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探索者  作者: 柑橘ルイ
4/6

探索者 四

注――大丈夫だと思いますが一応R15です


「ぐはぁ」

 寮の一室に酷く力が抜けた声があがる。

「今日は日曜日……」

 霜は眠気が襲うがなんとか身体を起こす。先ほどの声は霜が水練に腰を持ち上げられ、仰け反った際にでた声だった。

「今日もがんばろう」

 水練を撫でる霜であったが、暖かく柔らかい感触に思わず瞼をとじてしまう。

「いかん」

 一瞬眠りそうになるが気合と共に立ち上がり、顔を洗いに洗面所に向かった。

 顔を洗いさっぱりした霜は自販機へ向かい人気の無い廊下を歩く、時刻は朝五時三十分と早い、せっかくの休みを少しでも長く過ごすためであった。ちなみに睡眠は十一時である。

「さてと……」

 部屋に戻った霜は小腹が空いたため、簡単な物でも作ろうと小さなコンロへ向かう。火口が一つしかない物だが、それは各部屋に設置されていた。

 基本朝晩は食堂での食事になるが、時間外は勿論作ってもらえるわけではない、食いたければ自分で作れということなのだ。

 隣に設置された小さな冷蔵庫から卵を取り出し、器にうつしかき混ぜる。

「玉子焼き、やはり砂糖は必須」

 部屋に寂しく声が通る。一人暮らしに近い状況だと自然と独り言が多くなるものである。

 溶いた卵を熱した小さなフライパンに少量流し、傾けて薄く広げる。箸で手前から奥へ丸め手元に寄せ、その後奥のスペースに同じく少量流し広げ、それを卵が無くなるまで繰り返す。

「よっと、出来上がり」

 皿に移しテーブルへ持っていく、そのとき窓にありえないモノと目が合った。

「なにをしている……」

 鳥の巣頭でこじんまりした少女の直であった。

 ニコリと笑顔を向けて扉を開けるしぐさをし始めた。

 眼が合ったので霜はしぶしぶ窓を開ける。

「とりあえず入れ、女子が居るのを寮長に見つかるとうるさい」

「へへ、ありがと」

 嬉しそうな顔をしながら直はヒョイと窓を乗り越えた。

「猛火を上げるの手伝ってくれるか?」

「はいはい」

 霜の部屋は一階にあり、窓の下には猛火が立っていた。身を乗り出し二人で猛火を引っ張り上げる。

「どうして此処に?」

「あたし毎朝走っているからな」

 直の姿は黒字に数本の白いラインが入ったジャージを着ていて、活発なイメージから良く似合っていた。

「そのついでにチョロっと覗きに来た」

「覗きって……」

 まあいいかと霜はコップを取り出し振り返った。

「コーヒーと紅茶どっちがいい?」

「え? あ、ああ……」

 顔を勢いよく上げる直は挙動不審である。

「……」

「……」

 両手にコップを持ち返答を待つ霜と、話を聞いていなかったのだろう、首を傾げる直と互いに見詰め合い無言で互いに首を傾げる変な空気が流れた。

 話しを聞いていなかったのかと霜は口を開くが、先ほどの直が凝視していた物が分かると同時に理解する。

「いいぞ」

 霜は仕方が無いと言いたげにため息を一つつく、しかし直は何がいいのかよく分からないようである。

「それ、食べたいのだろう?」

 先ほど直が見ていたのは出来たばかりの玉子焼きであった。話が聞こえないほどに凝視していたということは、現在腹をすかせているのだろう。

「本当か!?」

 途端直は眼を輝かせる、身を乗り出していることから余程食べたかったのがわかる。

「いただきます!」

 しっかりと両手を合わせ、しかも正座をしており礼儀正しいものである。

「それ結構甘――」

「美味いなこれ!」

「……そか」

 美味いと言われ妙にくすぐったい感覚を霜は味わっていた。直の食事中にミルクティーを二つつくり向かい合い形で座る。

 なんとなく直の食べる姿を見てみる。騒がしく動き回っている彼女だが、意外と食べる姿は綺麗であった。きちんと正座をして背筋を伸ばし、玉子焼きを箸で一口サイズにしていて、喋るときも飲み込んでからであるし、飛ばしてもいない。

