ドラゴンさん暴れてるんだって
ミアは家にあった、使われていない部屋で眠ることになった。僕のベッドで寝るみたいな事にならなくて良かった……。
……バタバタとした足音が聞こえ、ノックされる。
「お、お兄ちゃん……大変だよ……!」
「……? なにさ悠花……。部屋に入ってくるなんて珍しい……」
「そんなことよりテレビ見てよ……!」
「テレビ?」
悠花に言われ、テレビを付ける。
すると、あるニュースが流れた。
[◇◇市★★町204通りにて、大型の魔物が暴走したとのことです。12人が行方不明、47人が重傷、16人が軽傷]
……魔物、それも大型の魔物がダンジョン以外にいることは滅多にない。
ドラゴンのような一部の例外を除くが。
それよりも……◇◇市★★町204通り?
ここ◇◇市★★町なんですけど。
[魔物はプラオシュネヘンと見られ、全長10m程と推定されています]
プラオシュネヘン(Blauschnechen)。
和名はアオユキツバサタツ(青雪翼龍)
勿論聞き馴染みなんかないと思うから、説明しておこう。
まず、こいつはドラゴンである。
南日本の平原、中国南東部、東南アジアに生息し、体の表面は低温に弱い。
和名の通り体は青くて翼があり、氷の息を放ってくる。普通に飛んで空から戦うこともあるのだとか。
[再度情報が入り次第……た、只今速報が入りました。さ、先程……204通りにフォイシュランヘンと見られる魔物も出現したとの事です……! 全長は18mほどと見られ……]
あっまたなんか沸いた……。
フォイシュランヘン(Feuschlanchen)。
和名はヘビホムラツバサタツ(蛇炎翼龍)
主に北日本の山間部、満州、ウラル以東のシベリアなどに生息し、体の表面は高熱に弱い。……日本の個体は亜種らしく、高熱に強いらしいが。
体が蛇みたいに細長いけど、四肢と翼があり、口から炎の息を発する。
プラオシュネヘンと非常に仲が悪く、殺し合いになることもあるのだとか。多分そうなるだろう。……大抵泥沼と化すが。
「お兄ちゃん……。どうする? 逃げる? 倒しに行く?」
「倒せるわけないじゃ……いや、悠花の能力でいけるのか……?」
悠花の能力は絶対零度。
最大-273℃まで冷やせるとの事だ。
……完全な絶対零度にはならないらしいけども、-273℃なら何でも凍る。
「……まぁ、倒せるでしょ」
とりあえず倒しに行こう。
横文字で区別が付きづらいと思うので、氷のヤツと炎のヤツで呼ぶことにする。
いいかな? いいよね?
◇
現場につくと、想像通り氷のヤツと炎のヤツがバチバチに争っていた……わけではなく、何故か協力し合っていた。
「……わぁ詰んだ」
「諦めないでよお兄ちゃん……。一応私がいる―――」
「ブレス来てる!」
「へ?」
悠花の方に向かって、炎のブレスが飛んできていて、掠れば死んでいただろう。だが、別に避けなくても当たりはしなかった。
「あっぶな……だ、大丈夫だった悠花?」
「こ、こわい……」
「……いつも感情ないくせにこういう時だけビビるんだから」
悠花はガタガタと震えて、丸まっていた。
いつも無表情のまま変な事言う妹とは思えない。
……それで、僕が……アレを倒せと? はぁ〜、勝てるわけないじゃん……。
「……僕だって怖いし、身長差だってあるから……悠花よりももっと怖いのかもしれないんだけどなぁ……? でも……そんな僕でも一応、お兄ちゃんだから下がれないや……」
妹がこんなに怯えていて、僕がそれより怯えてちゃ兄として恥ずかしい。
僕も怖い。武器は通用しないだろうし、身体能力も高くない。
足も震えてるし、声だって裏返っているかもしれない。
「妹に……息なんて当てさせないからな」
とても無謀だし、一発当たれば死ぬが……ダンジョンのメスガキムーヴみたく、体が勝手に動く。
「……あっははははははははははは。笑っちゃうよ。自分が滑稽で。阿呆で。でも体が動いている。口だって勝手に喋ってる」
話しても聞く相手はいないし、ドラゴンだって日本語を理解しているのか分からない。
これは独り言でしかない。
「滑稽だからこそ。阿呆だからこそ。下がれないんだ……! 日和ってるわけにはいけないんだ……!」
ナイフを取り出し、ライトを込め投げる。
……炎のヤツの翼にちょっと掠った。
炎のヤツは反撃してきて、尻尾をこっちに叩きつけてきた。
「うわぁぁぁぁっ!!!」
それに直撃はしなかったが……風圧で吹っ飛ばされた。炎のヤツも呆気なさそうに口を開けていた。
「……あー、動けない。なんでだろ」
地面に叩きつけられ、動けなくなった。
この状態で追撃されたら終わる……。
と思っていたら、炎のヤツは興味を無くしたかのように別の方向を向いた。
「……はは、かっこ悪いな僕。長ったらしい事言っておいて、直接攻撃じゃなく風圧で負けるなんて」
さっきの僕を考えると、乾いた笑いしか出てこない。
でも命は助かってるし……。
体が動かないまま、時間が経っていた。
……すると、誰かの声が聞こえた。
「にいさん、人倒れてるよ!?」
「うわ本当……って、あれ? あの人……」
聞き覚えのある声だった。
声のした方を見ると、リアさんとミチルさんだった。
「……あ、あはは……」
「ゆ、ユウさん!?!?!? ……な、何で倒れてるんですか!?」
「い、いや〜……僕防御力なくてね〜……大体の攻撃ですぐピンチになってね〜……」
「か、回復しないと……!」
「怪我は無いんだけどね〜? ただ怖くて動けないだけで……」
僕の言葉に、二人は意外な一面を見たような顔になる。
僕にだって意外な一面や二面はあるよ(?)。
「……えーっと、皆様。またもや急なコラボ配信となりましたが……」
「コラボ配信……は、配信してたの!?」
「そうですが……」
……コラボ、配信……? 君たち配信してたんだ。
というか何勝手に録ってるんだコラ! 許す!
