第三話 初めての握手
「昨日は……悪かった…。」
タツキは昨日のことで落ち込んでいた。
「大丈夫。元気出せよ!俺は微塵も気にしちゃいないから。」
「ホントにすまなかった…。」
大分重傷だな…。
「落ち込むのはお前のキャラじゃないだろ?はやく風紀委員にでも喧嘩売ってこいよ。」
俺はタツキに笑い掛ける。
「だから昨日のことはもうお終い!OK?」
「あァ…、解った!もうお終いだ!」
良かった……元気を取り戻してくれて…。
昼休み。
「俺屋上行くから。」
タツキは前の授業で寝ていた。
こいつは頭がいいから問題はないけど。
「お?屋上?前に開けたんだっけか。うし、俺も行く。」
俺とタツキは屋上に向かった。
ドアを開けるとそこには昨日の女の子がベンチに座っていた。
「誰だ?あれ。」
タツキが不思議そうに女の子を見ている。
「またかよ……。」
「またってなんだ?まさか……昨日の女ってのは…。」
「あァ。あいつだよ。」
「あちゃー。うし…、ちょっと待ってろ。」
そう言ってタツキは女の子に走り寄る。
「ちょっとキミ。」
「ハイ?」
「こんな場所でなにしてんの?」
「人を待っているんです。」
多分その人ってのは俺のことだろう…。
「誰?その人。」
「いつもあなたと一緒に居る方です。」
女の子は笑っていた。
俺は溜息を吐き、タツキの元に歩いていった。
女の子は俺を見付けたのか、近くに走り寄ってきた。
「城ヶ崎くん…昨日は御免なさい!」
そう言って頭を下げてきた。
タツキに眼を向けるとこっちを睨んでいた。
解ったよ……兎に角怒らなければいいんだろ……。
「別に…。俺も…その……悪かった…。」
女の子は頭を上げるとニッコリ笑っていた。
「ちょっと…。」
タツキが女の子の方を叩いて屋上の隅に連れて行った。
side竜城
俺は女の子を呼び、屋上の隅に連れて行った。
この子のことを俺はいろんな意味で知っていた。
それはこの子が……1年の中でずば抜けて可愛くて有名だったから。
「キミ…花丘 瑠璃ちゃんだろ?」
「そうですけど…どうして私の名前を?」
そりゃ…だって……あなた有名ですから…。
「ちょっと耳にしただけ。…それとキミに協力して欲しい。」
「良いですけど…何を?」
「郡が女性を忌み嫌うのは知ってるだろ?」
「やっぱりそうだったんですか……私昨日振られちゃいましたから薄々気付いてたんですよ…アハハ…。」
「んな!」
郡が女ごとで何か有ったのかは知っていたが…まさか瑠璃ちゃんに告白されていたとは…。
やつも隅に置けないな…。
「あの…。」
「あ…悪い悪い。そんで続きなんだが…郡は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。完璧男なのだが…。ちょっと理由があって女の子と話せないでいる…。それを治すためにあなたの力をお借りしたい。」
長々と彼女は俺の話を聞いて納得したのか、
「解りました!お力になりましょう!」
と言って承諾してくれた。
「ありがとう。これでやつも少しは過去のことを…。」
「過去?」
「あ!いや何でもない。」
side郡
屋上の隅から竜城と女の子は帰ってきた。
「いんや〜、お待たせお待たせ。」
「先に飯にしてたから良いよ。」
俺はパンを囓りながらタツキ達を見る。
「聞いて驚け……今日からお前を女の子と話せるようにするぞ!」
「遠慮しとく。」
即答する。
「郡……少しはお前も努力しろ。」
「勉強と体力向上の努力は毎日している。」
ハァ…とタツキは溜息を吐いた。
「甘えたことを言うな。お前の我が儘もそろそろ限界があるだろう?」
確かに…最近女性から声を掛けられることがしょっちゅうある。
「逃げることより立ち向かえよ…。な?」
能天気馬鹿らしいな……。
俺はフッと笑って、
「確かにそうかもな…。少しずつだがやってみるよ。」
「それでこそ郡だ!んじゃ手始めにこの子の名前を聞きなさい!」
と言ってタツキは女の子を指さした。
「そういや居たんだっけ。」
「酷いですよ!私のこと忘れないでください!」
女の子は怒りながら俺の胸を叩いている。
そうだな…。
俺もそろそろ覚悟を決めなくちゃな…。
叩いてくる腕を片手で止め、
「名前…教えて?」
と言って微笑む。
女の子は頬を赤くして、
「花丘…瑠璃です…。」
そして俺は手を差し出した。
その手を瑠璃は両手で握ってきた…。
「これからも宜しくお願いしますね!」
「こちらこそ宜しく。」
こうして俺は異性と初めての握手をした。