「ほう」

 思わず感嘆の声を霜があげる、当然直にも聞こえ眉を顰めていた。

「なんだよ?」

 訝しげな直になんでもないと言おうとした矢先に、変な音が響き渡る。二人の視線が向かう先は霜の腹部であった。

「あーそっか、すまん」

 もともとこの玉子焼きは霜が食べるために作ったのだ、当然食うからには空腹な訳である。

「気にするな」

 霜は首を振りながら、砂糖を入れたミルクティーを飲む。

「うーん」

 唸る直は霜の顔と、少し残った玉子焼きを交互に見ていた。そしてサッと半分に切り突き出した。

「食え」

「いや、しかし」

 霜の目の前には箸につままれた玉子焼き。

「しかしも案山子も無い!」

「むう」

 こいつは何も思わないのかと霜は疑問に思う。箸は一膳しかないのだ、つまりはそういうことである。

「ほら、あーん」

 気が付いていないのか、はたまた気にしないのか、どちらか分からないが食うまでこのままの可能性があった。

(まあ、美人さんにされるのは嫌ではない)

 そんなことを思いつつ口に含む。

「うん」

 箸を引き抜き、頷く直は嬉しそうである、しかし次に自分が食べようと口入れる前に一瞬戸惑いを見せた。

「どうした?」

「なにが?」

 見逃さなかった霜は内心ニヤニヤとしながら尋ねるが、直は平然と聞き返し飲み込むだけであった。反応が今一だったので霜は残念な気分になっていた。

「ご馳走様美味しかったぞ朝早くから来て悪かったなそろそろ帰らないとまずいから帰るなじゃあまたな!」

 直は食べ終わるや否や霜の返事も聞かず、目も合わさずに一気に喋る、そしてそのまま窓から猛火を放りだし自身も外へ出て行き、脱兎ごとく駆けて行く。

「ああ、また……」

 怒涛の勢いに片手を挙げて呆気にとられる霜であった。


「探索許可取りに来ました」

 施設で探索手続きをする霜であったが、途端肩を叩かれる。

「よ!」

 霜が振り向くとそこには、片手を上げて陽気な挨拶する直と頭を動かす猛火がいた。

「こんにちは」

 その後ろには姫と飛燕の姿もあり、その二人に霜も頭を垂れる。

「今から探索ですか?」

「ああ」

「当然あたし等も着いていくぞ」

 鼻息荒く直は胸を張る。

「了解」

 頷く霜に声がかかる。

「終わりましたのでこちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

 受付嬢が笑顔を浮かべながら身分証を渡し、つられる様に霜も笑顔で受け取る。

「こっちもお願いします!」

 直は叩きつけるように身分証を置く、不機嫌そうに受付嬢を睨んでいた。

「はい、承りました」

 直の態度を意にも介さず、平然と対応する姿は流石受付嬢である。

「どうした?」

「べつに!」

 そっぽ向く直に霜は首を傾げる、その隣では察したのか姫がクスリと笑っていた。

「こちらも終了しました、そちらの方も受付しますか?」

 奪い取るかのような勢いで受け取る直を気にも留めず、受付嬢は姫も促す。

「いえ、私はいいです」

 しかし姫は一瞬直を見た後断った。

「姫一緒に行かないのか?」

 一緒に行くと思っていたのか直は少し驚いている。

「ごめんなさい、ちょっと人と会う約束していて……」

 両手を合わせ謝る姫に、不満げな直は頬を膨らましていた。

「そんなの聞いてないぞ」

「えーと……その……言うのを忘れていたんですよ」

 姫の様子がおかしいため、疑いを掛ける直は質問をぶつけていく

「だれと会うんだ?」

「あう……えとえと……」

 視線を彷徨わせる姫と受付嬢の視線が絡み合う、ただそれだけだったが、その一瞬で様々なやり取りがあったように見える。

「私ですよ」

「そうなんですよ、最近知り合った方で喫茶店に誘われました」

 姫は直に向き直り話し出す。先ほどは行き当たりばったりの適当な言葉のようで、しどろもどろになったが今度は大筋が決まっているかのごとく、スラスラと言葉がつむがれた。

「む……わかった」

 言葉に詰まっていた姫の態度から、隠し事していると怪しんでいたが、どうやらむりやり納得したようである。

「結局直と行くってことか?」

 やり取りを見ていた霜は頃合を見て締めくくった。

「そうなりますね」