「……え、え〜っと。さっき無謀な事して炎のヤツの尻尾の風圧に負けたユウで〜す」
「炎のヤツ……?」
「……ふぉ、フォイシュランヘン……!」
……と、とにかく。リアさんとミチルさんがドラゴン討伐に協力してくれるようだ。
リアさんは早速攻撃を仕掛ける。
目にも止まらぬ速さで動き、炎のヤツにダメージを与えていく。
ミチルさんも氷のヤツに攻撃する。
氷のヤツの真下に紅く光る岩が出して、氷のヤツを打ち上げていた。
「つ、つよ……」
僕と比較も出来ないくらい善戦している。
……と思っていたら、炎のヤツが尻尾で薙ぎ払い、二人は飛ばされていた。
「えっ……?」
叩きつけられ、二人は腰が抜けたらしく……動けなくなっていた。お、終わった……。
と思ったら、炎のヤツは二人に興味が無くなったのか、僕の方へと向かってきていた。
「や、やめ……っ」
僕の目の前に来て、睨んでくる。
僕の全身を見渡すかのように顔を動かし、ある一点を見て、凍りついたように固まった。
「……?」
炎のヤツは我を取り戻したように動き出し、そっぽを向いて氷のヤツの方に向かっていった。
「……えっと」
何がしたかったんだろう……?
……で、どうしよう。まぁ今のうちに退散しよう。
ほふく前進しかできないけど。
「……ゆ、ゆーか〜、まだビビってるの〜……?」
「うん……。思ってたよりもおっきかったから……」
「……とりあえず動けないから助けて」
「うん……」
とりあえず安全な場所に移動できた。
えっあの二人? なんか居なくなってるけど?
「……どうするかなぁ。アレ。あんなの放っておく訳にもいかないし」
「でもどうしようもないって……。あんな大きいの勝てるわけなかったんだよ……」
「悠花がそんな卑屈になってるとこ初めて見たかもなぁ……」
いっつも真顔で、若干ズレたような変なこと言ってくるのに……。そんな事言うのか。
真顔なのは変わらず怯えてる……。
いや真顔なの怖いよ。慣れたけども。
「こんな時に都合よく助っ人が来てくれたらな〜」
「助っ人だけでどうにかなるわけ……」
すると、何処かから凄く聞き覚えのある声が聞こえた。
「ユウ! 大丈夫だった!?」
「か、カヤ……!」
架夜と鈴那さんだった。
うん、まぁ。なんとかなるでしょ多分。
多分、きっと、恐らく。メイビー。
プラオシュネヘン Blauschnechen
学:Draco indonesiacus
爬虫網 有鱗目 翼龍科 翼龍属 冷龍亜属
和名:アオユキツバサタツ(青雪翼龍)
全長8~16m 体重4~8t程度
生息域:中国南東部、南日本、東南アジア
口から冷たい息を吐く。その息は氷属性魔法である可能性が非常に高い。
フォイシュランヘン Feuschlanchen
学:Draco sibericus
爬虫網 有鱗目 翼龍科 翼龍属 炎龍亜属
和名:ヘビホムラツバサタツ(蛇炎翼龍)
日本に生息する亜種の学名は以下。
学:Draco sibericus japonicus
全長15~21m 体重2~5t程度
生息域:シベリア、満州、朝鮮北部、北日本
口から可燃性のガスを吐く。火属性魔法で着火している。