008 壱章 其の捌 ゴブリン集落に潜入せよ
本作は『異世界転生剣豪伝〜転生しても宮本武蔵でした〜』の大幅改稿に伴う、改稿前エピソードのアーカイブ(旧約)です。
現在メインで更新している最新版とは、描写の密度や展開が異なる箇所がございます。最新の物語、および続きをお読みになりたい方は、以下の【本編】よりお楽しみください。
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待合室で椅子に腰を落ち着けた瞬間、ノック。
扉が開き、受付職員に続いて男が入ってきた。
支部長――ギルドマスターとも言う。
彼は無言で、テーブルにクエストカードを広げる。
「ん?何だこのカード」
受付に持って行ったクエストカードは
【オーガ10体の討伐】
【ミノタウロス1体の討伐】
【場所指定:ガーゴイル2体の討伐】
【場所指定:人面樹20体の討伐】
【場所指定:ドライアドへの貢ぎ物】
の5枚だったが、1枚増えている。
【ヘカトンケイルの存在確認かつ討伐】
このクエストを直接依頼したくて、支部長が一緒に待合室まで来たようだ。
「ヘカトンケイル……100の腕を持つ魔神だったか?」
「そうだね」
ラークの言葉にマルボが答えた。
「そんなのがいるのか?」
「憶測ではありますが…」
「そうか……」
腕を組み考えるラーク。
マルボが口を挟む。
「ヘカトンケイルって過去に二、三体討伐されたって文献読んだけど、大規模クエストだよ。A旧数十人だった」
「どんな奴なんだ?」
「詳しい事は分からない。討伐の履歴があるだけだったから」
またも一考するラーク。
「魔物増加の原因をヘカトンケイルと結びつけたのか?」
「はい。それもありますが、巨大な頭を見かけたと言う報告もありまして……」
「なるほどね。強くて大きな魔物がいる可能性は高いってことだね」
「ふむ。どういうことでござるか?」
「強いのが出ると、弱いのが押し出される。結果、街の近くが危なくなる」
「なるほど、縄張り争いでござるな」
「とりあえず、この話は置いといて、支部長さん。ムサシは10歳だが冒険者登録可能か?昨日魔人を討伐したのは知ってるだろ?」
「それは知ってますが、この街では10歳登録の制度は設けてないのです」
「げっ……」
暫く静寂。
「他の街で登録すれば良いのでは無いですか?」
ケントがマルボに耳打ちする。
「いや、魔人討伐の証明が無いから何かまた結果ださないといけなくなるんだ」
マルボが返す。
「では、紹介状を書くのはいかがでしょう。内部の紹介者には責任も付きますので、本来書きたがる者はおりません」
「ん?」
「ですから……」
「ヘカトンケイル探して来いってか?」
ニヤリと笑い頷く支部長。
「そちも相当の悪よのう」
突然のムサシの一言。
「ブハッ」
絶妙の発言にマルボは吹き出す。
「マルボ、お前昨日ムサシに何を教えたんだ」
「酔い潰れたラークが悪いんだよー」
「拙者は嘘は言っていないでござるよ」
「ブーッ」
マルボは笑いをこらえるために俯き震えていた。
支部長は苦笑いをしながら様子を伺っている。
「すまない支部長さん。ムサシが変な言葉を色々覚えて使いたがっているだけで、悪気は無いんだ」
支部長もムサシの噂は色々知っているようで、苦笑いをするだけであった。
「あのー……」
受付職員の女性が話しかけて来た。
「このクエストの様子も見て来ていただけないでしょうか」
【場所指定:ゴブリン集落の殲滅】
受理印が捺されてある。
「これは?」
「今朝、貼り出されてすぐに6人組パーティが受注して行ったのですが……」
「6人なら問題無いと思うが?」
このクエストはE級冒険者のパーティでもクリア出来る程度のものである。
しかし、この職員は顔を曇らせている。
ラークが首を傾げながら問うと、 クエストを受理した受付嬢が説明を始めた。
「この子達は新米なのです。15歳になってそこまで経っていません」