「そうか、直と二人だけか……」

 霜は顎に手を当てる。

「なんだよ? 不満か?」

 直の眉間に皺がよった。

「直と二人きりで探索すること無かったからな、どこまで潜ろうかと」

「そんな深くまで潜れないのに何言っているんだよ、二人きりって将と変わりないだろ?」

 肩をすくめる直だったが何かが引っかかるのか首を傾げる。

「二人きり? 二人きり……二人きり!?」

 頭を上げる直の顔は驚愕に染まっていた。

「がんばってください」

「なにを!?」

 笑顔で応援するのは受付嬢である。

「なにをって探索ですよね?」

「え?」

 姫の言葉に直は硬直する。

「そうですよね?」

「そうですよ」

 受付嬢と姫は視線を合わせ。

「「ねー」」

 身体を傾かせる所までも合わせる二人は友人そのものであった。

「うわぁ……」

 頬を押さえる直は、自身の勘違いに穴があったら入りたい状態であろう。

「なにと勘違いしたんですか?」

 微笑みながら追求する姫の後ろには、尖った尻尾が霜には見えるのであった。

「そろそろ行きたいのだが」

「そうだな! 直ぐ行こう、今すぐ行こう!」

 霜の言葉に直はすぐさま反応し、腕を掴み全速力で施設から出て行った。


「はあ、はあ、な、なんで、探索前に、体力つかわないと、いけないんだ」

「ごくろうさん?」

 膝に手をつく直の息は荒い、霜もなんと声をかければいいか困るものである。

「ふ~……よし! 行くか!」

「待て」

 直が息を整えながら表示装置等を装着し、先立って黒卵へ入っていこうとするが、霜が止める。

「なんだよ?」

「最近俺と将が行き、帰りが水無瀬と武野原だった、今日は直が行きをお願いしたい」

「いいのか!?」

「ああ」

「よっしゃ!」

 表示装置を起動させ、気合と共に入っていく直のあとを霜がついていった。

 直の持つ指揮棒の淡い光が複雑な動きを見せる。途端猛火が蹄を鳴らしながらかなりの速度で突き進む、その先には数体のスライムが蠢いており、それらをボーリングの如く弾き飛ばす。

「軽快だな」

 いつもよりも早く奥へと進む様子を見ていると、やはり一機ずつ倒していくのは時間が掛かるとため息が出てしまう霜である。

「だろ? しかもまとめて吹き飛ばすもの気持ちいいしな」

 褒められた直は得意げに胸を張り嬉しそうであった。

 スライム以外の害獣が出てくる、しかし鼻歌交じりに次々に指示を送り、多少手間取る程度で倒していく。

 狼型の害獣に真正面から突撃する。狼も飛びかかってきたが激しく火花が散り、狼が吹き飛んでいった。地面に叩きつけられ起き上がるが損傷が激しいのだろう、足を震わせ辛うじて立っているようである。その隙を見逃すはずも無く、指示された猛火が再度突撃すると狼は立ち上がらずに身体が分解した。

「よし!」

 やたらテンションが高い直である

「水無瀬」

「何?」

 直が振り向くと同時に水練が針を伸ばした。

「な!」

 突然自身に延びてくる針に直は硬直していたが、水練の目標は直のすぐ上であり、針に貫かれたスライムが核を残し分解する。

「な、なんだ?」

「注意力散漫」

 頭上から直へ狙い済まして落ちてきたのだ。それを少し後ろから歩いていた霜が発見し指示を送ったのである。

「しかも遠くまで走らせたから、近くを攻撃するまで時間が掛かる」

「わかってるよ……」

 直は頬を膨らます。

「ふてくされるな」

 霜は直の頭に手を置き、落ち着かせるようポンポンと軽く叩く。

「ふん」

 猛火に指示を送りながらも、手を退けるつもりはないのかされるがままであった。

「お?」

 直が声を上げ、霜が視線を辿ると猛火に異変が起きていた。

 その場に立ち止まり硬直していたのだ。頭部を中心に罅が入り、そこから徐々に尻尾へ広がっていき全身覆われていく。

「成長したのか」

 感嘆の声を上げる霜は猛火の様子を見ていた。

 猛火の身体にくまなく罅が入り、全身を振ると次々に薄い破片が飛んでいく、よく見るとそれらは猛火の身体であった。

 全ての破片を飛ばした後には一部変化が現れていた。頭部全体の装甲が兜の如く角張り厚みを増し、身体の側面には首から後ろまで、今までになかった長い膨らみが左右に一本、計二本増設されているのである。

