僕いらんくね?
「……まったく……! なにしてるのさユウ……! そんな危険なことして……!」
「守るべき人がいると、どんな相手でも下がれないものなんだよ〜……」
「ユウが守られるべき人でしょ普通!? ユウ体弱いんだから! 妹ちゃんも甘えない!」
:妹? え?
:姉の間違いでは?
架夜に叱られてしまった。
……い、いや、でも、レディーファーストって言葉がありましてね……。
だから男である僕よりも女の子を優先的に守るべきなのであって……? ってオイ! 何で声に出ないんだよ僕! 論破される気しかしないんだけども……!
「……妹ちゃん、確かに怖いのかもしれないけどさ。ユウを見なよ。あんな身長で立ち向かったんだよ? どのくらい怖いか分かる? どのくらい危険だったか分かる? 妹ちゃんが甘えてたら、ユウ無駄死にしちゃうよ?」
「……ぁ……ヤダ……」
「そうでしょ? だーいすきなユウの為に、力を出すときだと思うんだよ」
「うんっ……!」
:あっ向かってった
:突撃ー!
……え、えーっと……? よく分からないが、これが覚醒イベントってやつなんですかね……? いや、何してんの架夜。
「……なに人の妹を危険な目に晒そうと」
「……いや、妹ちゃんの強さ的に、ユウが無駄死にするか妹ちゃんが怪我するかだよね絶対?」
「ぐぅ」
「ぐぅの音が出ちゃった……」
:本当に妹なんだ
:いや本当にか?
……架夜に諭されちゃったよ。こ、ここは兄として妹の成長を見守るべきなんだ。うん。
「……というか妹ちゃんって本当にユウの妹なんだよね? 姉じゃなくて?」
「……言われ慣れたよ」
「なんかごめん」
:ごめんなさい
:すまんかった
:↑ええんやで
:↑やさしいせか……いや誰だお前
……悠花は炎のヤツに立ち向かって、何かを叫んだ。
「てらごっどうるとらすーぱーはいぱーあるてぃめっとぎがんてぃっくおーばーふろーかおすおめがぶりざーどぉぉ!」
「「えっそれ技名!?」」
「ダッッサ!?」
……妹のネーミングセンスが終わっていた。
すんごいあたまわるい技名だ……。
い、いやそんなこと言ったらダメだな。
あと鈴那さん、妹の技名を罵倒しないでください。
そ、そんなクソダサ……んんっ、妹の技が炎のヤツに当たり、炎のヤツはめちゃくちゃ苦しんで退散して言った。
「……あ、逃げてった」
「あとは氷のヤツだけか」
「氷のヤツ……?」
「……プラオシュネヘン!」
残るは氷のヤツのみとなった。
こっちに向かってきて、雄叫びを上げた。
雄かどうかは知らないけど。
「てらごっどうるとら(割愛)ぶりざーどぉぉ!」
「本当にその技名でいいの妹ちゃん!?」
「あ、あはは……」
悠花の魔法が直撃し、氷のヤツはとんでもないくらいのたうち回って、逃げていった。
「ふぅ……。これでもう終わっ……」
……何か翼がはためくような音がした。
何の音だと思ったら、周りが真っ暗になる。
「アッ……怖い……」
「妹ちゃん!? まぁこの大きさは仕方ないけども……!」
音がした方を見ると、全長80m近くある文字通り規格外の大きさをしたドラゴンがいた。
「……ステイステイ。ユウは休んでて」
「え」
:えじゃないが
:死んじゃうからやめて
……僕が少しでも役立とうとしたら、架夜に全力で止められた。
……ま、まぁいいもんね! 僕なんて居ても居なくてもほとんど変わらないし!
「……見た目的に……シュリッツヘンかな? でも大きすぎるし、大きさの割に弱っているし……そもそも何でこんなところに……」
シュリッツヘン(Schlitzchen)。
和名はクロイナヅマツバサタツ(黒雷翼龍)
フィリピン、ベトナム、マレーシア、奄美大島などに生息し、本来は本州……どころか鹿児島にまで北上することはない。だが、何故かここ……本州にいる。
口から高電圧の電流を吹き出し、当たった相手を感電させるという、とんでもないドラゴンだ。あ、こいつも例に漏れず雷のヤツと呼ぶことにしよう。
「……というかドラゴン来すぎでしょ、どうなってんのここ」
……ドラゴンなんて、日本全国でも平均一日で一匹目撃されるかされないかくらいだ。しかも、その大半は森林の奥地や海上である。
三匹も、それも人のいる場所にいるなんて事はとても珍しい。
「……まぁ考えてても無駄だし、戦ってるところ見とこっと」
やっぱり架夜と鈴那さんだけで勝てると思えない大きさだ。目に収まりきらない。だからといって僕は何も出来ない。
鈴那さんが何か液体のようなものを操り、雷のヤツにぶつける。だが、雷のヤツはビクともしていない。
「……あー、あれ毒か」
鈴那さんの能力は……確か毒物操作……だっけな。だから、あれは多分毒をぶつけてるんだろう。
「……てか気づいたら滅茶苦茶なことになってる……面白いから写真撮っとこ」
見づらくて気づかなかったが、雷のヤツの体がとんでもない事になっていた。言語化は難しいが、首は体にめり込み、体はキモい曲がり方をして……あれ、なんかまた形変わった。モザイクみたい……。
はっきり言ってバグみたいで怖い。
「……あ、これがカヤの能力か」
架夜の能力は支離滅裂。
文字通り何でも支離滅裂にできる。
発動してる所なんか見た事無かったが、こんな気持ちの悪い能力だったのか……。
「……何であれ喰らって生きてるんだよ」
……雷のヤツは動いていた。
原型無くなってたのに何で生きてるのだろう……?
