■第13章 第6節:杖
町へ向かうのは、いつも通りの用事だった。
素材の補充。
日用品。
足りないものを揃えて戻る。
特別な理由はない。
通りは相変わらず賑わっている。
人の流れに紛れて、四人は歩く。
「今日はどこから行く?」
ミアが聞く。
リナが答える。
「先に道具屋です」
クロエが補足する。
「消耗品も不足しています」
シャーロットは頷く。
「うん」
短く。
それだけで十分だった。
――
道具屋の前を通る。
木製の看板。
外にも商品が並べられている。
いつも通り、横を通り過ぎる――はずだった。
シャーロットの足が止まる。
ほんのわずか。
だが、確実に。
「……?」
ミアが気づく。
「どうしたの?」
シャーロットは答えない。
視線を、店の外に向けている。
そこにあった。
立てかけられた一本の杖。
飾り気は少ない。
実用的な形。
握りの部分に、わずかな擦れ。
見慣れたもの。
クロエがすぐに反応する。
「……一致」
短く言う。
「形状、摩耗、魔力痕」
リナが小さく息を呑む。
「……まさか」
ミアも見る。
「これ……」
言葉が続かない。
シャーロットは、少しだけ近づく。
触れない。
ただ、見る。
数秒。
そのまま。
クロエが静かに言う。
「一致率、ほぼ一〇〇%」
断定。
間違いない。
シャーロットが使っていた杖。
あの時、返すように言われたもの。
今は――
商品として並んでいる。
店主が声をかける。
「お、気になるか?」
軽い調子。
「いい杖だぞ、それ」
何も知らない声。
「最近入ったばかりでな」
シャーロットは何も言わない。
視線を外さない。
店主が続ける。
「中古だが、状態は悪くねぇ」
「魔力の通りもいい」
説明する。
それは事実だった。
クロエが小さく言う。
「性能、良好」
リナが視線を落とす。
ミアは何も言えない。
シャーロットは、少しだけ手を伸ばす。
触れる直前で止まる。
そのまま、手を下ろす。
何も言わない。
「他も見てくか?」
店主が軽く言う。
シャーロットは首を振る。
「いい」
短く。
それだけ。
そのまま踵を返す。
歩き出す。
ミアが少し慌ててついていく。
「……いいの?」
小さな声。
リナも後ろから言う。
「……あれ」
言葉を選ぶ。
クロエは一言。
「不要です」
はっきりと。
事実として。
シャーロットは歩く。
止まらない。
答えない。
ただ――
一度だけ、振り返る。
ほんの一瞬。
それだけ。
すぐに前を向く。
「行こう」
短く言う。
それで終わる。
通りの音が戻る。
人の流れに混ざる。
何も変わらない。
だが――
一つだけ、確実に残った。
過去が、そこにあった。
手の届く場所に。
それでも、まだ触れない。
それでいい。




