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001 壱章 其の壱 宮本武蔵がいるらしい

本作は『異世界転生剣豪伝〜転生しても宮本武蔵でした〜』の大幅改稿に伴う、改稿前エピソードのアーカイブ(旧約)です。


現在メインで更新している最新版とは、描写の密度や展開が異なる箇所がございます。最新の物語、および続きをお読みになりたい方は、以下の【本編】よりお楽しみください。


【本編・最新版はこちら】 https://ncode.syosetu.com/n5417ig/

または【タイトル上の”異世界転生剣豪伝”シリーズから移動】

 ここはファンタジーのような異世界。


 剣を振るう者がいて、魔法を使う人がいる。


 ドラゴンが空を舞い、獰猛な魔物が人々を脅かし、人々はそれらと戦い続けている。


 そんな世界で、冒険者と呼ばれる者たちが登場するのは、ごく自然なことである。


 そんな、とある異世界の森に囲まれた街。


 太陽は西の山々に向かって沈む頃。


 市場には暖かなオレンジ色の光が差し込んでいた。


 市場は活気づき、多くの人々が新鮮な食材や品々を求めて忙しく行き交っている。


 野菜売りの少女が、丁寧に並べた野菜を客に提供していた。


 彼女の笑顔と元気な声は、多くの人々に癒しを提供していた。


 しかし、市場の平和な風景は突如として崩れ去る。


「おいっ!!この果物傷んでるじゃねーか!!」


 大男が木箱をドガッと蹴った。


 木箱が当たりテントの棒が一本折れる。


「俺様を舐めてんのか?B級冒険者様だぞ!」


 怒鳴られた野菜売りの少女は俯いて震えているだけである。


「あれ、傷んでるのを安く売ってるんだよな?」


「ああ、看板に書いてあるぞ。最初から傷んでるって」


 周りのギャラリーが小声で話している。


 最初から訳あり商品として安く売っているのに、このB級と名乗る冒険者はクレームをつけているのだ。


 いや、クレームとは言わない。横暴なカスタマーハラスメントである。


「あぁん!何か文句あるのかっ!」


 B級冒険者の男は怒声を上げギャラリーを威嚇する。


「ある!」


 テントの棒を持った少年が、迷いなく前に出る。


「なんだてめぇは!?ガキは引っ込んでろ!」


 少年は何も言い返さず棒を構えた。


「おおっ!ムサシだ!!やっちまえ!」


「頑張れムサシッ!」


 周りからヤジが飛ぶ。


「ちっ!このガキッ!」


 男は腰の棍棒を大きく振りかぶって、少年に殴りかかった。


 ムサシはスッと避けて、棒の先端で男の首元を打つ。


「ぐあっ!」


 男は卒倒した。


「そんなあっさりかよ…」


「10歳程の子供だぞ…」


「あれがムサシ…」


 歓声が挙がるのではなく、ギャラリー達は小声で話しをしている。


 誰も近寄る事はなく、ムサシは淡々とテントを直している。


「……守った奴が、あの目か…誰かを救った奴の目じゃねぇ…」

 ギャラリーの一人の老人がムサシを見て言った。


 その一言に一瞬眉間に皺を寄せる。


「あの、ありがとうございます」


 先程、絡まれていた野菜売りの女の子だ。


「いや、別に…」


「あの、お母さんに言ってお礼を…」


「いや、いい…」


 その場を離れようと足早に去ろうとすると


「せめてお名前だけでも」


 ふと、前世を思い出すやり取りに笑ってしまうムサシ。


「ムサシ…」


 数歩、歩いたところで


「あ…」


 野菜を買いに来た事を思い出したようだ。


 いまとなっては、先程の野菜売りから買えない…


 明日の昼にまた来ることにした。


 少々不器用なところは前世から変わってないようである。


◆◆◆◆


 ようこそ!


 異世界の扉を開いてくれてありがとう!


 俺っちはエスファリオン!


 この世界の絶対神と呼ばれる存在なのよ。


 無限にある異世界の中から、俺っちの創った世界を選んでくれた君にお礼を言いたいんだぜ。


 何?ちょっと覗いてみただけ?


 まあ良いよ。


 ブラウザバックでもトップページに戻るでも何でも好きにしてちょうだい……


 でも、覗いて見てくれるだけでも俺っち助かるから、長居してくれると嬉しいかな~……


 俺っち、ちょっと困っててさ……


 別の世界から悪い神々が来て困ってるんだよ。


 だから、他の世界の神様にお願いして力を貸してもらってんだ。


 君にも応援してもらえると心強いんだけどなぁ。


 いや、引き留めないよ。


 異世界の扉は無限にあるからね~。


 無限だよ!MU・GE・N!


 無限に存在する異世界には、人間が想像できる全ての世界が含まれているから。


 人間が想像する世界も限りがあるから無限には追いつきようがないのよ。


 だってさ、君の世界中の人々80億の人間がさ。


 100通りの世界を想像しても、8,000億の世界でしかない。


 無限の前ではゼロに等しいの。


 だから他の異世界の扉を開くのもいいよね。


 でもね。そんな無限にある異世界もね。全ての異世界で共通して存在する物があるんだ。


 それはね《愛》という尊きもの!


 この世界もね、愛の力で成り立っているんだよ!


 何?宮本武蔵が転生した姿を見せてくれるんじゃないのか?って?


 そうだよ。ムサシを追っかけるよ。


 何?宮本武蔵に愛はあるのかって?