「あぁ、慣れた頃ゴブリンの集落で全滅ってのは、よくある話だな。でも、それは3人くらいのパーティの話しだぞ」
「いえ…それだけではなく、この子達は全員孤児なのです。同じ孤児院の妹分が本日5歳になったので盛大に誕生日を祝おうと張り切って受けたのです」
「入れ込みすぎを心配してるのか?」
「その5歳の女の子を、解放の儀式を終えた後、見掛けていないんです」
「馬鹿野郎!先にそれを言えよ!とにかく全部引き受けた」
そう言い残しラークは瞬く間に待合室を飛び出て行った。
「お2人は正面突破をお願いするでござる」
続いてムサシがマルボとケントに告げてラークを追う。
「早いなー2人共」
「私達も行きましょう」
「いや、ちょっと待って。受付嬢さん、その5歳の女の子の特徴とか教えてくれる?」
マルボは情報を集めてから合流する事にした。
ゴブリンの集落ならラーク1人で十分であり、さらにムサシもいる。
過剰に戦力を投入するより、落ち着いて情報収集をすべきである。
ムサシが走るラークに追いつき話しかける。
「ラーク殿、ゴブリンの集落に“ゴブリン以外”の種族が住んでいるという事はあり得るでござるか?」
「普通ならありえないな」
「普通なら……でござるか。拙者が先行しよう。拙者が魔物の注目を集めるので、ラーク殿は女の子や冒険者達を頼むでござる。」
「了解だ」
ムサシは音を立てずに気配を殺し集落の入口に近づく。
そして、そのまま集落の中に入っていった。
ラークも別の位置から集落の中に入って行く。
女の子や新米冒険者達が捕まっていた場合、正面から突入すると女の子達に危険が及ぶ可能性がある。
また、ゴブリン以外の種族がいた場合も状況が激変する。
マルボとケントに正面突破をお願いしている。
撹乱の為だが、彼等が到着する前に女の子・新米冒険者達の位置だけでも確認しておきたい。
集落の中心辺りまで進むと、想像だにしなかった光景にムサシは目を丸くする。
ラークも別の位置から現場を覗き驚きのあまり声が出てしまった。
「どういう事だよ?」
辺り一面に多くのゴブリンの屍が転がっている。
冒険者らしき少年少女が6人、戦闘不能のようだが命は無事のようだ。
中心には牛頭を持つ人型の魔物。
ミノタウロス。
体躯は3メートルを超え筋肉隆々の肉体を持っている。
武器は身の丈程ある巨大な斧。
そして、一番驚くべき事は、ミノタウロスの対峙している相手。
身の丈に合わない剣を構えた幼女である。
ラークは咄嵯にその場から離れ、木陰に隠れ様子を観察する。
「なんなんだあの子は?」
ラークは呟く。
ミノタウロスと対等に渡り合う幼女。
見た目は5歳位の“銀髪”である。
「あの娘は一体何者でござるか?」
いつの間にか隣に立っていたムサシが問う。
「俺にも分からない」
「とりあえず助けるでござるか?」
「そうしたいところだが、飛び出すには位置が悪い」
ミノタウロスは隙あらば冒険者達を攻撃しようとしている。
6人に致命傷を与え隙を作り、この場を逃げようという魂胆だろう。
それを防ぐ為、幼女は防戦一方のようだ。
魔物は基本知能は高くないのだが、このミノタウルスは多少の知恵はあるようだ。
「一撃で倒せば事故は無いな」
「拙者がやるのでラーク殿はフォローを」
「了解だ」
ミノタウロスが幼女と間合いを取る為、後ろに下がった。
「今でござる!」
ムサシはすかさずミノタウロスに攻撃を仕掛ける。
「二天円明流・流追線!」
「はぁ?」
ムサシは飛び上がりミノタウロスまで一気に間を詰め落下速度を利用して強烈な一撃を叩き込む。
ミノタウロスは一撃で見事に絶命。
どこかで見たような技と、聞いた事のある技名の響きに思わずラークは突っ込みを入れる。
「なんだ、今のは?」
「うむ、昨夜マルボ殿に聞いた逆刃刀の剣士の技を自分なりに使ってみたでござる」
「……あの野郎、何教えたんだ……」
「どうでござろう?中々の威力でござろう」
「……そうだな…」
「では、この子達を介抱するでござる」
「……そうだな…」
ラークは考える事を止めた。




