■第14章 第5節:余韻
夜。
店を閉めたあとの静かな時間。
「おつかれさまー!」
ミアが伸びをする。
リナが帳簿を閉じる。
「本日も問題ありません」
クロエが確認する。
「誤差、最小」
シャーロットは道具を洗い終え、杖も軽く拭く。
水滴を落とす。
いつもと同じ動作。
それが一つ増えただけ。
特別なことは何もない。
「明日も同じでいけそうだね」
ミアが言う。
リナが頷く。
「はい」
クロエが続ける。
「安定運用可能です」
シャーロットは小さく言う。
「うん」
それで終わる。
――
それぞれの時間。
灯りが落ちる。
静かな夜。
シャーロットの部屋。
机の上に、杖が立てかけられている。
昼間と同じ場所。
何も変わらない。
ベッドに入る。
横になる。
目を閉じる。
少しだけ間。
手が、自然に動く。
杖に触れる。
そのまま引き寄せる。
軽く抱える。
昨日と同じ。
強くはない。
ただ、そこにあるだけ。
「……」
何も言わない。
呼吸が落ち着く。
静かなまま。
そのまま、眠る。
――
朝。
目が覚める。
杖は、ベッドの横にある。
手から離れている。
シャーロットはそれを見る。
数秒。
それから、何も言わずに起き上がる。
杖を持つ。
いつもの場所に戻す。
それだけ。
――
店が開く。
「いらっしゃいませー!」
ミアの声。
リナの応対。
クロエの管理。
シャーロットの手。
流れは変わらない。
杖もそこにある。
特別ではない位置。
必要なときに使う。
それだけ。
――
過去は、そこにある。
だが、引きずらない。
今の中に組み込まれている。
それで十分。
白花の薬屋は、今日も回る。
静かに。
確実に。