 あるよ。


 まぁまぁ気になるならゆっくり見ててちょ!


◆◆◆◆


「はぁ~今日も疲れたっぺな~」


「そうだねぇ。でも明日は休みよぉ」


「あ、そういえばそうだっぺ~」


 ギルドの職員二人が仕事終わりに飲み屋に来ていた。


「それにしても凄い子がいたっぺなぁ」


「そうだねぇ。あんな小さな子がB級ライセンスを倒すなんてねぇ。

 しかも一撃ぃ~。噂によると剣聖様の再来とか言われてるみたいだねぇ~」


「でも、ムサシって変な名前だっぺな~」


 急に隣の席の一人が立ち上がった。


「ねぇ、今の話詳しく教えて!」


 二人の会話に興味があるようで、寄ってきた。


 10歳くらいの綺麗な顔立ちをした男の子である。


 飲み屋に子供?と二人は不思議に思うも、


 隣の冒険者風の二人の連れだろうと思い、話をすることにした。


◆◆◆◆


「武蔵だよ武蔵!絶対宮本武蔵だよ!」


 少年は興奮しながら宿屋で二人の男に話す。


「誰ですか?そのミヤモトムサシというのは」


 長身で筋肉質の男が質問する。


「あぁ、俺達の転生前の日本という国の伝説の剣豪だよ」


 答えたのは細身だが引き締まった体のもう一人の男だ。


「そうかー。ケントは日本人じゃなかったし、僕らと生きてた時代も違かったよね。」


「あぁ、たぶんケントは北欧の田舎だろ。俺らより結構昔の人なんじゃねーかな」


「同じ国で同じ時代の二人が珍しいのです」


 見た目と違いケントは優しい喋り方をする。


「ねぇ、ラーク。明日なんだけどさ…」


「……」


 ラークと呼ばれた男は腕を組んで黙考している。


「会ってみるか、ムサシに…」


「よいのですか?明日この街を出ないと船に間に合わないかもしれません…」


 ラークの言葉にケントが反応する。


「行程はだいぶ早く進んでるからな。まぁ次の船でもまったく問題ない」


 ラークはケントに答えた後、独り言のように呟いた。


「会ってみないことにはな……」


 ラーク、ケント、そしてもう一人の少年マルボは冒険者である。


 様々な依頼をこなし生計を立てている者達の総称だ。


 そして3人は転生者である。


 この世界では転生者と呼ばれる存在が複数人確認されている。


 転生者は前世の記憶を持ち、生まれつき特別な力を授かっている。


 前世の記憶を持ったまま異世界に転生する。


 使命があり、この世界の為になる事を行う必要があるはずだ。


 常に考えているのである。


 彼ら3人は志の高い『いい人』なのだ。


 トップクラスの実力の彼らは、人々を救いながら生活している。


 この街の遥か東『首都ダサラ・テポ』で彼らを知らない人はいない。


 彼らは現在、国からの依頼で西へ向かっている最中だ。


 目的地は遥か北西、そこにいけば彼らの使命も分かると言われている。


『宮本武蔵』が転生した人物ならば、自分達と似た使命を持っているかもしれない。


 B級の冒険者を簡単に倒す10歳の子供。


 宮本武蔵で無かったとしても転生者か大天才。


 一緒に旅をして使命を知るべきだ。と思うのである。


 だが、悪人の可能性もある。


 もし、それだけの力を持った人物が悪人ならば、放っておくわけにはいかない。


 仲間に勧誘するにせよ、危険な存在として認識するにせよ、


 ムサシという人物と強さを確認しなければならない。


「とりあえず、明日街を出るのは中止だ。ムサシを探してみよう」


 ラークの決定に二人とも異論は無いようだ。


 ラークの前世は日本人である。


 50歳手前で交通事故で命を落としこの世界に転生してきた。


 長年、武道・格闘技を趣味としており、引越し業を営んでいたため極めて身体能力も高い。


 ムサシの話を聞いてからラークはずっと考えている。


 果たして宮本武蔵は現代のトップアスリートや達人より強いのだろうか。


 もちろん現代とはラークの前世である地球の話だ。


 おそらく、日本人で宮本武蔵の名前を知らない者はいない。


 日本史上最強の剣豪といえば多くの人が宮本武蔵と答えるはずだ。


 しかし、400年も昔の話。


 逸話、誇張、創作、どこまで本当かわからない。


 ありえないのだ。


 科学的なトレーニングや栄養管理により作られた肉体と身体能力。


 さらに長年蓄積された技術の継承。


 論理的に昔の人物が現代の人間より強いはずはない。


 前世のラークは凡人であった。


 だが、現代のトップアスリートや達人の実力をその身で知っている。


 学生時代、武道で本物の天才と対戦した。


「本物の天才とはこういう奴か…」武道で飯を食っていくことを諦める程の実力差を知った。


 全く相手にならないが、相手との距離感くらいは分かるものである。


 夢は破れても好きな武道は続けていた。


 長く続けていると何度か達人と巡り合う。


 何度も天才との差を思い知らされたが、相手の強さを肌で感じ取る事は出来るようになっていた。


 そして異世界に転生した今はトップクラスの冒険者。


 この世界では達人なのだ。


 前世で一度捨てた夢、その時の想いが甦ったような気持ちになった。


「宮本武蔵か…面白れぇ…」


 ラークは笑みを浮かべながら眠りについた。

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