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004 壱章 其の肆 ムサシの過去

本作は『異世界転生剣豪伝〜転生しても宮本武蔵でした〜』の大幅改稿に伴う、改稿前エピソードのアーカイブ(旧約)です。


現在メインで更新している最新版とは、描写の密度や展開が異なる箇所がございます。最新の物語、および続きをお読みになりたい方は、以下の【本編】よりお楽しみください。


【本編・最新版はこちら】 https://ncode.syosetu.com/n5417ig/

または【タイトル上の”異世界転生剣豪伝”シリーズから移動】


 入口は屈んで入るほどの狭さだが、中に入るとかなりの広さがあり天井も高かった。


 ところどころに水晶のような鉱石があり、差し込む日の光が反射し目視できるほどの明るさがある。


 中には川も流れていて、魚が泳いでいた。


 川の底にも水晶のような鉱石があり、水面と鉱石の乱反射でボンヤリと光っている。


「ほぉ〜」


 まさに幻想的といえる洞窟内の景色に、思わずラークから感嘆の声が漏れた。


 少し奥に進むとすぐにムサシの姿が見えた。

 ムサシの奥に巨大な山羊の魔物が横たわっている。

 大きく立派な角をはやし美しい毛並み、立ち上がれば神々しさを感じる姿であろう。


 一瞬警戒したラークだが、ムサシの様子を見て警戒を解いた。

 ムサシはこの山羊の魔物を介護しているように見えたのだ。

 そのまま近くの岩に腰を掛けてしばらく様子を伺う。


 やがてマルボとケントの二人がやってきた。


「これどういう状況?」


「ムサシがあのでかい山羊の世話してんだよ」


「なんで?」


「知らね。でも、あいつ、怪我で瀕死みたいだぜ」


「あの山羊ってアマルテアじゃない?」


「え?あの神獣って言われるやつか?」


「うん、図書館にあった本に載ってた」


「随分弱っているようですが、あの状態でどのくらい生きてるんでしょうか……」


「……」


 アマルテアとは山羊の神獣と呼ばれ凶暴性はなく、森の奥地に生息し人間に害を与えることはない。


 しかし、素材として非常に高価に取引されるため稀に狩りの依頼が出される事がある。


 討伐報告は数十年に一度あるくらいだ。


 希少種でもあり神獣として認識している者が多いため依頼を受ける者は少ない。

 知性が高く数々の魔法を使いこなし強固な肉体を持つため討伐自体も難しい。


 そのアマルテアが弱って横たわっている状況が三人には理解できなかった。


「親だ」


 ムサシが呟くように言った。


「え?」

「ムサシさんは羊から生まれたのですか?」


 ケントの発言にそれは無い無いと首と手を振るジェスチャーでラークとマルボは返す。


「たぶん育ての親って事だと思う。ギリシャ神話で幼いゼウスを乳で育てた山羊もアマルテアって言うんだ。

 この世界ではギリシャ神話に出てくる魔物も沢山いるから、アマルテアが人の子供を育てるって話もありえるかもしれない」


「ギリシャ神話って何ですか?」


「あぁ、ケントの前世は北欧っぽいからな」


「この世界の魔物ってさ。人間を敵視するでしょ……」


 マルボが話しをはじめた。

 ラークとケントはよくこの話をマルボから聞くので分かっているのだが、マルボにとって大事な事らしく黙って聞いている。


「僕達の前世地球では、野生の動物でも理由が無かったら人間を襲う事は少ないよね。

 お腹を空かせてたり、縄張りを侵されたり、恐怖を感じていたりって必ず理由があるだろ。

 でもこの世界の魔物は人間というだけで理由無く襲ってくる。

 この世界のシステムが不思議で仕方ないんだ。

 今、目の前のアマルテアは人間と共存している。余計不思議だよね……」


「二人共力を貸してくれる?」


 そう言いながらマルボはアマルテアに近づいて行った。


「治せるのか?」

「二人が力を貸してくれたらね」


 マルボはムサシに退がるように促し、アマルテアの近くで片膝をついた。

 地面に添えた手から白い魔法陣が現れアマルテアを囲む。


「私達は何をすればよいですか?」


 ケントはマルボの隣で片膝を着いて尋ねる。


「ケントは回復魔法を、ラークは強化魔法で魔法陣を強化して」

「了解だ」


 ラークが魔法陣に手を添えると魔法陣がより白く輝いた。

 続いてケントの体が光り出し魔法陣の輝きはアマルテアを包み込む。


「安心して。大丈夫だから」


