↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

勇者と魔王の魔王軍討伐

作者: よみなぎ
掲載日:2026/10/29

「勇者よ。そなたに魔王軍の討伐を命じる」


「はっ! 必ずや魔王軍を打ち破ってご覧に入れます!」


 王城の謁見の間で、私は力強く答えた。


 ついに来た。勇者として聖剣を授かって三年。魔物退治や盗賊討伐を重ねてきたけれど、今回は国家の存亡を懸けた大仕事だ。相手は十万の魔王軍。国境に集結し、人間の国への侵攻を準備しているという。


「うむ。では、今回の旅の仲間を紹介しよう。魔王殿だ」


「…………はい?」


 国王陛下が玉座の横に視線を向けた。そこには黒い衣装をまとった、二本の角を持つ男が立っていた。


「余が魔王だ。よろしく頼む、勇者よ」


「陛下! 今、魔王軍の討伐とおっしゃいましたよね!?」


「うむ。魔王軍の討伐を命じたのであって、魔王殿の討伐を命じた覚えはないぞ」


「そういう問題ですか!?」


「そういう問題だ。実は魔王殿、現在は亡命中でな。部下に国を乗っ取られたそうだ」


 私は魔王を見た。魔王は重々しく頷いた。


「余は国を追われた」


「魔王なのに!?」


「魔王でも追われるときは追われる」


 なんだか妙に世知辛い話だった。


◇


「つまり、四天王が反乱を起こしたんですか?」


「そうだ。余は人間との全面戦争を望んでおらぬ。国境を守り、交易を続ければ十分だと考えていた」


「魔王なのに?」


「魔王だからこそだ。戦争をすれば兵が死ぬ。民も死ぬ。国庫も空になる。征服した土地の統治も面倒だ」


「……ごもっともです」


 謁見を終えた私は、王城の一室で事情を聞いていた。魔王は真面目な顔で説明を続ける。


 四天王は人間国家への侵攻を主張し、反対する魔王を追放した。そして魔王の命令を偽造し、軍を掌握したという。


「魔王国では、余の命令がすべての軍令に優先する。だが、すべての兵士に直接命令するわけではない。四天王が命令を伝える仕組みを悪用したのだ」


「それなら、直接兵士たちに命令すればよかったのでは?」


「誰が裏切り者なのか分からぬ状態では危険だった。姿を現した瞬間、四天王の直属部隊に囲まれる可能性がある」


「そこで我が国に来たわけだ」


 国王陛下が地図を広げた。


「魔王殿から事情を聞き、我が国の諜報部隊を貸し出した。二か月かけて国境付近の魔王軍を調べさせたのだ」


 陛下は国境の砦を指さした。


「この砦の司令官は、反乱に加担しておらぬと確認できた。ただし、周囲には四天王の監視役がいる。そなたには魔王殿を送り届け、監視役を排除してもらいたい」


「その後は?」


「国境軍を取り戻し、各地の部隊を順次帰順させる。最後に四天王とその直属部隊を討伐する」


 私は地図を見つめた。


「……つまり、魔王軍を討伐するために、魔王軍を味方につけるんですね?」


「そういうことだ」


 陛下が満足そうに頷いた。


 私は魔王に向き直る。


「分かりました。魔王様、よろしくお願いします」


「うむ。頼りにしているぞ、勇者よ」


 こうして、勇者と魔王の奇妙な旅が始まった。


◇


「魔王様。もう少し目立たない格好をしてください」


「これでは駄目か?」


「角が出ています。帽子をかぶってください!」


 王都を出発して三日目。私は早くも頭を抱えていた。


 魔王は普通の旅をしたことがなかった。宿屋では金貨を十枚も差し出そうとするし、食堂では店員に礼を言われて驚くし、街道を歩く商人たちを珍しそうに眺めている。


「魔王国では、王が街道を歩くことなどないのでな。こうして民の暮らしを見るのも悪くない」


 魔王は道端で荷車を修理している商人に近づき、巨大な荷車を片手で持ち上げた。


「これでよいか?」


「ひいいっ!?」


「魔王様! 普通の人は荷車を片手で持ち上げません!」


「そうなのか。では両手で持つべきだったか」


「そういう問題じゃありません!」


 ……この人、本当に国を治めていたのだろうか。


 いや、王としては有能らしい。道中で魔王国の事情を尋ねると、街道の位置から軍の補給拠点まで驚くほど詳しく答えてくれた。国境の村の名前を挙げれば、主な産物まで知っている。


