■第13章 第4節:日常は止まらない
調査の男が帰ったあとも、店の流れは変わらなかった。
「次の方どうぞー!」
ミアの声が響く。
リナが注文を受け、クロエが在庫を確認する。
シャーロットはカウンターの奥で手を動かし続けている。
さっきのやり取りは、もう空気の中に溶けていた。
「ストロング、体力二つ」
「ライト一本も追加で」
注文はいつも通り。
リナが淡々と返す。
「承知しました」
ミアが瓶を渡す。
「はい、どうぞ!」
客が受け取る。
「助かるよ」
それで終わる。
何も変わらない。
だが――
「……町で見たやつより、全然違うな」
カウンターの前で、冒険者が言う。
リナが視線を上げる。
「町のものをお使いになりましたか」
「試しにな」
男は肩をすくめる。
「名前同じだから買ったけど、別物だった」
はっきりと言う。
クロエが静かに言う。
「確認されています」
男は頷く。
「だろうな」
瓶を軽く振る。
「こっちは安定してる」
それだけで、評価は決まっている。
別の客も口を挟む。
「俺も見たぞ、あれ」
「安いけど、効きが微妙だった」
「結局こっち来た」
自然な流れ。
ミアが小さく言う。
「バレてるね」
クロエが答える。
「時間の問題でした」
リナが静かに言う。
「品質で分かれます」
それだけ。
シャーロットは何も言わない。
ただ、次のポーションを仕上げる。
均一な液体。
揺れがない。
「……やっぱり違う」
客が小さく呟く。
それを聞いて、また別の客が並ぶ。
流れは止まらない。
――
昼を過ぎる。
客の波が少しだけ落ち着く。
ミアが大きく息を吐く。
「はー……」
「疲れた?」
リナが聞く。
「ちょっとだけ!」
すぐに笑う。
クロエが帳簿を見る。
「本日も安定しています」
淡々とした報告。
シャーロットは火を落とす。
砂時計をひっくり返す。
次の準備。
ミアが言う。
「さっきの人、また来るかな」
リナが答える。
「来ると思います」
クロエが補足する。
「再来店率、高」
理由は明確。
効果が違う。
それだけ。
――
夕方。
村人が増える時間。
「今日も一本お願い」
「はい」
ライトポーションが動く。
日常の回復。
いつもの光景。
その隣で――
「ストロング三つ」
冒険者が言う。
同じカウンター。
違う用途。
ミアが小さく言う。
「混ざってるね」
リナが頷く。
「両方必要です」
クロエが続ける。
「役割分担されています」
白花の薬屋は、二つの流れを同時に回している。
村の日常。
外の戦闘。
どちらも止めない。
――
店の外。
夕焼けの中で、何人かが話している。
「ここが本物か」
「町のやつとは違うな」
「名前だけじゃ分かんねぇな」
小さな声。
だが、確実に広がっている。
本物と偽物。
その差は、少しずつ認識され始めている。
――
店内。
シャーロットは手を動かす。
変わらない。
何があっても。
外がどう動いても。
やることは同じ。
作る。
整える。
渡す。
それだけ。
クロエが言う。
「現状、問題ありません」
リナが頷く。
「はい」
ミアが笑う。
「なんとかなってるね!」
シャーロットは小さく頷く。
「うん」
短い返事。
それで十分だった。
外は少し騒がしくなっている。
だが、ここは変わらない。
その差が――
逆に、はっきりとした“強さ”になっていた。