……雷のヤツは口から雷属性っぽいビームを放って、二人を薙ぎ払う。
……ってあれ? なんかこっちにそのビーム来てない?
「ユウっ!?」
ビームは僕に当たった。
……わけはなく、気づけば手が動いていて、ナイフを投げていた。
ナイフは金属製である。
そして、雷……というか電気を、金属は流しやすい。
つまりだ。ナイフに向かって放電させておけば、僕には当たらない。
「……いや、まぁ。ビームが雷属性じゃなかったら死んでたし、やってることも無茶苦茶だけども」
実際にはナイフに流れる電流なんてほんのわずかだろう。普通、僕にビームが直撃はせずとも当たるはず。
……何で僕に当たってないんだろうか……?
「……ゆ、ゆーか〜? またボク死ぬとこだったよ〜……?」
「!? あっ……」
僕がそういうと、悠花は慌てて立ち上がる。
後悔はしたくないと思ったのか、雷のヤツに立ち向かった。
「てらごっど(以下略)ぶりざーどぉぉ!」
「……」
またとてつもなくダサ……んん、な魔法を放ち、雷のヤツはものすごい雄叫びを上げて倒れた。討伐成功?
しかし、倒した時のドラゴンの場所が、もう少しズレていたら潰れていただろうな……。
「……いやボク何もしてないな」
全部悠花が倒してるし、僕はダメージすら与えてない。本当に何もしていない。
「おつかれユウー」
「あっうんおつかれ……それボクの台詞な気がするけど」
というか、こんなデッカイの倒せるとか、悠花の能力は凄いなぁ……。
流石はて、てらごっど、うるとらすーぱーはいぱー……えっと……あ、あるてぃめっとぎがんてぃっくおーばーふろー……かおす、おめが……ぶりざーど……。
いや本当に何でこんな技名にしたんだ妹よ!?
長いからブリザードだけにしなさい!
「あっ、素材剥ぎ取って防具とか武器とか作れるかな……!?」
「ゲーム脳だね〜。ボクもそうだけども」
:強そう
:こんだけあったらできるやろな。
鈴那さんがそんなことを言う。
……剥ぎ取れるか……? 大きすぎて難しくないかな? いや、ナイフあるから出来るけども。
「今日は龍肉だぁ!」
「……それ美味しいかな〜……!? 変な味しそうじゃないかな〜?」
「コイツで武器作るぞぉー!」
架夜がおかしくなってる。
「……あれ」
剥ぎ取ろうにも、カッチコチに固まっていて刃が通らない。また、冷気も感じる。
「……い、妹ちゃんー?」
「……てへぺろ」
「許す」
「許すんだ……」
:てへぺろ可愛い
:ただユウちゃんのほうが可愛い
:↑なんだお前
:↑↑それは当たり前なんだよ
……どうしようもないことが分かったから、とりあえず帰宅しよう。
◇
家でゴロゴロしながらニュースを見ていると、インターホンが鳴る。
『今朝は本当に申し訳ありませんでしたーっ!』
『暴れてごめんなさーい! 煮るなり焼くなり、炊くなり水に晒すなり刻むなり調理してください……!』
「何で調理限定……!?」
二人の女の子だった。
片方は白くてとても長い髪に、赤い瞳。
あと翼と白蛇みたいな尻尾がある。
もう片方は蒼く長い髪に薄灰色の瞳。
翼があって、角みたいな髪飾りもしてる。
……誰? いや、まぁ、察せはするんだけども。こういうのってどうせ……。
『あ、貴方をぶっ飛ばておいて、……その、大事な部分を見てしまい申し訳ありません……!』
『もっとはっきり言えよ……こ、コイツが貴方を……その……女性だと思い込んで裸を見た挙句、男性器を見てしまい……申し訳ありません……』
「あー……え?」
……た、多分、炎のヤツと氷のヤツだろう。
で、でも……本当なら、僕の裸……を?
……まさかあの固まってた時、僕の息子を?
え? 透視できるの?
『……〜っ!』
『ホムラがやらかしたことだろ!? 我は知らないからな!?』
『と、友達でしょ〜!? 見捨てないでよ〜! あと発端はユキが……』
なんか喧嘩しだしたんだけど……。
「ちょっと止まって? え? 君らあのドラゴン……?」
『そうですけど……』
『はい……?』
「おーけー、深く考えない」
ドラゴンって女の子になれるんだな〜。
いやならねーだろ。質量保存の法則と生物学どこいった。
『……ああ、ドラゴンが人間の姿になるなんて事は珍しいですからね。知ってる中では我とホムラくらいです』
……へー。ドラゴンって人間の姿になれるんだなー。
じゃねーよ。質量保存の法則はどこいったって訊きたいんだけど!?
『あぁ、頭を切り離して細胞分裂やら色々をして、人の形にしてます。体の方はミンチにして虫共の餌にしてやってるんですよ』
「どうなってるのドラゴンって……」
やけにグロいなぁ!?
……え、えーっと、とりあえず、聞く限りは彼女らは人間の生活をしていくんだって。
シュリッツヘン Schlitzchen
学:Draco Philippinarum
爬虫網 有鱗目 翼龍科 翼龍属 雷龍亜属
和名:クロイナヅマツバサタツ(黒雷翼龍)
全長8~25m 体重6~17t程度
生息域:フィリピン、ベトナム、奄美大島、マレーシア
全身から高電圧の電流を流す。魔法は使えない可能性が高い。平安時代初期は日本に生息していた可能性がある。