「よく覚えていますね」


「余の国だからな。王が自分の国を知らずに、どうやって治める?」


 私は思わず笑った。


 最初は魔王と旅をするなんて冗談じゃないと思った。でも、一緒に歩けば分かる。この人は悪の化身なんかじゃない。少し常識がずれていて、自分の国が大好きな王様だ。


「勇者よ。そなたは、なぜ勇者になった?」


「困っている人を助けたかったから、でしょうか」


「ならば、余と同じだな」


 魔王が静かに笑った。


 私は少し考え、頷いた。


「……そうかもしれませんね」


◇


 国境の砦が見えたのは、出発から五日目の朝だった。


 黒い城壁には魔王軍の旗が翻っている。約三千の兵士が駐屯する砦だ。司令官は魔王への忠誠を失っていないが、周囲には四天王の監視役がいる。


「魔王様。ここから先は私に任せてください」


「承知した」


 私たちは商人を装って砦に近づいた。しかし、門の前で兵士に止められる。


「何者だ!」


「旅の商人です。司令官様に大切なお届け物がありまして」


「届け物?」


「はい。こちらです」


 私は隣の魔王を指さした。魔王が帽子を取る。


「余が魔王である」


 兵士たちが凍りついた。


 次の瞬間、門の内側から怒号が響く。


「偽物だ! 捕らえろ!」


 黒い鎧の男たちが飛び出してきた。四天王の直属部隊だ。


「やっぱりいましたね」


 私は聖剣を抜いた。


 男たちが一斉に襲いかかる。最初の一人の剣を弾き、次の一人を柄で打ち倒す。三人目が放った魔法は、聖剣の光で切り裂いた。


「ば、馬鹿な!?」


「私は勇者ですから!」


 残る男たちも次々と倒した。誰一人、魔王には近づけなかった。


 騒ぎを聞きつけ、白髪の将軍が現れる。


「何事だ!」


 将軍は魔王を見るなり足を止めた。


「……陛下?」


「久しいな、将軍」


「ま、魔王陛下……!」


 将軍が膝をついた。周囲の兵士たちがざわめく。


「本物なのか?」「陛下は極秘任務中では……?」


 魔王が一歩前に出た。


「全軍、聞け! 余は魔王である!」


 その声が砦に響き渡った。


「四天王は余の命令を偽造し、軍を私物化した。人間への侵攻命令は、余が下したものではない! これより四天王の命令をすべて無効とする。偽命令に従っていた者の罪は問わぬ!」


