表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/87

■第6章 第3節:広げる手(中)

外の音は途切れなかった。土を掘る音、木を打つ音、短く交わされる合図の声。それらが一定のリズムで重なり、白花の薬屋の周りに一つの流れを作っている。昨日まで静かだった場所が、今ははっきりと“動いている”。


シャーロットはカウンターの内側に立ち、その流れを一度だけ見たあと、視線を手元に落とした。外で動いている人たちを見ているだけでは意味がない。自分ができることをやる。それだけだ。


「……やろうか」


小さく呟く。


クロエが答える。「何を作成しますか」


「疲れを抜くやつ」


短く答える。


クロエは一瞬だけ考える。「回復ポーションの軽量版ですか」


「うん。強くしすぎない」


今必要なのは戦うための回復じゃない。動き続けるための支えだ。体に負担をかけず、少しだけ軽くする。それだけでいい。


シャーロットは薬草を取り出す。昨日採ったものと、店にあったもの。種類は多くないが、組み合わせれば足りる。


「……これと、これ」


指先で選ぶ。


柔らかい葉。


少しだけ苦味のある茎。


水分を含む根。


クロエが確認する。「刺激、低。適合します」


「うん」


乳鉢に入れる。


ゆっくりと潰す。


力を入れすぎない。


リズムを一定に。


外の音とは別の、小さな音が店内に響く。


リナがその様子を見ている。


「……作るの?」


「うん」


シャーロットは答える。


「外の人たちに」


リナは外をちらりと見る。


人が多い。


動きが多い。


「……そんなに必要?」


「必要」


迷わず言う。


「今は、動き続ける方が大事」


リナは少しだけ考える。


完全には分からない。


でも、否定もしない。


シャーロットは手を止めない。


潰す。


混ぜる。


水を少し足す。


粘りを見て調整する。


「……クロエ、水」


「はい」


差し出される。


量は少なめ。


薄くする。


濃すぎないように。


「これくらい」


シャーロットが言う。


クロエが頷く。「適正濃度です」


完成。


だが、これで終わりではない。


「……もう一回」


同じ工程を繰り返す。


量を増やす。


一人分では足りない。


外には何人もいる。


「……多いね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「作業人員、増加中です」


「だよね」


シャーロットは軽く息を吐く。


でも、止めない。


手を動かす。


二つ、三つと作る。


少しずつ並べる。


「……これでいけるかな」


「初動としては十分です」


「うん」


シャーロットは一つ手に取る。


カップに移す。


持ちやすい形にする。


「……行ってくる」


「同行します」


クロエが動く。


二人で外に出る。


音が一気に強くなる。


作業の真ん中に入る。


木を運ぶ男たち。


土を掘る人。


指示を出す老人。


その中に、シャーロットが入る。


少しだけ目立つ。


だが、邪魔ではない。


「……これ」


近くの男に差し出す。


「疲れ、少し抜けるやつ」


男は手を止める。


カップを見る。


「薬か?」


「軽いやつ」


男は少しだけ迷う。


それから、受け取る。


一口飲む。


顔をしかめる。


「……苦いな」


「だよね」


シャーロットは少し笑う。


男はもう一口飲む。


それから、軽く肩を回す。


「……あれ」


小さく言う。


もう一度腕を動かす。


「……軽いな」


シャーロットは何も言わない。


ただ、次を差し出す。


別の人に。


「これも」


同じように渡す。


受け取る。


飲む。


反応は似ている。


「……なんだこれ」


「少し楽だ」


短い言葉。


でも、十分だった。


クロエが横で言う。「効果確認」


「うん」


シャーロットは頷く。


次々に渡していく。


無理に勧めない。


必要な人にだけ。


老人のところへ行く。


「これ」


差し出す。


老人は一瞬だけ見る。


「薬か」


「軽いやつ」


同じ説明。


老人は受け取る。


飲む。


表情は変わらない。


だが、少しだけ首を回す。


「……悪くない」


それだけ。


でも、それで十分だった。


「続けろ」


短く言う。


シャーロットは頷く。


「はい」


それ以上はない。


それでいい。


リナが店の前から見ている。


シャーロットが外で動いている。


人に渡している。


会話している。


その光景は、昨日までとは違う。


「……すごい」


小さく呟く。


ミアはまだ眠っている。


でも、その呼吸は穏やかだ。


外の音にも慣れてきている。


シャーロットは一度店に戻る。


カウンターに戻る。


「……足りないね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「追加作成が必要です」


「うん」


再び作る。


同じ手順。


同じリズム。


でも、少しだけ速く。


外の流れに合わせる。


「……これで回るかな」


「補助としては十分です」


「うん」


シャーロットはもう一度外を見る。


人が動いている。


止まらない。


その流れに、自分の作ったものが少しだけ混ざる。


それでいい。


全部を支える必要はない。


少しだけ支える。


それだけで、流れは続く。


「……いいね」


ぽつりと呟く。


クロエが答える。「はい」


リナはその様子を見ている。


「……私も、何かできる?」


小さく聞く。


シャーロットは手を止める。


少しだけ考える。


「……水、配れる?」


リナはすぐに頷く。


「できる」


「じゃあ、それ」


シャーロットは容器を指す。


「無理しないで」


「うん」


リナが立ち上がる。


まだ少し不安定。


でも、止まらない。


一歩、外に出る。


その動きは小さい。


でも――


確かに“参加”していた。


シャーロットはそれを見て、少しだけ笑う。


「……いいね」


小さく言う。


クロエが答える。「はい」


白花の薬屋の周りは、


ただの工事ではなく、


一つの流れになっていた。


そして、その中に、


シャーロットたちも、確かにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