「すげぇ! 電力の容量が倍になった! それに……ブースターか?」

 直の表示装置には自動更新された猛火の詳細がワイヤーフレームで映し出されているのだろう。

 ワイヤーフレームは猛火の内部まで細かく描かれている。膨らみの内側にはロケットのようなブースターが増設され、装置を使用する指示棒の動かし方も同時に表示されていた。

「使ってみたらどうだ?」

「そうだな、内部映像だけじゃ詳しくわからないからな」

 暫く進むと暗闇を大きめの赤い光が二つ動く、蟷螂型の複眼があった。遠くからでも二人を感知したのだろう、複眼の光が一瞬強くなりいつでも襲いかかれる体勢になりながら近づいている。

「いけ!」

 直が指示を送った途端勢い良く開く音が響く、何事かと霜が視線を向けると猛火の膨らみが開いていた。その中には複雑な幾何学模様が描かれたブースターが見え、そして空気を震わせる破裂音が響き猛火が急加速する。驚きながらも眼で追った二人が見たものは、蟷螂に真正面から激突している猛火の姿である。

 全ての推進力を伝達させたのか、その場で停止する猛火だったが蟷螂は違った。途轍もない衝撃だったのだろう、衝撃を受けた場所を中心に罅が入り吹き飛ばされた。

 多脚で火花を散らしながら踏ん張るがそれでも止まらない、ついには体勢を崩し地面に転倒する。数々の部品や装甲の破片を撒き散らし、地面に全身擦りつけながらやっと止まるのだった。巨大な弾丸の威力はかなりのものらしく、蟷螂は一つ震えると複眼の光が消えて分解していくのであった。

「……」

「……」

 想像以上の速度と威力だった所為か、眼を見開き言葉を失う二人である。

「な……なんだいまの! すげーよ!」

「加速が早すぎて、目で追うのがギリギリだったな」

 何が起きたか理解した直は喜び、同じく理解した霜の手を握って思い切り上下に振りまくる、そんな二人の下に猛火が戻ってきた。楽しかったのかはたまた気持ちよかったのか、スキップでもしそうなぐらい猛火の歩く姿は軽かった。

「あははははは! 凄いぞこのやろう!」

「水無瀬すこし落ち着け」

 笑顔を振りまきながら猛火を褒めて撫でまくる直に霜が注意をする。

「なんだよ」

「嬉しいのはよく分かる、しかし色々と細かい所も確認しておいたほうがいい」

 止められてむっとする直だったが霜に言われ、細かい所まで確認しはじめた。

「走るのを補助する程度だと思ったんだけどな?」

「むしろ初速を担うものだったな、とんでもない速度だったが……」

 直は形状から火を噴きながら徐々に加速すると想像していたのだろう、しかし実際は一瞬で最高速にまで加速するもので、火が点くのがその一瞬でありほぼ爆発に似たようなものである。

「電力の消費が激しいな……」

「あれほどのものだからな」

 霜は納得するように頷く。

「全快からどれ位つかえる?」

「むー……数回つかえるかな?」

 首をかしげながら直は指折り数えた。

「容量倍でそれか……慎重に使うように」

「それぐらいわかっているよ!」

 馬鹿にされていると感じたのか怒鳴り返す直であった。

「それにしても盛大に吹き飛ばしたな」

 霜は蟷螂の残骸をみながら呆れる。破片を落としながらだったため、かなりの範囲に色々と散っているのだ。大本は停止してから分解したため塊であるものの、回収には少し時間を食いそうである。

「移動しながら回収すればいいじゃん」

「そうなんだが」

 全く気にしていない直はあっけらかんとしていたが、霜はため息をついていた。


 さらに進んだ二人は複数の害獣を相手に、正確に言うと戦っているのは直と猛火である。霜が手伝うと申し出たが直が反対し一人でやると聞かなかったのだ。

 中型の蜥蜴が吹き飛んでいく、猛火の突撃に吹き飛んだのだ。猛火が追撃しようとする素振りを見せるが、直の指示で後ろへ飛びのく、その瞬間猛火が居た位置に小型の猫が着地した。隙を付いて飛び掛ったが、それに気が付いた直が後退するよう指示を送ったのだ。

