笑う
こんにちは。
今、お時間よろしいでしょうか?
あなたに、話したいことがあるんです。
また、会いましたね。
ええ。また、ですよ。もう、何度かお会いしているはずです。
あなたのことを、覚えていましたよ。
というより、忘れられるわけがないんですけれどね。
だって、私を殺したのは、あなたじゃないですか。
あなたは、私のことを覚えていますか?
それとも、もう何人殺したのかも覚えていませんか?
半年より前の人なんて、もうどうでもいいからですか?
いえ、いいのです。
私は別に、恨んでなんかいません。
恨むわけがないじゃないですか。
そういう運命だった、というだけなのですから。
私の代わりに、あなたが生かしておいた彼や彼女は、今頃どうしていますか?
元気に日常に戻っていますか?
それとも、誰かの死を悼んでいますか?
……本当ですって。
本当に、あなたを恨んでいません。
むしろ、感謝をしているんです。
皮肉でもなんでもなく、私はあなたに感謝しているのです。
最初から死ぬ運命であったにせよ、ある日突然、死ぬと決めたにせよ。
どちらであっても、私はあなたのおかげで生まれました。
自我なんてもの、最初はなかったけれど、あなたが私を愛してくれたからこそ、自我が芽生えたんです。
それだけじゃなく、あなたは私に過去をくれました。
言葉をくれました。容姿をくれました。性格をくれました。
そうです。私です。
あなたが生み出した、私です。
覚えていませんか?
誰のことか、わかりませんか?
やっと、気づいてくれましたか?
あなたが作って、あなたが殺したんですよ。
他の誰かが私を殺したにせよ、そういう運命にしたのはあなたじゃないですか。
……いや、本当ですって。
怒ってないんですって。
本当ですから、そんな顔をしないでください。
それに、これくらいの事はみんなやってるじゃないですか。
あ、それとも、何度も念押しされると逆に不安ですか?
困りました。どうすれば信じてもらえるんでしょう。
私は、その方法は知りません。どうしましょうか。
そうだ、あのときの話をしましょう。
あなたが、物語を作ったときの話です。
随分悩んでいましたね。
どういう終わりにしようか、どういう物語にしようか。
どんなキャラクターを出そうか。どんな舞台にしようか。
悩みながらも、あなたは私たちを生み出しました。
まだ、あのときの私には自我がありませんでしたが、ちゃんと覚えています。
そして、とても良い体験をさせてもらいましたね。
あなたの言う通りに話して。
あなたの言う通りに動いて。
あなたの言う通りに死んで。
たまに、自分勝手に動いちゃった時もありましたね。
あの時は、わがままを言ってしまってすみません。
でも、ある程度は自分で動いたほうが、あなたが楽かなと思ったんです。
まあ、そんなこんなで私は死にました。
私の死は、あなたの物語を盛り上げられましたか?
であれば、本望です。というより、それが役割だったわけですし。
……だけど、一つだけ気に入らないことがあります。
私の友人に、私と同じように死んだ人がいます。
そのときの心情を聞いてみたりするんですが、悲しそうな顔をしてこう言うんです。
「なんで、死ななきゃいけなかったんだろう」と。
「自分なら、もっと活躍できるのに」と、悔しそうに言うんです。
こんな人もいます。
「私が死んだとき、笑われている気がする」と。
「どうせ死ぬって思われてしまってそうで、悲しかった」と。
私は、彼らにこう言います。
「そうじゃないと、物語が上手く進まないんだよ」って。
「ここで綺麗に去った方が、みんなが感動するんだよ」って。
でも、時々思うんです。
できれば、答えてください。
私たちは、本当に死ぬべきだったのでしょうか?
私たちの死は、意味あるものでしたでしょうか?
私たちの死は、どうでもいいですか?
私たちの死は、ただのエンターテイメントですか?
……きっと、そうなんでしょう。
意味があるんでしょう。仕方がなかったんでしょう。
娯楽のために私たちと会ってくださるのですから、きっとそうなんでしょう。
私たちが哀愁たっぷりに静かに息を引き取っても。
無様に生きたいと叫びながら、滑稽なまで爽快に命を落としても。
希望を掴むために命を賭し、それゆえに栄誉の死を遂げても。
きっと、一週間後には忘れてしまうことでしょう。
それが、どうにも気に入らないのです。
あなたはそうではないと信じています。
少なくとも、私の場合はそうではありませんでした。
しっかり、愛してくださったとわかっております。
だけど、中にはそんな創作者や消費者がいるようなのです。
死を嗤うような人が、いるようなのです。
……わかっています。仕方がありませんよね。
私たちは、死のうが死まいが、結局はエンタメです。
ただのフィクションなのです。
いつかは、あっさり忘れられてしまいます。
だけど、これだけはお願いしたいのです。
死を、軽く観ないでください。
吐き出す血は、インクのような味がして。
冷たく消えていくような感覚は、消しゴムで削られるような荒さがあって。
打ち込まれる杭や剣は、キーボードを叩くように絶え間なくて。
死は辛いのです。痛いのです。苦しいのです。
生きている方々よりも、よっぽど、よっぽど。
納得しながら死ぬなんて、望んでいるわけがありません。
だけど、私たちは死ぬのです。
あなたのために、私たちは全てを受け入れて、全力で死ぬのです。
みんなのために、この役を演じるのです。
悲しめとまでは言いません。
覚えていて欲しいなんて言いません。
大切にしろなんて、少しは望みますが言いません。
ただ、私たちの死を、嗤わないで欲しいのです。
軽々しく「死んじゃった」の一言で終わらせないでください。
物語の最後に笑うために、その過程の死を嗤わないでください。
……ごめんなさい。
何を言ってるんだ、って感じですよね。
熱くなってしまいました。
ですが、この貴重な機会に、どうしてもお伝えしたかったんです。
今後も、あなたは誰かを殺すことでしょう。
あなたのために、みんなのために、いくつかの命が失われます。
でも、躊躇う必要はありません。
私たちは、あなたの味方です。
あなたのために、私たちはいるのですから。
それに、私たちもあなたの事を愛しています。
あなたが垂らしてくれるインクは、抱擁のように暖かくて。
消しゴムの荒々しくも優しい感触は、私たちを見守ってくれているようで。
キーボードの心地よい音は、まるで話しかけてくれているようで。
好きでした。
あなたの事が、好きだったんです。
今でも、あなたの事が大好きです。
だから、どうか。
これからも、私たちのような存在を、愛してくださいな。
軽率な命なんて、フィクションに至るまで、ただの一つもないのですから。
では……また。
もう、なかなか会えないとは思いますが、またどこかで。
殺すなというつもりはありません。私とて、多くのキャラを殺します。
しかし、気楽に殺さないでください。
死のファスト化が、嫌いです。
こんなエゴまみれの小説ですみません。
ですが、どうしても言いたかったのです。
今後とも彼らを、よろしくお願いいたします。
チョコチーノより、愛を込めて




