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三題噺もどき4

最後

作者: 狐彪
掲載日:2025/12/24

三題噺もどき―ななひゃくななじゅうなな。

 




 今日も昨日と変わらずいい天気だ。

 空は晴れて、星が輝き、昨日より少しだけ太った月が浮かんでいる。

 冬の空気は冷たくて苦手だが、澄んでいて空が見やすいのは利点かもしれない。

「……、」

 しかし今日は昨日とは違って、風が吹いている。

 勢いよく耳元を通り過ぎる風が、ただでさえない体温を奪っていく。

 どれだけ厚着をしても、体の端々は冷えていくのだから何ともままならない。

「……」

 それに今日は、気分もあまり良くない。

 まぁ、決めたのは自分だし、自分一人ではないだけ、マシなのだが、

 寒いと言うだけで体が強張りそうになるのに、これから、それ以上に強張るかもしれない相手に会うのだ。

 いい気分ではないだろう。

「……」

「……」

 隣を歩く青年は、いつもの小柄な姿ではなく。

 私よりほんの少しだけ身長が高く、いつになく剣呑な空気を漂わせている、私の従者だ。

 昨日、会いに行くと言った後辺りから、あからさまに機嫌が悪い。

 それでも、こうしてついて来てくれているあたり、会うこと自体は許しているのだろう。それも無理なら、そもそも手紙を渡しに見せたりもしない。

「……」

「……」

 あぁ、しかし。

 面倒になってきたな。

 不安とかではない。けして。

 ただ単に、寒いなか、アレにわざわざ会う必要があるだろうかという……。

 だが、会わなければそれはそれで面倒なことになりそうな気もしている。

「っ――さむい」

「……ちょ、歩きづらいです」

 面倒なような、不安なような、どうしたらいいのかまだ迷っているような……そんな気を紛らわすように、ビュウと強く風が吹く。

 寒さをしのげるように、腕に絡みつく。寒さとは全く相容れそうにもないな。

「……ぁ」

「……、」

『……』

 そうこうしているうちに、いつの間にか公園にたどり着いていた。

 見ないうちに、枯葉を散らし、ほとんど丸裸になったような、桜の木の下に。

 真っ白な塊が、ぼうっと立っていた。

 こちらに横顔を向けるような姿勢で、視線だけを、寄越した。

「……」

『……相変わらず仲のよろしいようで』

 なぜ白―と思ったが、まぁ、アレなりの何かがあるのだろう。知ったことではない。

 この時代に似つかわしくない、真っ白な燕尾服のような服を着て、嫌味なくらいに整った顔に、何を考えているのか分からない表情を浮かべている。……そんな事分かりたくもないが。

「…、……、」

 身体が、思うように動かなくなった。

 あの人の前に1人立たされているような気分になった。幼い頃の記憶が次々と蘇ってきた。アレの、あの発言が嘘だと言うことはもうわかっているのに、あの人は関係ないのに。

『……できれば二人で話したいのだけど』

「―――「……その願いがまかり通るとでも思っているんですか」

 なぜか、身体が動かない私の代わりに、応えたのはいつもより低い声だった。

 怒気をはらんだようなそんな声は、あまり聞くことのない音だ。

 おかげで、隣にコイツが居ることを思い出した。

『……まぁ、いいや』

「……それで、話、とは」

 少し、声が震えていただろうか。

 気のせいだと思いたい。

『話という程の物でもないのだけどね』

「……」

 ならばもう、会う必要もないのでは。

 コイツの考えていることは、本当に分からない。

『……ちょっとした挨拶というか、』

 そういいながら、くるりと、身体ごとこちらを見た。

 バチ―と音でもしたかのように視線が合い、無意識に指先に力が入った。

 何を言われる、何をされる、もしや、本当にあの人と。

『……もう、君とは会えなくなった』

「………………は」

 まるで一世一代の告白でもするように、そんなことを口にした。

 歓迎すべきことだろう。過去の傷に塩を塗られるようなことをされて、生活に支障をきたすようにまでなって、その後にも後遺症が残ったような日々を送っていて。

 その上に、手紙をよこして来て、話がしたいと言われ。

 ―何を言われるのかと思えば、もう会えないと。

『……君の母上の名前を使ったのがよくなかったらしい』

「……」

 隣に立つ青年は、ただ静かに見つめていた。

 口も挟まず、気配も殺して、ただ何かがあれば動けるように。

『……本当にあの後は、自宅に帰ったのだけどね』

 それはきっと、あの夜、私が招かれたアレの屋敷だろう。

 収集品をところ狭しと並べ、ただひたすらに美しいモノを並べられた、コレの欲望の塊のようなあの屋敷だろう。

『私の本体というのが、基本的にそこにいるものでね』

 だから、気配がしないのか。

 外にこうして出歩いているのが、仮の姿である以上、気づかないのも納得がいく。そこにモノがないのだから、気づきようがない。空気があることに気付けるのはどれくらいいる。

『……まぁ、それで、帰ったらそれがなくなっていたんだよ』

 ―屋敷丸ごとね。

 はて、あの人はそんなに過激な人だっただろうか。

 自分の名前を使われた程度で、その相手の屋敷をつぶしたり、ましてや手をかけるようなことをするような人だっただろうか。

『……あぁ、君の母上ではなくて、その母上に取り入っている他の連中のせいだよ。その中に過去に収集した物の御身内がいたみたいでね』

 つまりは。

 自業自得という事か。

「……自業自得ですね」

 ぼそりと小さく呟いた声は、怒りの中にほんの少しの憐れみが見えた。

 何か思うところがあったんだろうか。

『……まぁ、だからそのうちこの僕も消える、というかまぁ、今日が限界かな』

 そう言われて、よく見れば。

 端の方は、もう既に消えかかっていた。

 その、本体というのが消えた―殺された後にもこうして残れるのは、それが当たり前の生き方をしていたおかげだろう。それでも限界がある。皮がなければ。

 それで最後に会いに来るのが、私なのは意味が分からないが。

『……まぁ、コレで気にせず、散歩にも行けるだろう?』

 そう少し馬鹿にするように笑いながら言って、次の瞬間には。

 その白い塊は消え去っていた。

 今日というか、この夜が限界だったのだろう。

 これで、私が来なければどうするつもりだったんだろう。

 ―最後に見たのが、あの三日月のような歪んだ唇ではなかったのは、幸いか。

「……」

 なにも、惜しむことでもない。

 散々私にしてきたことを思えば、清々したと思ってもいいくらいだ。

 むしろ思っている。清々した、これ以上、縛られずにすんで。

「……」

 それなのに。

 どうして。

 何かが抜け落ちたような気持ちになるのだろう。

 裏切られてばかりだったのに。

「……」

「……ご主人」

 声に引き上げられ、意識が戻される。

 冷たい風が吹き、耳の端を駆け抜けていく。

 指先はほとんど白くなり、ただでさえない血の気が失せていく。

「……帰りましょう」

「……あぁ、うん」

 この気持ちは、明日になれば忘れているだろうか。

 アレの居なくなったことは、私に何を残したんだろうか。

 私は、何を失ったんだろうか。

 隣を歩くコイツは、何を思っているんだろうか。

「……」

 ただ冷たい風の吹く中。

 さっきより少しだけ、くっついて帰った。





「……ココアでも飲みますか」

「……甘めで頼む」

「……マシュマロ多めに入れておきますね」

「それは入れすぎだ」











 お題:不安・桜・挨拶

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