「あの猫型うぜー!」

 直が頭を抱え思い切り叫んでいた。

「チマチマ跳びまくりやがってじっとしろってんだ! しかもなんだよ! こっちが攻撃しようとしたら襲いやがって畜生が!」

「落ち着けって」

「だってよー」

 余程鬱陶しいのか怒りを通り越して若干なみだ目な直の頭を霜は撫でる。そして指示棒を起動させ指示を送った。

 猛火に飛び掛っている猫型の横腹に水練の針が突き刺さる、機動性重視のため装甲が薄いのだろう、水練の針でもかなり深くまで入り込んでいた。

 猫型が水練へ敵意を向け襲い掛かる。素早く左右へ、天井も使用し上下に、縦横無尽に飛び跳ね狙いにくくしその勢いのまま噛み付いていった。しかしその猫型の額に風穴が開く、襲い掛かる勢いを利用し、装甲を貫くほどに威力が上がった水練の針が貫いたのだ。

 どの方向でも攻撃できる精密射撃と、突き刺すという行為がもたらした結果であった。

「こういったタイプはこっちが受け持つ、他は頼むぞ」

「いや、手伝いはいらん!」

 直はどうしても一人でやりたいようである。

「どうしてそこまで一人でやりたいんだ?」

 途端直は視線を逸らし、挙動不審に小さな声で喋りだした。

「それは……おまえに……その……感化されたというか……あたしも頑張ろうというか……」

 余りに小さな声だったので霜が耳を寄せるが、真っ赤な顔で直は顔を振り出した。

「だー! そんなのはどうでも良いだろ! わかったよ! 素早い奴は頼むよ! ハイこれでお仕舞い!」

「……了解」

 大声で強引に打ち切る直を見て、追求しなくていいかと肩をすくめながら了承する霜であった。

 やはり一人より二人の方が効率は良い、しかも二人で分担して相手をするのが効果を上げていた。

「大分楽だなー」

 素早い害獣にかなり難儀していたのか、直は重装甲や鈍い害獣の相手をしていて楽しそうであった。

「同意だな」

 実は霜も分厚い装甲で守られた害獣には手を焼いていたのである。

 関節など弱い部分を狙いはするものの、頑丈なものだと内部も頑強に出来ていたりするのだ。そのせいで大分てこずっていたのだが、それらを猛火が相手取ってくれるためかなり楽になったのだ。しかしそれでも限界は来るものである。

「水無瀬、そろそろ電力が足りなくなってきた、そっちはどうだ?」

「あ、こっちも結構やばいな」

 害獣が周囲に居ない間に、霜が表示されている電力の容量を見るとかなり減っていたのだ。成長し容量が増えた猛火もかなり少なくなっているようである。

「そろそろ戻るか?」

「そうだなー? 時間的にも昼だしな」

その感覚が正確であるかのように直の腹部から音がなる。

「そうみたいだな」

「だろう?」

 音が聞こえても恥ずかがる素振りも見せず、明るく笑う直の姿に霜は微笑むばかりである。

「念のため使っておけ」

 霜がポケットから取り出したのはメモリースティックの形をした緊急用乾電池である。それを直へと放り投げた。

「ありがと、いつかおごるからな」

 難なく受け取り猛火へ差し出す、猛火は口を開け咥えそしてそのまま一気に飲み込んだ。同じく霜も水練の上に置くとそのまま体内へ沈んでいく、獣機の中で充電が行われ、その後空になった乾電池は分解され素材となる。

「よし、戻るか!」

 直の声と共に戻るであった。


 時間をそれ程掛けず、一気に戻った二人には大分余裕があった。多種多様な害獣が複数で襲ってくるが、分担作業で相手取っていたため楽であり、更に戻ると害獣がほぼ単体でしか出現せず、猛火と水練で同時に取り掛かればあっさりと始末できるのである。