 目を見ながらマルボが言うとアマルテアは優しい笑顔を返したように見えた。


「まずは化膿を浄化」

「体内の病原菌の駆除」

「左脚の再生」

「体力回復」


 マルボが言葉を発するたびにアマルテアの体は眩い光を発し、瞬く間にアマルテアは元気を取り戻した。


「……」


 ムサシは驚きのあまり声が出なかった。


 ふと頭の中に声が聞こえる。

 アマルテアが思念を飛ばし直接頭に話しかけてきたようだ。

 言語ではないのでアマルテアの伝えたい事を直接理解できるというのが正しいだろうか。


 言葉では発する者の言語力と受ける側の理解力で伝わり方が変わってしまうことがある。

 伝えたい事をありのままに伝える能力。


 この能力があれば、人間はすれ違う事は無いのかもしれない。

 いや、分かり合おうとする努力自体が人間に与えられた課題なのだろうか。

 ラークはそんな事をふと考えた。


◆◆◆◆


 アマルテアの思念によると、ムサシは生まれてすぐに親に捨てられたようだ。

 ムサシの強い力を感じとり、この赤ん坊を死なせてはいけないと察して育てることにした。


 ムサシは転生者で前世の記憶を持っているため、

 3歳の頃にはこの辺りの山を駆け巡り、

 6歳の頃には魚を捕まえ街で売っては野菜を買いアマルテアに上げていた。


 1年程前に冒険者の集団に遭遇する。

 多くの冒険者はアマルテアに遭遇すると、見ているだけや拝んだりコミュニケーションをとる程度で終わるのだが、運悪くその冒険者達は挑んで来た。


 ムサシを傍らに判断が鈍り、冒険者を全滅させたもののアマルテアは深傷を負う事になった。

 ムサシを逃してしまえば、冒険者に追いつかれるムサシではないし、アマルテアだけなら冒険者を瞬く間に全滅できたであろう。


 一人の冒険者が子供が魔物に襲われていると勘違いし、助けようとした事に動揺して判断を誤ったのだ。


 片脚を落とし全身も傷だらけで瀕死のアマルテアは生命維持のためだけに殆どエネルギーを使う事になる。

 ムサシは介護のため、薬草に近い野菜を選びアマルテアに定期的に上げていたようだ。


「力を誇示し、力で他の者を傷つける冒険者が嫌いか…」


 ラークが呟くとさらにアマルテアの思念が送られてきた。


 ムサシが前世宮本武蔵の時でも、自己の承認欲求を満たす為に力を誇示し、他者を傷つける者が多かったと。


 そして、ムサシ自身もそういった気持ちが無かったかというと、ゼロでは無かったと自己嫌悪していたと。


 今世では、より自分自身を見つめ心を解決するために時間を費やしたいと思っているそうだ。


「ムサシ、やっぱり俺達と一緒に来るのがベストなんじゃねーかな…」


 ムサシを見てラークは言った。


 アマルテアを助けてくれた事もあり、ムサシは黙って聞いている。


 全快したアマルテアは、後数百年は生きる。


 これ以上ムサシとアマルテアが一緒に暮らしていてもお互いの為にはならないだろう。


 その事はムサシ自身もよくわかっている。


 力を持って転生したということは、何かに使うべき力なのではないだろうか。


 そして3人の旅の目的地は神の神殿に行く事と説明した。


「神の神殿?」


「あぁ、そこでは神と直接交信が出来ると言われている」


「特に転生者は交信出来る事が多いらしいよ」


「交信して何を知る?」


「依頼だから詳しい内容は教えらんね」


 意地悪い顔でラークは答えた。


 みかねてマルボが喋り始める。


「神との交信は自分が知りたい事を教えて貰えるって認識でいいと思う。

 ただし本人が心底知りたいと思う事じゃないと駄目らしい。

 だから依頼者と似たような世界への疑問を持つ僕達が神殿に行くことになったんだ。

 かいつまんで言えることはこんな感じかな」


 そう言ってマルボは話を締めた。


「ムサシ、これだけは言っておく。

 この世界には絶対悪が存在するという言い伝えがある。

 人間にとっての悪ではなく世界にとっての悪だそうだ。

 お前の人生とやかく言うつもりは無いけど、エゴでは無い世界の為の力の使い方があるんだよ」


 ムサシはアマルテアに育てられたため、この世界の言語の習得が未熟である。


 今のラークの言葉はムサシにとって理解し難いものだった。


 察したアマルテアが咄嗟に思念で直訳する。


 アマルテアにとってもムサシに知っておいて欲しい言葉であった

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