 将軍が剣を抜いた。私は一瞬身構える。


 しかし、将軍は剣を地面に置いた。


「魔王陛下に、忠誠を!」


 兵士たちが次々と膝をつく。


「魔王陛下に忠誠を!」「陛下、ご帰還万歳!」


 歓声が砦を揺らした。


 魔王は静かに頷いた。


「これが、余の軍だ」


 その顔には王としての誇りがあった。


◇


 国境軍の奪還に成功すると、事態は一気に動き始めた。


 将軍が各地の部隊に使者を送り、魔王の帰還を伝える。魔王自身も軍を率いて進軍した。


 最初は三千人。次の砦で五千人、その次の軍団で一万人が帰順した。


 もちろん、すべてが順調だったわけではない。四天王の直属部隊が進路を塞ぎ、使者を捕らえようとすることもあった。


 そういう相手は私の仕事だった。


「勇者よ。あの門を突破できるか?」


「任せてください!」


 聖剣で城門の錠前を砕く。


「勇者よ。あの監視塔を無力化できるか?」


「はい!」


 光の斬撃で魔法装置を破壊する。


 そして魔王が兵士たちの前に立つ。


「余が魔王である。武器を収めよ」


 兵士たちは次々と従った。


 一般兵たちは、もともと魔王の命令に従っているつもりだった。本物の魔王が現れれば、正しい命令に従うだけでいい。


 進軍を始めて十日。私たちの軍勢は六万人を超えていた。


「……魔王様。私、魔王軍を討伐するために来たんですよね?」


「そうだな」


「なのに、魔王軍が増えているんですけど」


「余の軍だからな。頼もしくなったであろう?」


 魔王が満足そうに笑った。


 私はため息をついた。でも、不思議と嫌な気分ではなかった。


 敵だったはずの軍隊が、次々と味方になる。しかも、一般兵をほとんど傷つけずに済んでいる。


 こんな戦い方があるなんて、考えたこともなかった。


「魔王様。あなたと組んで、よかったかもしれません」


「余もだ、勇者よ」


◇


 魔王城に到着したとき、私たちの軍勢は八万を超えていた。


 残る二万の中核は、四天王とその直属部隊だ。城壁の上から、四人の魔族がこちらを見下ろしている。


「魔王様! 今さら何をなさるおつもりか!」


 中央の大男が叫んだ。


「余の国を取り戻しに来た」


「ははは! 我らの精鋭と城の防衛設備を相手に、勝てるとでも?」


 魔王が私を見る。


「勇者よ。城内には民間人もいる。無差別に攻撃するわけにはいかぬ」


「分かっています。私が道を開きます」


 私は聖剣を抜いた。


「こういう仕事は得意なんです!」


 城門へ向かって走る。四天王の直属部隊が立ちはだかり、無数の魔法が飛んできた。


 私は聖剣を振るい、光の壁で魔法を弾く。そのまま敵陣に飛び込み、兵士たちの武器を次々と弾き飛ばした。


「道を開けなさい!」


 光の斬撃が敵陣を切り裂く。


 城門の前に到達した私は、聖剣を振り上げた。


「せえええいっ!」


 轟音とともに巨大な門が砕け散る。


 その向こうには四天王が待っていた。


「……まさか、ここまで来るとはな」


「こんにちは。魔王軍の討伐に来ました」


 私はにっこり笑った。


「あなた方が、今回の討伐対象ですね?」


「ふざけるな!」


 四天王が一斉に魔力を解放する。凄まじい圧力が押し寄せた。


 私は聖剣を構える。


「魔王様!」


「うむ!」


 魔王が城門をくぐり、右手を掲げた。


「四天王よ。余が命じる。武器を捨て、降伏せよ!」


「馬鹿め! 我らが貴様の命令に従うとでも!」


「そうか。では、余の軍に命じる。反逆者を討て!」


 城門の外から、八万の魔王軍が進軍を開始する。


 四天王の顔色が変わった。


「なっ……!」


 魔王が私を見る。


「勇者よ。先陣は任せた」


「はい!」


 四天王が襲いかかってきた。


 大男の斧を受け流し、魔法使いの呪文を斬り裂く。背後から迫る槍をかわし、剣士の攻撃を弾き返した。


 四人同時の攻撃はさすがに手強い。


 しかし、魔王が隣に立った。


「勇者よ。右の魔法使いは詠唱中に動けぬ」


「了解!」


「左の剣士は三度斬った後に隙ができる」


「分かりました!」


「中央の大男は、怒ると周囲が見えなくなる」


「それは見れば分かります!」


 魔王の助言は的確だった。四天王の戦い方を知り尽くしている。


 私はまず魔法使いの懐へ飛び込み、杖を叩き折った。剣士の三連撃を受け流し、隙だらけの胴に一撃を叩き込む。槍使いは魔王の魔法で動きを封じた。


 残るは大男だけ。


「馬鹿な……! 我ら四天王が、こんな小娘に!」


「小娘で悪かったですね!」


 大男が巨大な斧を振り下ろす。私は真正面から聖剣を合わせた。


 轟音が響き、地面が砕ける。それでも私は一歩も退かなかった。


「あなた方は魔王様の命令を偽造して、戦争を始めようとしたんですよね?」


「我らには力がある! 人間など征服すればよい!」


「じゃあ、その力で私に勝ってみなさい!」


 聖剣に魔力を込める。


 光が爆発し、大男の斧が砕け散った。私はそのまま踏み込み、聖剣の柄で大男を打ち倒す。


 四天王、全員戦闘不能。


「……終わりましたね」


「見事だ、勇者よ」


 魔王が隣に立った。


 城壁の外では、八万の兵士たちが武器を掲げている。


「魔王陛下、万歳!」「陛下、ご帰還万歳!」


 歓声が大地を揺らした。


 魔王は城を見上げ、深く息を吐いた。


「……帰ってきた」


 その声は、少し震えていた。


 私は微笑んだ。


「お帰りなさい、魔王様」


 魔王も心から嬉しそうに笑った。


「ただいま、勇者よ」


◇


 魔王城奪還から七日後。


 私は王都に帰還し、国王陛下に報告した。


「勇者よ。任務、ご苦労であった」


「はっ! 魔王軍の討伐、完了いたしました!」


「魔王殿は?」


「無事に復位されました。四天王は捕縛され、直属部隊も武装解除。魔王軍は正規の指揮系統に戻っています」


「素晴らしい。魔王殿からも正式な和平条約の申し入れが届いておる」


 陛下は満足そうに頷いた。


 私も胸を張る。


 魔王軍十万を相手にして、実際に戦ったのはほんの一部。それでも国を救い、戦争を防ぐことができた。


 勇者として、これ以上の成果はないだろう。


「ところで、勇者よ。次の任務がある」


「はい!」


「魔王殿から正式な外交使節の派遣要請が届いておる。そなたを大使に任命したい」


「…………はい?」


「魔王殿が、ぜひそなたを指名したいと」


「陛下! 私は勇者ですよ!?」


「うむ。魔王軍を討伐した勇者だ」


「外交なんて専門外です!」


「魔王殿とは仲がよいのであろう?」


「……まあ、それは」


「ならば適任だな」


 陛下が満足そうに頷いた。


 私は頭を抱えた。


 魔王軍を討伐したら、魔王国の大使になった。


 ……勇者って、何だったかしら。


 でも、少し考えてから笑った。


 あの魔王なら、きっと歓迎してくれるだろう。今度は戦争のためではなく、平和のために会いに行く。それも悪くない。


「分かりました、陛下。お引き受けします」


「うむ。頼んだぞ」


 こうして私の新しい任務が決まった。


 魔王軍を討伐した勇者として、今度は魔王国との友好を築くために。


 ……ただし、魔王様。


 次に会ったときは、宿屋の料金について、もう一度しっかり教えてあげるつもりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。