「水練は一人で行くより誰かと組んだ方が良いんじゃないか? むしろ組むためのような性能だな」

「当たっているかもな、今回直と組んだことでよく分かった」

 現在居る地点は複数とはいえスライムしか出てこないので余裕があり、雑談しながら出てくるスライムを蹴散らしていく。

「へへ、そうか」

 くすぐったそうに直は頭を掻いていた。

「あ、でも将と組んだこと無いのか?」

「ある」

 誰かと組んだことがあるのに今まで分からないのかと直は言いたいのだろう、そのことがなんとなく分かった霜は答える。

「将と竜牙が強いからな、囲まれないよう周りの気を引く程度しか出来なかった」

「あー……」

 竜牙が単独で害獣を吹き飛ばす姿が霜の脳裏にたやすく浮かぶ、同じものを想像したのか直も納得する。

「獣機の性能差が少ない場合は互いに苦手分野を補う、今回直と組んでよく分かった」

「弱くてわるかったな」

 直が頬を膨らます。

「そんなつもりで言ったわけじゃない、たまには別の人と組むもの良いと思っただけだ」

 霜が口にすると直の機嫌がよくなったようである、しかし突然挙動不審になった。

「まあ、その、なんだ?」

 直は意を決したように霜と視線を合わせ。

「霜が良かったら、あたしはいつでも組んでやるよ」

 笑顔と共に宣言したのであった。

「そうだな、卒業規定の素材集めに間に合いそうになかったら頼む」

 霜も微笑みながら頭をなでた。

「そんな切羽詰った時だけかよ」

 だが直には不服だったようで眉間に若干皺がよる。

「直と組むのに慣れると、単独や他の人と組んだ時に困りそうだ」

「そんなの一人で頑張った場合も同じじゃねえか、組んだ経験が無いから連携が上手くいかない、てなことになるぞ」

「それもそうだな」

 直の指摘に顎に手を当て霜は悩んだ。

「だったらあたしと組むのにもなれた方が問題ないだろ」

 指示を出し猛火をスライムへ突っ込ませる直の態度は、なんでもないような素振りであったがどこか必死であった。

「確かにそうだ、だがいつも一緒というわけにもいかないだろう?」

「それは……そうだけど……」

 俯く直の表情は分からない、だが一気に顔を上げ霜へ振り向いた。

「いや! いつでも一緒に行ってやる! あたしが言い出したんだ、それぐらいはやってやる!」

 宣言する直の瞳は燃えていた。

「わかった、よろしく頼む、ちゃんと直の事も考慮して探索する」

「本当か!?」

 霜が頷くのを確認した直は余程嬉しいのか目を輝かせていた。

「こっちこそよろしく頼むな!」

 直は満面の笑顔を振りまきながら、スライムを始末しながら突き進んでいった。


「お! 大量だな!」

 意気揚々と歩く直の言うとおり奥にスライムの塊が蠢いていた。突撃で吹き飛ばそうと指示棒を動かす。

「まて」

 しかし途中で霜は腕をつかみ強制的に止める。言葉に真剣さが込められており直は訝しげな顔を向ける。

「少し離れていろ」

「ちょっと! おい!」

 直が慌てて声を上げるがその場に留まらせる、霜には一瞬嫌なものが見えたのだ。まさかと思いつつも霜は近づいていった。不思議なことに霜が近くに居てもそのスライムの塊は襲っては来ない、そして霜はジッと見詰め、落ち着かせるように大きく深呼吸をする。指示を送り水練が針を伸ばして一機仕留めるが固まりは蠢くばかりであり、そのことにより霜は確信する。

「なにしているんだ?」

 問いかけを無視して霜は次々とスライムを始末していく、しかしその様子は慎重に行われていた。よく見てみるとスライムの居る位置を正確に突いており、貫かず余分な部分を傷つけないような慎重さであった。

「あ!」

 直が声を上げる、スライムの塊からあるものが見えたのだろう。それは人間の足のようなものであった、靴とジーンズらしきものがドロドロに解かされ張り付き、その形が正に人の足であり、それを見た直が駆け寄る。

「馬鹿! 来るな!」

 霜の静止を振り切って傍まで近づいた直の顔は真っ青であった。

「は、早く助けないと!」

 直が近づく頃にはとスライムの塊が人の形に盛り上がっていた。

「分かっている、だが強引に引き剥がすと皮膚が持っていかれるぞ」

 それ故に水練で的確に核を穿ち分解させているのだ。

「……」

 直が絶句するのも無理はなく、そこにはスライムを全て取り除いて残った人の姿があった。しかしそれは見るも無残な男性とおぼしき人の姿であった。


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