

言うことは恥ずかしい、しかし、伝えた気持ちもある。いい返事がくれるだろうか、それとも駄目か、駄目だと返答されることを考えると、胸が痛み途轍もなく不安になる。殴ったこともあったし、性格から周囲を気にせず行動し、迷惑をかけているだろう、だけど頭を撫でてくれた、置き去りにされたときも一生懸命助けに来てくれた、少なくとも嫌われていないと思う。

 色々なことが頭の中を駆け巡り、直は赤くなりながらも頭を抱え振りまくっていた。しかし突然止め、此処で考えても始まらない、ただ行動するのみと直らしい決意をすると勢い良く顔を上げる。

「告白する!」

 その瞳は燃えていた。

 声も高らかに宣言すると周囲から感嘆の声があがると共に、応援されるのであった。


 一瞬電子音が鳴り、布団から霜が上半身を起こした。目覚ましが鳴ったと同時に眼が覚め、素早く止めた結果である。

「直が夢にでた」

 水練に明瞭な発音で話しかける霜は、寝ぼけるようすも無く、それほどまでに良い目覚め方であった。

 何処かの街を直と二人で歩き、霜の腕を抱えながら明朗に笑う直など、見ていた夢もいまだ消えておらず、思い出すことも出来た。

「直か……」

 夢に出てきたは全く嫌ではない、むしろ嬉しかったりする霜である。思わず口角が上がり、隠すかのように口元を手で覆う。

 直に恋愛感情を抱いていることを、霜は既に自覚しているのだ。直を助けに行ったあと、なぜあそこまで必死になったのか自問自答した結果である。その後何度も二人きりになる機会があったが、慎重な性格が災いしてなかなか言い出せないでいた。

「いつか出来るといいが」

 眉間にシワを寄せ呟いたあと、頬を叩き気合を入れて勢いよく立ち上がり、顔を洗いに洗面所へ向かうのであった。


「よし、じゃあ学校行こうか」

竜牙を引き取り、将は気合と共に歩きだす、そのあとを霜と水練はついていく。

「ん~いい天気だね」

「ん」

 学生服と、白い学校指定のコートを着て二人は道を歩く。

「そういえば……」

 霜の前に回りジッと見詰める将を、首をかしげながら無言で霜は見詰め返す。

「うーん……まだ悩んでいるの?」

「心配かける」

「心配っていうか若干呆れているよ、ある日突然僕の部屋に来たと思ったら、直が好きなのだがどうすればいい、だもんね」

 将は腰に手を当て、声真似をしながら怒った振りをする。

「自問自答で理解できたが、なにをどうすれば言いか無駄に悩んだ」

「告白すればって言ったら凄く納得していたよね」

 霜が落ち込む姿を見て、将は首をすくめるのであった。

のんびり二人で歩いていると校門のど真ん中で仁王立ちしている人物が居た。

「あれ何しているんだろ?」

 鳥の巣のようなベリーショート、小柄な身体と八重歯で活発な印象を受ける少女の直である、その傍らには勿論猛火がいた。

 そんな女子を後ろからオロオロと話しかけている女子は姫である。

 必要な所にしか脂肪が無い魅力的な身体と、腰まである長い大きなみつあみを揺らし、直を説得しているようだが効果はないようであった。

周りは何事かと視線を向け、女生徒は訳あり顔で遠巻きに眺め、男子生徒はつられるように人が集まっていた。

 そんな中で霜は落ちつけるわけが無い、更に直が一直線に睨んでいるのだ。どこか既視感を覚えながらも、霜自身としては、最近何か彼女に酷いことをした覚えも無い、だが彼女に視線はやたら熱い、色恋沙汰に似た熱さであった。

「日ノ本霜!」

 視線も逸らせぬまま近づいた時直が口を開き、その問いに霜は頷き肯定する。

「水無瀬直は!」

 直は右腕出し、勇気を振り絞るかのように握りこんで霜を睨む。

「直、本当にこんな所でするんだ、気が早いよ」

 先ほど説得していた姫は諦めたのか、肩に飛燕を肩に乗せ頭を抱える。

「お前が好きだー! あたしの男になれー!」

 朝の学生が往来する校門で、天まで届けと言わんばかりに、大きな声で滑舌よく告白したのだった。

周囲の学生も何事かと立ち止まり、朝の爽やかな空気が一変して緊張が辺りを包む、直と霜へと視線が集中するのは、霜の返答待ちなのだ。

 先に告げられたことの後悔や、好きだと言われ嬉しさがこみ上げるなど、色々なことが頭のなかで殺到し長い沈黙が流れる、しかし直が震える姿を見た霜は、口を開くと同時に直の右手を優しく包み込む。

「よろしく、俺も直のことが好きだ」

 一瞬の静寂の後、周囲が喝采に沸きあがり、直は涙目になりながら霜に抱きつくのであった。


何とか完結しました。しかし、最終話の前半は蛇足と感じています。もっとも無かったら3000文字足らずと凄く短いことに……

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