■第13章 第2節:偽物の中身
通りを少し外れた場所。
人の少ない路地に入る。
「……ここなら大丈夫かな」
ミアが小さく言う。
リナが頷く。
「人目は少ないです」
クロエはすでにさっきの瓶を手に持っていた。
シャーロットは壁際にしゃがみ込む。
「見る」
短く言う。
それだけで作業に入る。
瓶の蓋を開ける。
中の液体を少しだけ取り出す。
匂いを確認する。
「……薄い」
小さく呟く。
クロエが続ける。
「成分濃度、低」
「抽出不完全」
リナも覗き込む。
「色も違いますね」
わずかに濁っている。
均一ではない。
ミアが言う。
「でも、普通の人なら分からないかも」
正直な感想。
クロエが答える。
「はい」
「外見での判別は困難です」
シャーロットは指先で液体を軽く触る。
魔力を少しだけ流す。
反応を見る。
「……弱い」
はっきりと。
クロエが頷く。
「回復量、通常未満」
「ばらつきあり」
結論は明確だった。
リナが静かに言う。
「完全な偽物ですね」
シャーロットは首を振る。
「違う」
短く否定。
三人が見る。
シャーロットは言う。
「作ろうとしてる」
それだけ。
完全な粗悪品ではない。
真似している。
だが――
届いていない。
クロエが補足する。
「工程再現失敗」
「精度不足」
ミアが言う。
「なんでできないの?」
単純な疑問。
シャーロットは少し考える。
「揃ってないから」
短い答え。
クロエが続ける。
「温度管理なし」
「時間管理不十分」
「魔力調整不安定」
今までの問題と同じ。
リナが頷く。
「だから、ばらつくんですね」
シャーロットはもう一度液体を見る。
「危なくはない」
クロエが同意する。
「最低限の安全性は確保されています」
「致命的な欠陥なし」
ミアが少し安心したように言う。
「じゃあ、大丈夫?」
クロエは少しだけ間を置く。
「……いいえ」
はっきりと。
「問題は別にあります」
リナが言う。
「名前、ですね」
クロエが頷く。
「白花の薬屋と表記されています」
「品質との乖離」
つまり――
名前と中身が一致していない。
シャーロットは瓶を閉じる。
「……そのまま使う人もいる」
小さく言う。
リナが言う。
「効果が弱いと、誤認される可能性がありますね」
クロエが補足する。
「評価低下リスク」
ミアが少し不安そうに言う。
「それって、まずくない?」
シャーロットは立ち上がる。
「見る」
それだけ。
今は判断しない。
クロエが頷く。
「情報収集優先」
リナも同意する。
「広がり方を確認します」
ミアはまだ少しだけ気にしている。
「……でも、なんかやだね」
素直な気持ち。
シャーロットは答えない。
ただ、瓶をポーチに入れる。
証拠として持っていく。
通りへ戻る。
町は変わらず動いている。
人も、物も、噂も。
白花の薬屋の名前も、その中に混ざっている。
本物と偽物。
まだ、大きな差は見えていない。
だが――
このままなら、いずれ混ざる。
シャーロットは歩く。
止まらない。
焦らない。
ただ、状況を見ている。
それで十分だった。




